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ウォーレ・ショインカ『死と王の先導者』解説あらすじ

ウォーレ・ショインカ
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始めに

ウォーレ・ショインカ『死と王の先導者』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ショインカの作家性

​ ショインカにとって最大のインスピレーション源は、特定の作家以上に、彼自身のルーツであるヨルバ神話です。​D.O. ファグンワはヨルバ語で書かれた現代小説の先駆者で、ショインカは彼の代表作を英語に翻訳しており、ファグンワが描く幻想的な森や精霊の世界はショインカの劇作に深く息づいています。​オグンは神の名ですが、ショインカにとっては創造と破壊を司るアーティストの守護神として、あらゆる執筆活動の精神的支柱となっています。


​ ​ショインカはイギリスのリーズ大学で学び、西洋演劇の古典に深く精通しました。ショインカはエウリピデスの『バッコスの信女』をアフリカ的な文脈で『エウリピデスのバッコスの信女:聖餐の儀式』として翻案しており、儀式とカタルシスの概念において強い影響を受けています。言葉の豊かさや、歴史劇における政治と個人の葛藤の描き方にシェイクスピアの影響を見て取れます。
 

 ほかにもブレヒト、J.M. シングから刺激されました。

 G. ウィルソン・ナイトはリーズ大学時代の恩師であり、著名なシェイクスピア学者です。彼のシンボリズム的な作品解釈は、ショインカが神話や儀式をドラマの核に据える理論的背景となりました。

ポストコロニアル

 ​ショインカ自身が序文で強調している通り、この劇の核心は文化の衝突そのものではなく、移行というヨルバ的な宇宙観にあります。ヨルバの信念では、「先祖の世界」「生者の世界」「未生(これから生まれる者)の世界」が繋がっており、その間には深淵(ヴォイド)が存在します。


​ 主人公エレシン=オバの自死は、単なる切腹のような名誉の問題ではなく、死んだ王の魂がこの深淵を無事に渡り、宇宙のバランスを保つための通路を確保する儀式なのです。彼が失敗することは、世界の崩壊を意味します。

 ​イギリス植民地当局のピルキングス夫妻とヨルバの人々の間にある、埋めようのない認識の溝が描かれています。ピルキングスにとって、エレシンの自死は阻止すべき野蛮な自殺でしかありません。彼はそれがヨルバの社会を支える崇高な義務であることを理解しようともしません。英国側は人命を救うという彼らなりの善意で動きますが、その行動が結果としてヨルバの精神的秩序を破壊し、より大きな悲劇を招くという皮肉が描かれています。

伝統と進歩、それぞれの矛盾

 この劇を単なる政治劇に留めないのが、主人公エレシンの人間的な弱さです。 エレシンは儀式の直前、現世の快楽を求め、生への執着を捨てきれませんでした。英国人の介入は確かに外的要因ですが、ショインカは、エレシン自身の内なる迷いが儀式の失敗を招いたことも示唆しています。

 ​物語の後半、西洋教育を受けた息子オルンデが重要な役割を果たします。オルンデはイギリスで医学を学び、西洋の知性を持ちながらも、自身のルーツである伝統の重みを深く理解しています。伝統を汚した父に代わり、息子が自ら命を絶つことで儀式を完遂しようとする姿は、伝統の継承と、古い世代の失敗を新しい世代が購うという重いテーマを突きつけます。

物語世界

あらすじ

​ 舞台は第二次世界大戦中、イギリス植民地支配下のナイジェリア・オヨ帝国です。物語は、オヨの国王アフィンが亡くなってから30日目に始まります。ヨルバの伝統では、王の先導者(エレシン=オバ)は、この日に自ら命を絶ち、霊界へと向かう王の魂に同行しなければなりません。


 ​主人公エレシンは、死への旅路を前に、市場で華やかに着飾り、歌い踊ります。彼は生への未練を断ち切る儀式として、最後に美しい娘と結婚することを望みます。周囲の人々は、彼が聖なる義務を果たしてくれると信じて、その願いを聞き入れます。


​ ​この儀式的自殺の噂を聞きつけたのが、イギリス人の地区行政官サイモン=ピルキングスです。彼はこの風習を野蛮な殺人とみなし、文明的な法の名のもとに阻止しようと動きます。


​ ちょうどその時、エレシンの息子オルンデがイギリスでの医学留学から帰国します。彼は父が名誉ある死を遂げることを確信し、その遺体を引き取るために戻ってきたのです。


 ​ピルキングスは、祝宴の最中に警察を送り込み、儀式の絶頂にいたエレシンを保護という名目で逮捕してしまいます。


​ ​儀式は中断され、世界の調和は破壊されました。投獄されたエレシンのもとに、息子オルンデが面会に訪れます。オルンデは、義務を果たせず生き恥をさらした父を激しく軽蔑します。


​ しばらくして、ピルキングスのもとに一つの遺体が運ばれてきます。それは、父が果たせなかった先導者の役割を完遂するため、自ら命を絶った息子オルンデの姿でした。息子の亡骸を目の当たりにしたエレシンは、絶望のあまり、牢獄の中で自らの鎖を使って首を絞め、息絶えます。


​ ​物語は、市場の女たちのリーダーであるイヤロジャが、ピルキングスに向かって「お前たちの善意が、この世界の秩序をどれほど無残に引き裂いたかを見ろ」と冷ややかに告げるシーンで終わります。

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