始めに
谷崎『刺青』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
象徴主義(ワイルド)と古典主義(スタンダール)、ヴィクトリア朝文学(ハーディ)
谷崎潤一郎は英仏の象徴主義、古典主義からの影響が顕著です。オスカー=ワイルドの作品は『ウィンダミア卿夫人の扇』などを共訳で翻訳していますし、『サロメ』的なファム=ファタールを描いた『痴人の愛』もあります。本作は刺青による娘のファム=ファタールへの変貌を描きます。
スタンダール(『赤と黒』)的な心理劇、古典趣味も谷崎に顕著に影響していますし、またディケンズやウィルキー=コリンズに影響されつつ、ダイナミックなリアリズムを展開したハーディ(『ダーバヴィル家のテス』)からの影響も顕著です。
この辺りはフォロワーの河野多恵子(「蟹」)、円地文子(『朱を奪うもの』)、田辺聖子(「感傷旅行」)などへと継承されます。
ミンネ
本作はフランスのミンネ(宮廷恋愛)のような、徹底的な奉仕の愛が見えます。騎士が高貴な女性にささげるような愛を清吉は女に捧げます。
この辺りはフランス文学の影響が見えます。また『盲目物語』『痴人の愛』に重なります。
職人の世界の美
本作は谷崎が好んだ幸田露伴『五重塔』のような、職人の世界の美を描きます。
露伴は尾崎紅葉と並び立ち、その全盛期は紅露時代と呼ばれ、両者とも江戸文芸を参照しつつ、元禄文学や戯作文学を踏まえた独自の世界を展開しました。
幸田露伴『五重塔』も、自らの理想の五重塔を建造しようとする職人の奮闘を描く物語です。
「刺青」は、清吉という元浮世絵職人の彫り師が主人公で、美女の体に己の魂を彫り込みたいという願望があります。その夢をある日見つけた娘によって果たすのでした。
物語世界
あらすじ
世の中が今のように激しく軋みあわない時分、多くの人々が刺青をしていた中に、清吉という、元浮世絵職人の彫り師がいました。清吉は美女の体に己の魂を彫り込みたいと思うものの、満足する女を見つけられません。
そんな中、駕籠の簾から女の美しい白い足がこぼれているのを見て、清吉は理想の女だと思います。
清吉は、この絵にはお前の心が映って居ると言いながら、処刑される男を眺める妃が描かれた画幅を彼女に見せ、さらに男たちの屍骸に魅せられる若い女を描いた「肥料」という画幅も見せます。怯える娘を麻酔で眠らせた清吉は、彼女の肌に巨大な女郎蜘蛛の刺青を彫ります。
麻酔から覚めた娘は魔性の女になり、清吉にお前は肥料になったと言います。そして帰る前に清吉に促されて、燦爛たる背中を朝日に輝かせます。
参考文献
・小谷野敦『谷崎潤一郎伝 堂々たる人生』(中央公論社.2006)



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