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ガルシン『赤い花』解説あらすじ

フセーヴォロド・ガルシン
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始めに

 ガルシン『赤い花』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ガルシンの作家性

 ​ガルシンにとって、ツルゲーネフは最も身近な良き理解者であり、象徴的な師でした。無駄のない端正な文章や、自然描写の美しさはツルゲーネフの流れを汲んでいます。ツルゲーネフは若きガルシンの才能をいち早く認め、彼を励ましました。


 ​ガルシンが描く戦争文学には、トルストイの影響が色濃く反映されています。トルストイの『セヴァストポリ物語』に見られるような、英雄物語ではない、生々しい苦痛としての戦争の捉え方を継承しました。


 ​ガルシンの作品、特に『赤い花』などに見られる狂気や極限状態の心理は、ドストエフスキーの影響があります。

タイトルの意味

 この物語の最大のテーマは、目に見える形となった悪(赤い花)を打ち破るというヒロイックかつ悲劇的な決意です。主人公の患者にとって、庭に咲く真っ赤なポピーは、人類が流してきたすべての血、そして世界に存在するあらゆる悪の結晶に見えています。自分がこの花を摘み取らなければ、悪が世界を飲み込んでしまうという義務感。これは、当時の社会正義に燃える若者たちの情熱と、それが報われない絶望のメタファーでもあります。


​ ​主人公は、花を摘み取ることが自分の死を意味すると確信しながら、あえてその道を選びます。自分の命と引き換えに世界を救おうとする姿は、聖書の殉教者に重ねられています。周囲からはただの精神病患者の奇行に見えますが、本人の内面では人類を救うための聖戦が行われています。この主観的な高潔さと、客観的な悲惨さの対比が、読者の胸を打ちます。


 ​ガルシン自身も精神を病んでいましたが、彼は狂気とは、世界の苦しみに敏感すぎて耐えられなくなった状態であると考えていました。狂人は、普通の人なら見過ごせる世界の不正や痛みを、すべて自分のこととして感じ取ってしまいます。どんなに気高く戦っても、現実の壁には勝てないという、理想主義者の限界と絶望が描かれています。

物語世界

あらすじ

 ​物語は、ある男が精神病院へ連行されてくるところから始まります。彼は極度の興奮状態にあり、自分を全人類のために戦う救世主であると固く信じています。病院の無機質な日常や、他の患者たちの虚ろな姿が描かれる中、彼の内面だけは異常なまでの使命感で燃え上がっています。


​ ​ある日、男は病院の中庭で咲き誇る3輪の真っ赤なケシの花(ポピー)に目を奪われます。この花こそが、世界中の罪なき人々の血を吸い上げ、この世のあらゆる悪を凝縮させた化身だと確信します。もし自分がこの花を摘み取れば、世界の悪は消滅するものの、その邪悪な力を自分の体に吸い込むことになるため、自分は死ぬはずです。


 ​彼は自らを犠牲にして世界を救うため、監視の目を盗んで悪の花を摘み取る計画を立てます。病院のスタッフは、彼がただ花を欲しがっているだけだと思い、近づかせないようにします。しかし、彼は超人的な知恵と執念で監視をかいくぐり、1輪、また1輪と花を摘んでいきます。


 ​摘んだ花をシャツの胸元に隠し、自分の肌に直接触れさせます。​彼は、花から流れ出す毒が自分の体を通って心臓へと流れ込み、自分を破壊していく激痛に耐えます。


​ ​ついに最後の3輪目を摘み取った翌朝、看護師たちは彼のベッドで冷たくなっている彼を発見します。彼の体は極度の衰弱と精神的消耗でボロボロになっていましたが、その表情は、使命を全うしたという不思議な勝利の喜びに満ちていました。


​彼の硬直した手の中には、黒ずんで萎びた赤い花の残骸が握りしめられていました。

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