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J.B.プリーストリー『夜の来訪者』解説あらすじ

J.B.プリーストリー
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始めに

J.B.プリーストリー『夜の来訪者』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

プリーストリーの作家性

​ プリーストリーは、エドワード朝時代の知識人たちの社会をより良くしようという情熱を継承しています。若き日のプリーストリーにとって、ウェルズは古い束縛から解放してくれる存在でした。社会主義的な視点や、科学的な変化が人間にどう影響するかという関心はウェルズの影響が大きいです。また演劇を通じて社会的な議論を巻き起こす手法において、ショーの影響を受けています。


​ ​プリーストリーの小説、特に代表作『おいしい仲間』などに見られるスタイルは、19世紀の伝統的なイギリス小説の流れを汲んでいます。豊かなキャラクター描写、パノラマのように広がる社会描写、そしてユーモアとペーソスの混在はディケンズの影響です。


​ プリーストリーといえば『夜の来客者』などの「時間劇」が有名ですが、これらには当時の科学・哲学書が強く影響しています。​J.W. ダン『時間の実験』で示された多層的な時間や予知夢の理論に深い感銘を受け、それをドラマの構造に取り入れました。P.D. ウスペンスキーはロシアの神秘思想家で、時間は円環状に巡るという永劫回帰的な概念を提唱しました。プリーストリーの作品における過去の過ちを繰り返すというテーマの背景にあります。


​ ​晩年のプリーストリーは、個人の内面や無意識の世界に強い関心を持ちました。プリーストリーはユングの熱心な読者であり、個人的にも親交がありました。

資本主義批判

 物語の冒頭で、父アーサーは人間は自分のことだけを考え、他人の面倒まで見る必要はないという個人主義的な持論を展開します。これに対し、グール警部は我々は一つの体の一部で、互いに責任を負っていると真っ向から反論します。一人の小さな行動が、巡り巡って他人の命を奪うという罪の連鎖を浮き彫りにしています。

​ 舞台となる1912年は、格差が非常に激しい時代でした。裕福なバーリング家が、労働者階級のエヴァ=スミスを安価な労働力や都合のいい女としてしか見ていなかった傲慢さを批判しています。
​ 被害者の「エヴァ・スミス」という名は、聖書のイブと、イギリスで最も一般的な姓スミスを合わせたもので、どこにでもいる名もなき弱者の象徴です。

世代間の相違

 過ちを指摘された時、人はどう変わるかという点において、親世代と子世代で鮮明なコントラストが描かれています。旧世代のアーサー、シビルは世間体や権威を何よりも重んじ、警部がいなくなれば法的に罪にならないなら問題ないと開き直ります。​新世代のシーラ、エリックは自分の良心に従い、自らの行動を深く恥じ、二度と同じ過ちを繰り返さないと誓います。プリーストリーは世界をより良く変える希望は、若者たちにあるというメッセージを込めています。

​ この作品には、最後にもう一度電話が鳴るという時間のループのような構造があります。警部との対話は、いわば予行演習でした。しかし、親世代がそれを無視して反省しなかったため、現実の悲劇としての警察の来訪が確定してしまいます。罪を認めない者には、より過酷な現実が突きつけられるという教訓があります。

物語世界

あらすじ

​ ​1912年、イギリスの工業都市ブラムリー。裕福な実業家アーサー=バーリングの邸宅では、娘のシーラと、同じく実業家の息子ジェラルドの婚約を祝う晩餐会が開かれていました。家族が自分たちの成功と明るい未来に酔いしれているその時、「グール警部」と名乗る男が突然訪ねてきます。


​ ​警部は、若い労働者階級の女性エヴァ=スミスが、消毒液を飲んで悲惨な自殺を遂げたことを告げます。一見、自分たちとは無関係な事件に思われましたが、警部の執拗な追及により、バーリング家の全員が彼女を絶望に追い込んだ連鎖の一部であったことが露呈していきます。


 父の​アーサーは賃上げ交渉を主導したエヴァを工場から解雇しました。娘の​シーラは立ち寄った店で、エヴァの不遜な態度と彼女の美しさへの嫉妬を理由に、彼女をクビにさせました。婚約者の​ジェラルドは路頭に迷ったエヴァ(別名デイジー)を愛人にしたものの、最終的に彼女を捨てました。息子の​エリックは酔った勢いで彼女を妊娠させ、金を盗んで渡そうとしたが拒絶されました。母の​シビルは慈善団体の責任者でありながら、助けを求めてきた妊娠中のエヴァを不謹慎だと冷酷に追い返しました。


 ​警部は人間は孤立して生きているのではない、我々は互いに責任を負っているのだ、という強烈な警告を残して立ち去ります。


 ​その後、家族が混乱の中で調べると、驚くべき事実が判明します。​警察には「グール」という警部は実在せず、​病院に自殺した女性が運ばれた記録もないのでした。


​ ただのいたずらだったのかと、アーサーとシビルは安堵し、自分たちの過ちをなかったことにしようとします。しかし、良心の呵責を感じるシーラとエリックだけは、自分たちの罪を重く受け止めていました。


 ​その時、一本の電話が鳴り響きます。「今、若い女性が消毒液を飲んで死んだ。これから警部が事情聴取に向かう」と。

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