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後藤明生『吉野太夫』解説あらすじ

後藤明生
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はじめに

後藤明生『吉野太夫』解説あらすじを書いていきます。

語りの構造、背景知識

等質物語世界の語り手

 本作品は作者の分身のような等質物語世界の語り手が導入されています。

似たデザインを持つ作品には元ネタの谷崎潤一郎『吉野葛』、ローラン=ビネ『HHhH (プラハ、1942年)』などが見受けられます。いずれも一人称的な視点を生かした歴史記述が展開されていきます。

アナール学派的歴史記述、モダニズム文学

 フレイザー『金枝篇』がT=S=エリオット『荒地』に導入されて以降、作家は語りの手法に民俗学、社会学的アプローチをも積極的に取り入れるようになっていきました。

 フォークナー(『アブサロム、アブサロム!』『響きと怒り』)が用いたアナール学派的な、中央の事件史に抗する心性史としての歴史記述のアプローチは、ポストコロニアルな主題を孕みつつ、ガルシア=マルケス『族長の秋』『百年の孤独』などラテンアメリカ文学などへと継承されていきました。

 本作もそのようなモードを共有しています。

創作プロセスを創作の対象にする

 この作品は、吉野大夫のことに興味をもった小説家が、調査するその過程そのものが小説になっています。こうした構成は谷崎『吉野葛』を踏まえるものです。

 『吉野葛』はフォークナー『響きと怒り』のような、一人称的視点を生かしたフィールドワークによる、文化人類学的歴史記述のアプローチが取り入れられており、そうした側面が戦後のモダニストを刺激したのでした。また批評や小説の創作プロセスを『横しぐれ』『樹影譚』において小説とした丸谷才一、丸谷の私淑した吉田健一(『酒宴』)も谷崎を愛好していました。

 『吉野葛』においてはまた、本来の目的であったはずの小説取材の旅行から脱線して、案内人の津村の縁談の話へと発展するのですが、本作も次第に当初の目的を離れていきます。

ロシア文学的なバロック

 後藤明生は『挟み撃ち』がゴーゴリ「外套」のパロディであったり、ロシア文学のバロックな笑いからの影響が顕著で、本作も同様です。

 ドストエフスキーも「分身」など、さながら私淑したゴーゴリの幻想文学のパロディのような機知に富んだユーモアを展開しましたが、明生文学にもそれは共通します。

物語世界

あらすじ

 語り手は 『吉野大夫』という題で小説を書いてみようとします。有名なあの吉野大夫のことではなく、京都島原の名妓吉野のことではなく、同じ江戸期でも、中仙道は追分宿の遊女だったという吉野大夫のことです。

 語り手は、吉野太夫を調べるものの、様々に脱線を繰り返していきます。

関連作品、関連おすすめ作品

・大江健三郎『水死』、ジャンリュック=ゴダール『ゴダールのリア王』、谷崎潤一郎『吉野葛』:創作のプロセスを主題とする作品。

 

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