PR

V・S・ナイポール『暗い河』解説あらすじ

V・S・ナイポール
記事内に広告が含まれています。

始めに

V・S・ナイポール『暗い河』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

​ナイポールの作家性

​ ナイポールにとって最大の、そして最も個人的な影響を与えたのは、父シーパサドです。父はトリニダードでジャーナリストとして働きながら、短編小説を書いていました。ナイポールの代表作『ビスワス氏の家』は、自身の父の生涯をモデルにしています。


​ ​ナイポールは、ポーランド出身で英語作家となったコンラッドに、自分と同じアウトサイダーの姿を重ねていました。ナイポールの初期の作品に見られる、ユーモアと鋭い社会観察はディケンズの影響が色濃いです。ナイポールは、プロットよりも正確な観察を重視しました。フローベール、ツルゲーネフ、バルザックの写実主義に影響されました。

ポストコロニアル

 冒頭の有名な一行(「世界はありのままのものだ。無に等しい人間、自らを無に帰すにまかせる人間には、この世界に居場所はない」)がすべてを象徴しています。


 ​ナイポールは、理想主義や政治的スローガンを一切排除します。歴史の荒波の中で、力のない個人がいかに簡単に切り捨てられ、忘れ去られていくかという生存の条件を突きつけます。主人公サリムは、東アフリカ沿岸に住むインド系移民です。先祖代々アフリカに住んでいても、黒人ナショナリズムの中では異邦人として扱われます。また 祖国インドとは文化的に断絶しています。西欧の教育を受けていても、白人社会の一員にはなれません。​このどこにも属せない者が、激動する社会でどうにか生き延びようとする、根源的な不安が描かれています。

 ​かつてヨーロッパの植民地支配が築いた街が、独立後の混乱、腐敗、独裁によってゆっくりと崩壊し、再びジャングルに飲み込まれていく様子が描かれます。道路や建物といったハードウェアは残っても、それを支える精神や法秩序がいかに脆く、一瞬で消え去るかをナイポールは冷ややかに観察しています。

 ​独立後の希望が、カリスマ的な独裁者(作中では「ビッグ・マン」と呼ばれる)による支配へと変質していく過程が描かれます。​旧来の部族社会と、近代的な国家の歪な融合のなか、​崇拝を強要される個人と、その裏で進行する暴力と腐敗が描かれます。 ナイポールは、植民地解放を輝かしい進歩としてではなく、新たな混乱の始まりとして捉えました。

物語世界

あらすじ

 主人公サリムは、東アフリカ沿岸に住むインド系移民の青年です。彼は自分のコミュニティが衰退し、古い世界が壊れ始めていることを予感し、自立を求めて内陸へと向かいます。


 ​彼は知人から、大陸の奥深く、大きな川が湾曲する場所(「暗い河」の町)にある小さな商店を譲り受けます。そこはかつてヨーロッパの植民地として栄えましたが、独立後の反乱で廃墟と化していました。


​ ​サリムは荒れ果てた町で、日用品を売る商売を始めます。彼はそこで、地元の有力な女性ザベスの息子フェルディナンドという混血の少年の後見人になります。町は少しずつ活気を取り戻し、ヨーロッパの知識人レイモンドやその若く美しい妻イヴェット、かつての友人インダールなどが集まってきます。


 ​サリムは孤独を埋めるように、人妻であるイヴェットと激しい不倫関係に落ちますが、その関係も次第に虚無感に支配されていきます。


​​ 国全体を支配するのは、「ビッグ・マン」と呼ばれる独裁者です。彼はアフリカ回帰を掲げ、自らの偶像崇拝を強要します。町の近くにはドメインと呼ばれる近代的なモデル地区が建設されますが、それは実態を伴わない虚飾の象徴に過ぎませんでした。


 ​次第に独裁体制は狂気を帯び、かつての仲間たちが次々と粛清され、社会には密告と恐怖が蔓延し始めます。ついに国有化政策の名の下に、サリムの店もアフリカ人の国家弁務官に没収されてしまいます。


 ​サリムは密かに象牙を隠し持ち、再起を図りますが、かつての教え子であったフェルディナンド(今は政府の役人)によって逮捕されます。

 かろうじて釈放されたサリムは、もはやこの場所には自分の居場所がないことを悟ります。サリムは夜、最後の下り船に乗って町を脱出します。船が川を下る中、背後の暗闇では銃声が響き、町が再び混沌と暴力に飲み込まれていく様子を暗示しながら物語は幕を閉じます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました