始めに
ルクレジオ『黄金探索者』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ルグレジオの作家性
ルクレジオは、ロマン主義的な、既存の小説の枠組みを壊すような作家たちに強く惹かれていました。
仏文学では、ロートレアモンからは、内的世界の混沌について影響されました。アンリ=ミショーからも、意識の内面や内なる旅を描く手法において影響を受けています。スタンダールからも心理劇について影響があります。またランボー、ブランショの内的混沌からも影響が見えます。
他にも英米文学ではスティーヴンソン、サリンジャー、ジョイスの影響があります。サリンジャーは都会の孤独や、若者の純粋な魂を描く点において共鳴しています。ジョイスは言語の実験的な側面、内的混沌について影響があります。
タイトルの意味
物語の出発点であり、全編を貫く動機は子供時代の幸福への執着です。主人公アレクシスが追い求める伝説の海賊の金貨は、実はかつて家族と幸せに暮らしたマナナヴァ(楽園)を取り戻すための象徴にすぎません。物理的な金よりも、失われた時間や場所を取り戻そうとする切実なノスタルジーが描かれています。
アレクシスは長年、島で土を掘り返し、計算に没頭しますが、結局金貨は見つかりません。しかし、彼はその過程で別の黄金を見つけます。それは、光、海、星の輝き、風の音といった、自然そのものが持つ根源的な美しさです。所有することから、存在することへと価値観がシフトしていくプロセスが美しい筆致で描かれます。
ロマン主義
物語の後半、第一次世界大戦が勃発し、アレクシスは戦場へと送られます。海賊の伝説という神話的な時間の中に生きていた彼が、戦争という残酷な現実の歴史に引きずり戻されます。人間の欲望がいかに虚しいものであるか、という文明批判的な側面も含まれています。
アレクシスは、白人入植者の血を引いていながら、現地の文化や自然に深く共鳴します。特に、逃亡奴隷マロンの末裔である女性ウマとの交流を通じて、彼は西洋的な所有概念から解放され、根無し草的な自由を手に入れます。
物語世界
あらすじ
19世紀末、モーリシャス島のボカージュ(マナナヴァ)で、アレクシスは姉のロールと共に、豊かな自然に囲まれた夢のような少年時代を過ごします。
しかし、サイクロンの被害によって父の事業が破綻し、一家は住み慣れた土地を追われます。父は失意のうちに亡くなりますが、アレクシスに謎の海賊が遺した財宝の地図と記録を遺しました。
30歳になったアレクシスは、失った家族の誇りとマナナヴァ(楽園)を取り戻すため、宝の地図を手にロドリゲス島へと渡ります。彼はそこで数年間、狂信的な情熱で大地を掘り返し、海賊が遺した暗号を解読しようと没頭します。測量と計算、そして土にまみれる孤独な日々。しかし、どれだけ掘っても、期待した金貨は現れません。
探索に行き詰まっていたアレクシスは、山の中でウマという名の先住民の女性に出会います。自然と共生し、星や風の言葉を理解する彼女との生活を通じて、アレクシスの価値観は揺らぎ始めます。彼は、自分が必死に探していた死んだ金貨よりも、ウマが教えてくれる生きた自然の輝きに、より本質的な価値を感じるようになっていきます。
1914年、世界大戦の勃発が島にも届きます。アレクシスはイギリス軍の志願兵としてヨーロッパの戦場へ送られます。
ロドリゲス島の静寂とは対照的な、泥濘と死臭が漂う地獄のような塹壕戦。数年間にわたる戦争を生き延びた彼は、かつて抱いていた宝への執着が、いかに虚しいものであったかを痛感します。
戦後、彼は再びロドリゲス島へ、そして故郷のモーリシャス島へと戻ります。結局、海賊の金貨は見つかりませんでした。しかし、マナナヴァの旧居の跡に立ったアレクシスは、絶望していませんでした。彼は、子供時代の記憶、ウマとの愛、そして世界の美しさを感じ取れる自分自身こそが、探し求めていた本当の黄金であったと悟るのです。アレクシスは物質的な富を手にすることはありませんでしたが、放浪の果てに所有から解放された自由な魂を手に入れました。




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