始めに
L・P・ハートリー「ポドロ島」解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ハートリーの作家性
ハートリーにとって最大の先達と言えるのがヘンリー=ジェイムズです。登場人物の複雑な内面心理や、社会的な礼節の裏に隠された残酷さを描く手法を学びました。ホーソンからも強い影響を受けています。罪、罪悪感、因果応報、といった重厚なテーマを継承します。
『失われた時を求めて』の著者プルーストの影響は、ハートリーの代表作『The Go-Between』に顕著です。記憶のメカニズムと、過去を再構成するプロセスが共通です。
ハートリーは、エミリー=ブロンテの『嵐が丘』が持つ激しい情熱と、風景が心理状態を反映するゴシック的な雰囲気を高く評価していました。
信頼できない語り。朦朧法
この物語の核心は、島に潜むとされる「獣」の正体です。 ハートリーは、その恐怖の対象が実在の怪物なのか、あるいは登場人物たちの不安が形を成したものなのかを意図的に曖昧にしています。何の動機もなく、ただそこに存在し、足を踏み入れた者を飲み込む純粋な悪の恐怖が描かれています。
ヴェネツィアという洗練された観光地から、わずかな距離にある無人島へ移動することで、物語は一変します。 登場人物たちは最初、知的な好奇心やレジャー気分で島を訪れますが、ひとたび不可解な事態に直面すると、文明的な理性は全く役に立たず、原始的なパニックに支配されます。
また島という設定そのものが、救いの届かない隔絶された空間を象徴しています。 仲間がすぐ近くにいるにもかかわらず、恐怖に直面した個人は完全に孤独であり、その恐怖を誰とも共有できないまま追い詰められていく過程が描かれています。
物語世界
あらすじ
ヴェネチアを訪れていた「ぼく」とアンジェラ、そして船頭のマリオは、ピクニックのためにゴンドラで沖合のポドロ島へと向かいます。その島には不吉な噂があり、マリオは上陸を嫌がっていました。
島に到着すると、アンジェラはそこで飢えた捨て猫を見つけます。彼女は持ち前の助けてあげたいという強い執着心から猫を捕まえようとしますが、激しく抵抗され、逃げられてしまいます。苛立った彼女は、「捕まえられないなら、この手で殺してやるわ」と口走ります。マリオはヴェネチアで猫を殺すのは禁忌だと顔をこわばらせ、彼女を諫めます。
日が暮れる中、猫探しに没頭するアンジェラを島に残し、ぼくとマリオはゴンドラで待機しますが、いつの間にか眠り込んでしまいます。ぼくは夢の中で、マリオが、あの人のことが好きになったから殺さなきゃならなかった、と告げる不気味な悪夢を見ます。
目を覚ますとアンジェラの姿はなく、島には四つん這いで這い回る真っ黒な影が見えました。急いで島に上陸して捜索すると、「ぼく」はアンジェラの海水靴と、無惨に頭を潰された猫の死骸を発見します。
そこへ、顔を真っ青にしたマリオが駆け戻ってきて、言葉少なにぼくを急かし、狂ったようにオールを漕いで島を離れます。島から十分に離れた後、マリオは震えながら語りました。「彼女を見つけたとき、まだ息はあった。だが、彼女は自分を殺してくれと頼んだ。あれが戻ってくる前に、と。あれは死ぬほど飢えているから、もう待ってはくれないのね、と」。
島に潜んでいた何かに彼女が何をされたのか、その正体は何だったのか、明確な答えは示されないまま、物語は闇の中へと消えていく二人の姿で幕を閉じます。




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