始めに
カニグズバーグ『クローディアの秘密』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
カニグズバーグの作家性
カニグズバーグは、自身の知的な文章スタイルを形成する上で、いくつかの古典的な作家への敬意を語っています。オースティンは彼女が最も尊敬していた作家の一人です。オースティンの狭い社会を鋭い皮肉と観察眼で描く手法は、カニグズバーグが描く郊外の中流階級の子どもたちの心理に色濃く反映されています。E.B. ホワイトは『シャーロットのおくりもの』の著者です。簡潔で無駄のない、しかし温かみのある散文のスタイルにおいて影響を受けています。ルイス=キャロル 『不思議の国のアリス』のように、理知的でどこか数学的なパズルを解くような物語構成や、子どもを未熟な存在ではなく知的な個人として扱う姿勢に共通点が見られます。
作家ではありませんが、彼女の科学的な目は文学的影響以上に強力でした。彼女は化学の実験と同じように、人間関係も観察し、分析するものと考えていました。主観的な感情に溺れず、登場人物の行動を客観的に、かつ精密に描写するスタイルは、彼女の理系としてのキャリアから来ています。
カニグズバーグにとっての最大の教科書は、彼女自身の3人の子どもたちでした。彼女は、当時の児童文学にありがちだったいい子や冒険好きといったステレオタイプではない、少し生意気で、知的で、内省的な現代の子どもをリアルに描くために、自分の子どもたちの会話や行動を徹底的に観察しました。
タイトルの意味
主人公のクローディアが家出をした最大の理由は、単なる不満ではなく、自分が誰であるか、昨日までと同じ自分ではない自分を見つけたいという切実な願いでした。彼女は、長女としての役割や、単調な毎日に埋もれてしまう自分に耐えられませんでした。彼女がこだわったのは、家出から戻ったときに家出前と全く同じ自分であってはならないということでした。外見ではなく、内面的な変化を求めたのです。
タイトルにもある秘密は、この物語で最も重要なキーワードです。カニグズバーグは、人は秘密を持つことで、初めて他人とは違う唯一無二の存在になれるという考えを描いています。物語の終盤、クローディアはミケランジェロの天使の像の真実という大きな秘密を手に入れます。それを公表して有名になることではなく、自分だけの確信として持ち続けることが、彼女に大きな自信と落ち着きを与えました。
クローディアの家出が、なぜ森の中ではなくメトロポリタン美術館だったのか。ここに彼女のキャラクターと作品の独自性が詰まっています。彼女は苦労をしたいわけではなく、美しく知的な環境で、自分を高めたいと考えていました。単に逃げるのではなく、美術館という人類の英知の集積地で過ごすことで、彼女の精神は磨かれていきました。
物語世界
あらすじ
コネチカット州の郊外に住む12歳の少女クローディアは、家での単調な生活や、長女としての不公平な扱いに不満を感じていました。彼女は家出を決意しますが、ただの家出ではなく、美しくて、快適で、エレガントな場所へ行くことを計画します。
彼女がパートナーに選んだのは、次男のジェイミー。理由は単純、彼がカード遊びで小銭を貯めていて、資金源になるからです。二人はスクールバスを抜け出し、ニューヨークのメトロポリタン美術館へと向かいます。
二人の潜伏生活は、非常に知的でスリリングなものでした。16世紀のルネサンス様式の豪華な天蓋付きのベッドで眠り、美術館の噴水に飛び込み、そこに投げ入れられたコインを拾って食費にします。毎日一つ、展示のテーマを決めて学習し、警備員の目を巧みに盗みます。
そんなある日、美術館にひとつの新しい展示物が現れます。それは、わずか225ドルで買い取られた、美しい天使の像でした。
この天使の像には、若き日のミケランジェロの作品ではないかという噂がありました。もし本物なら数百万ドルの価値があります。
クローディアはこの謎にすっかり魅了されます。彼女は、この像の真実を突き止めることこそが、自分が変わるための鍵だと直感します。二人は図書館で調べ物をし、像の台座にミケランジェロの印があることを発見しますが、美術館側には証拠不十分として相手にされません。
諦めきれない二人は、像の元の持ち主である風変わりな老婦人、フランクワイラー夫人の屋敷を訪ねます。夫人は二人を温かく、しかし厳しく迎え入れます。そして、膨大な資料が詰め込まれた整理されていないぐちゃぐちゃなファイルの中から、一時間以内に証拠を見つけられたら秘密を教える、というゲームを提案します。
ついに二人は、ミケランジェロがその像のために描いたスケッチを発見し、像が本物であるという決定的証拠を掴みます。しかし、夫人はその証拠を公表することを禁じます。「秘密は、自分の中に持っているからこそ価値がある。それこそが、あなたを家出前とは違う人間に変えてくれるものだ」といいます。
クローディアは、世界が知らない真実を共有することで、自分が求めていた特別な自分になれたことを確信します。二人は夫人のロールスロイスで家まで送られ、物語は幕を閉じます。




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