始めに
ボリス・パステルナーク『ドクトル・ジバゴ』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
パステルナークの作家性
パステルナークにとって、リルケは最も深い影響を与えた詩人の一人です。パステルナークの父レオニードを通じてリルケと知り合い、文通も行っていました。
またパステルナーク家とトルストイは家族ぐるみの付き合いがあり、幼少期の彼はトルストイの存在を空気のように感じて育ちました。
パステルナークは、政治的な抑圧により自身の創作が困難だった時期、多くの古典をロシア語に翻訳しました。シェイクスピアやゲーテのロマン主義に学びました。
マヤコフスキーとスクリャービンにも影響されました。
個人と歴史
この作品の最大のテーマは、革命や戦争といった巨大な歴史の流れの中で、一人の人間がいかに無力であり、同時にいかにかけがえのない存在であるかという点です。当時のソ連が求めた集団主義や政治的スローガンに対し、パステルナークは個人の内面的な生活こそが真実であると主張しました。主人公ユーリ=ジバゴは歴史を変えようとはせず、ただその荒波に流されながらも、自分の魂の純粋さを守ろうとします。
主人公の名前「ジバゴ」は、ロシア語で「生きた(ジヴォイ)」という言葉に由来しています。政治的なイデオロギーは時間が経てば死文化しますが、木々の芽吹きや雪の美しさ、人間の鼓動といった生命は永遠に続きます。
ジバゴが医師であることは重要です。彼は人間を政治的な駒としてではなく、痛みを感じ、血の通った生物学的な生命として見つめています。
パステルナークは、肉体的な死が終わりではないと考えました。人は死んでも、他人の記憶や、その人が残した仕事の中で生き続ける。これが彼にとっての復活の解釈です。小説の最後に25編のジバゴの詩が置かれているのは、ジバゴという男が肉体的に滅んだ後も、その魂が詩として結晶化し、永遠に生き続けることを証明するためです。
ヒロインのララは、単なる不倫の相手ではなく、パステルナークにとってのロシアそのものの象徴でもあります。美しく、過酷な運命に翻弄され、傷つきながらも力強く生きるララは、混迷するロシアの大地そのものです。作中、登場人物たちが広いロシアで何度も偶然再会するのは、理屈を超えた運命の力を描くためです。
物語世界
あらすじ
20世紀初頭のモスクワ。主人公ユーリ=ジバゴは、多感な少年時代を経て、医師でありながら詩人としての才能も発揮する青年へと成長します。彼は幼馴染のトーニャと結婚し、平穏で幸福な生活を送っていました。
一方、別の場所では若き女性ララが、悪徳弁護士コマロフスキーに翻弄され、自らの運命に苦しんでいました。
第一次世界大戦が勃発し、軍医として従軍したジバゴは、看護師として働いていたララと運命的な出会いを果たします。二人は互いに強く惹かれ合いますが、戦争の終結と革命の勃発によって離ればなれになります。
モスクワに戻ったジバゴを待っていたのは、飢えと寒さ、そして共産主義体制による厳しい統制でした。
家族を守るため、ジバゴ一家は住み慣れたモスクワを離れ、ウラル山脈の田舎町ヴァリキノへと疎開します。そこでジバゴは、近くの町に住んでいたララと偶然再会し、ついに二人は結ばれます。
しかし、幸せも束の間、ジバゴは共産党の赤軍パルチザンに無理やり徴用され、医師として戦場を連れ回されることになります。
数年後、パルチザンから脱走したジバゴは、ボロボロになりながらもララの元へ戻ります。二人は廃墟となったヴァリキノの屋敷で短い共同生活を送り、ジバゴはそこで多くの詩を書き上げました。
しかし、迫害の手が伸びる中、ララを守るためにジバゴは彼女を逃がし、自らは孤独な道を選びます。
その後、モスクワに戻ったジバゴは、かつての知的な輝きを失い、貧困の中で心臓発作により急逝します。彼の葬儀には、密かに戻っていたララも立ち会いました。




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