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ブラックウッド「ウェンディゴ」解説あらすじ

アルジャノン=ブラックウッド
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始めに

ブラックウッド「ウェンディゴ」解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ブラックウッドの作家性

 ブラックウッドはポー、レ・ファニュ、ヘンリー=ジェイムズなどのゴシック小説家から影響されました。​信頼できない語りの手法、朦朧とした語りなどを継承します。


​ 物語を書く際、当時の最先端の心理学や哲学を背景に持っていました。​​心理学者・哲学者であるウィリアム=ジェイムズの意識の境界や宗教的経験に関する考察は、ブラックウッドの作品における異次元との接触の描写に大きなヒントを与えています。​グスタフ=フェヒナー は​地球や植物にも魂があると説いたドイツの哲学・心理学者で影響しました。


​ ​ブラックウッドを語る上で欠かせないのが、彼自身の精神的な探求です。神智学協会に属しており、輪廻転生や霊的進化といった概念に深く傾倒していました。​黄金の夜明け団はマッケンやイェイツも所属していた秘密結社で、ここでの儀式魔術や象徴主義的な教えは作品に深みと説得力を与えています。

自然の崇高さ

 ブラックウッド作品に共通する特徴は自然は人間に無関心であり、時に圧倒的に巨大で異質な存在であるという視点です。カナダの原生林は、癒やしの場所ではなく、人間の倫理や論理が通用しない異界として描かれます。


​ 作中の恐怖は、肉体的な危険以上にあまりに広大で、あまりに古いものに直面した時の、魂の震えに基づいています。ウェンディゴに魅入られることは、単に食べられることではなく、人間であることをやめることを意味します。


​ 犠牲者が空高く連れ去られ、叫び声を上げながら変貌していく様は、文明人としての理性が剥ぎ取られ、原始的で残酷なエネルギーに上書きされるプロセスです。足が焼けつくような速さで走り、形状が変わってしまう描写は、精神の崩壊が肉体にまで及ぶ恐怖を象徴しています。

 この物語において、ウェンディゴは一種の「抗いがたい魅力」を持って描かれます。恐怖を感じながらも、どこかでその荒々しい自由や力に惹かれてしまう心理は、洗練されすぎた文明人が抱く野性への回帰願望の裏返しでもあります。


​ 文明と混沌の境界線が、物理的にも精神的にも曖昧になっていく恐怖が描かれています。​ブラックウッドは本当に恐ろしいものは言葉では説明できないということを強調しています。登場人物たちは、目撃したものを既存の語彙で説明しようとして失敗します。「あれは~のようだった」という比喩が繰り返されるのは、それが人間の理解を超えた存在だからです。

物語世界

あらすじ

 舞台はカナダ北部、文明から切り離された広大な荒野。心理学者のカスカート博士、その甥の大学生シンプソン、そして熟練のガイドであるハンクとデファゴの4人は、ヘラジカ狩りのために奥地へと足を踏み入れます。効率よく狩りをするため、一行は二組に分かれます。カスカート博士とハンク、シンプソンとデファゴのグループです。

 シンプソンとデファゴはカヌーでさらに奥地の五十島湖を目指しますが、デファゴは目的地が近づくにつれ、目に見えて怯え始めます。彼はこの地に伝わる、恐ろしい精霊ウェンディゴの伝承を異常に恐れていたのです。


​ ​ある夜、キャンプ地で休んでいた二人のもとに、異様な臭いが漂ってきます。すると、デファゴは何かに取り憑かれたように、狂乱状態で暗闇の森へと走り去ってしまいました。シンプソンは彼を追いますが、雪の上に残された足跡を見て戦慄します。​デファゴの足跡の隣に、巨大で非人間的な足跡が出現しています。​追ううちに、デファゴの足跡自体も巨大化し、焼けつくような跡に変わっていきます。​そして、二人の足跡は突如として地上から消え、空へ向かっていました。


 ​上空からは、デファゴのものとは思えない、しかし彼の声に似た絶叫が響き渡ります。「おお、この燃えるような高さ! おお、私の足に火がつく!」と。


 数日後、カスカート博士たちと合流したシンプソンの前に、デファゴらしき物が現れます。それはひどく変形した足を見せた後、再び夜の闇の中に消えていきます。
 

 その後、一行が絶望していると、本物のデファゴが這うようにしてキャンプに戻ってきます。しかし、その姿はあまりにも無残なものでした。彼の足は、まるで超高速で引きずり回されたかのように、あるいは火に触れたかのように、無残に焼けただれ、磨り減っていました。彼は自分の名前すら思い出せず、何があったのかを説明することもできませんでした。ただ怯え、魂がどこか遠くへ持ち去られてしまったような状態でした。
​ ​

 彼はその後、村へと連れ戻されましたが、かつての優秀なガイドの面影は微塵もありませんでした。結局、事件から数週間後、彼は正気を取り戻すことなく衰弱死しました。

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