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ヘルダーリン『ヒューペリオン』解説あらすじ

ヘルダーリン
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始めに

ヘルダーリン『ヒューペリオン』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ヘルダーリンの作家性

 ヘルダーリンにとってギリシャは単なる教養ではなく、信仰に近いものでした。​ピンダロスの祝勝歌の荒々しくも崇高なリズムは、ヘルダーリンの後半生の讃歌の文体に直接的な影響を与えました。ソポクレスからギリシャ悲劇の神髄を彼から学びました。晩年、精神を病む直前まで『アンティゴネ』や『エディプス王』の翻訳に没頭しました。​プラトンの美やエロスを通じて神性へと近づく思想は、ヘルダーリンの小説『ヒュペーリオン』の根底を流れています。


​ ​彼は当時のドイツ知識人の中心地に身を置いていました。​シラーはヘルダーリンの最大の恩師であり、初期の理想を追う詩風はシラーの影響を強く受けています。しかし、シラーの圧倒的な存在感は、若きヘルダーリンにとって重圧でもありました。​ルソーの自然への回帰と、文明による疎外を説いたルソーを、ヘルダーリンは半神と呼びました。​ヘーゲルとシェリングはテュービンゲン神学校時代のルームメイトです。彼らと共にドイツ観念論の萌芽を形作り、互いに哲学的な刺激を与え合いました。


​ ​クロプシュトックはドイツ語に独自の高いリズムと尊厳を与えた抒情詩の父です。ヘルダーリンは彼の自由リズムを継承し、さらに独自の高みへと引き上げました。またギリシャの神々とキリスト教の神を融合させようとした彼にとって、聖書の預言者的な文体は重要なインスピレーション源でした。

ヘルダーリンの哲学

 人間は本来、自然や神々と一つ(万物との合一)でしたが、文明や理性の発達によってそこから切り離されてしまいました。 孤立した個である人間が、どうすれば再び大自然という全体に戻れるかが描かれます。


​ 離心的軌道はヘルダーリン独自の哲学的な成長モデルです。人間は、幼少期の無垢な合一から出発し、成長とともに対立・葛藤を経験して分離します。しかし、それを経ることで、より高いレベルでの自覚的な再統合を目指すという考え方です。直線的な進歩ではなく、円を描いて戻るような、螺旋状の魂の旅を指します。

ヒューぺリオンの幻滅

 ​主人公ヒュペーリオンが愛する女性ディオティーマは、単なる恋人ではありません。彼女は、人間にとっての美や調和の象徴です。政治的な革命に失敗し、絶望したヒュペーリオンを救い、彼を詩人へと導くガイドのような存在です。彼女の死は、この世から一度美が失われる悲劇を象徴していますが、同時にヒュペーリオンを精神的な自立へと促します。


​ ヘルダーリンはヒュペーリオンを通じて、古代ギリシアの自由な精神を理想とし、当時のドイツ社会が断片化され、精神が死んでいると感じていたのを激しく批判しました。武力によるギリシア解放を試みますが、惨敗します。そこから政治による解決ではなく、詩や芸術による精神の変革が必要だという結論に達します。

物語世界

あらすじ

 主人公が友人ベラルミンに宛てた書簡形式で綴られる、魂の放浪記です。​物語は、すべてが終わったあとにギリシャの自然の中で隠者として生きるヒュペーリオンが、過去を回想する形で進みます。


​ ​若きヒュペーリオンは、古代ギリシャの栄光を愛し、現代の没落したギリシャを嘆いていました。自然の神聖さと古代の知恵を学びますが、師との別れにより孤独に陥ります。燃えるような行動家アラバンダと出会い、武力によってギリシャを解放しようと誓い合います。しかし、アラバンダの過激な破壊思想に違和感を覚え、一度は彼のもとを去ります。


​ ​絶望の淵にいた彼は、カラウレア島でディオティーマという女性に出会います。​彼女は美そのものの化身であり、ヒュペーリオンに心の平安と、自然との調和を教えます。​二人は深く愛し合いますが、ヒュペーリオンは自分は一人の女性の愛に安住していいの、祖国を救わなくていいのかという葛藤に駆られます。


​ ​ロシア・トルコ戦争が勃発し、ヒュペーリオンは再びアラバンダと共に立ち上がります。彼は自由のために戦おうとしますが、仲間の志願兵たちは略奪と虐殺に明け暮れます。理想としていたギリシャの復活は、血塗られた醜い現実によって打ち砕かれます。


​ 戦いで深手を負ったヒュペーリオンに、追い打ちをかけるような知らせが届きます。彼の帰還を待ちわびていたディオティーマが、絶望と心労のために息を引き取ったのです。


​ ​すべてを失った彼はドイツへ渡りますが、そこで見たのは、専門的な知識はあっても魂がバラバラに引き裂かれたドイツ人の姿でした。


​ 彼は再びギリシャの自然の中に戻ります。彼はもはや政治的な英雄でも恋人でもなく、自然の息吹の中に神性を見出す詩人(隠者)として生きる決意をします。孤独ではあるけれど、万物と一体になる境地に達して物語は終わります。

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