始めに
アンドレーエフ『七死刑囚物語』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
アンドレーエフの作家性
アンドレーエフの心理描写や道徳的葛藤の根底には、ロシア文学の伝統が流れています。アンドレーエフの描く狂気や極限状態の人間は、ドストエフスキー的なテーマをよりモダニズムに洗練させたものと言えます。また初期のアンドレーエフはトルストイ的なリアリズムから出発しましたが、後にその枠を超えていきました。
彼はロシア国外の、より不気味で象徴」な表現にも強く惹かれていました。アンドレーエフの短編に見られるじわじわと迫る不条理な恐怖は、ポーのゴシックホラーの影響を色濃く受けています。メーテルリンクにおける目に見えない運命の力や、静止した中にある恐怖を表現する手法は、アンドレーエフの戯曲に大きなヒントを与えました。
アンドレーエフの作品が持つ救いようのない暗さは、当時の流行でもあったドイツ哲学に裏打ちされています。
ショーペンハウアーにおける世界は盲目的な意志に支配されており、生は苦痛であるという世界観は、彼の作品全体を覆うトーンとなりました。アンドレーエフはニーチェに傾倒し、伝統的な価値観が崩壊した後の人間の孤独を描きました。
ゴーリキーはアンドレーエフの才能をいち早く見出し、文壇に引き上げた恩人です。二人の作風は社会派リアリズムと心理的象徴主義で対照的でしたが、初期には社会問題への関心という点で強く共鳴していました。
反死刑制度
アンドレーエフはこの作品を、当時ロシアで吹き荒れていた絞首刑の嵐に対する告発として書きました。法律という名の下で行われる殺人が、いかに冷酷で事務的であり、人間性を剥奪するものであるかを描いています。実際の処刑そのものよりも、処刑を待つ数日間の心理的苦痛こそが真の刑罰であるという側面を強調しています。
作品には、暗殺を企てた5人の革命家と、2人の一般犯罪者が登場します。彼らが死をどう受け入れるかが、この小説の核心です。理想のために死を名誉として捉えようとする者、動物的な恐怖に圧倒されて精神が崩壊していく者、死を前にして他者への深い共感や宇宙的な連帯感を見出す者。アンドレーエフは、社会的な立場に関わらず、死という巨大な壁を前にした人間の魂がどのように震えるのかを精密に描き出しました。
皮肉なことに、死が確定した瞬間から、登場人物たちはそれまで気づかなかった生の断片に強烈な美しさを見出します。獄窓から見える空、最後に見る家族の顔、冷たい空気などが、死の影によって逆説的に輝きを増す様子が描かれます。
物語世界
あらすじ
物語は、ある大臣の暗殺を企てた5人の若きテロリストたちが、密告によって一斉に検挙されるシーンから始まります。彼らに下された判決は絞首刑。ここに、強盗殺人犯のヤンソンと、狂暴な殺人犯ツィガノクという、革命の理想とは無縁な2人の囚人が加わり、計7人の死刑囚が誕生します。
死を待つ数日間、7人はそれぞれのやり方で死という未知の恐怖と向き合います。ヴェルネルは冷徹な知性派で、死を数学的な問題のように処理しようとするものの、最後に人間的な愛に目覚めます。ムーシャは聖女のような純真さを持つ女性で、自分の死を人類のための犠牲として美しく昇華させます。セルゲイは屈強な体力自慢で、死の恐怖を打ち消すために、獄中で必死に運動を繰り返します。ヤンソンは言葉もろくに話せない無知な農夫で、自分がなぜ死ぬのか理解できず、ただ動物的な恐怖に震え続けます。
処刑前日、家族との面会が許されます。英雄として死のうとする子と、それを理解できずただ泣き崩れる親。あるいは、子の死を受け入れようと必死に虚勢を張る親。生者と死者になる者の間の埋められない溝が、残酷なまでに浮き彫りにされます。
深夜、7人は秘密裏に列車に乗せられ、雪深い森の中にある処刑場へと運ばれます。革命家たちは、死を前にして互いに手を取り合い、奇妙な連帯感と静寂の中に身を置きます。対照的に、死を恐れて暴れる犯罪者たち。
しかし、絞首台の前に立った時、彼らの間にある思想の壁は消え去り、ただ死にゆく人間というひとつの存在になります。最後、一人ずつ静かに、あるいは絶叫の中で吊るされていき、残されたのは雪の上に置かれた7つの亡骸と、不気味な沈黙だけでした。




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