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リチャード=パワーズ『舞踏会へ向かう三人の農夫』解説あらすじ

リチャード=パワーズ
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始めに

リチャード=パワーズ『舞踏会へ向かう三人の農夫』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

パワーズの作家性

 ピンチョンはよく比較される作家です。システム理論、科学技術、世界を覆う巨大なパターンを追う姿勢は、ピンチョンの『重力の虹』などの系譜を継いでいます。​ウィリアム=ガディスにおける情報の過剰さと、現代社会の断片化を捉える手法からも影響が見られます。パワーズの代表作『黄金虫変奏曲』の形式的実験はジョイスの『ユリシーズ』の影響を伺わせます。言葉遊び、多重構造のパズル、そして細部へのこだわりにおいて、ナボコフの影響が見て取れます。


​ ​またメルヴィル、ソロー、ホイットマンのロマン主義、自然への関心、形式的実験からも感化が見えます。

タイトルの意味

​ 小説のタイトルは、アウグスト=ザンダーが1914年に撮影した実在の写真に基づいています。三人の農夫が向かおうとしているのは村の舞踏会ですが、歴史の文脈では、彼らは第一次世界大戦という死のダンスへと足を踏み入れようとしています。


​ 19世紀的な牧歌的な農村社会が、機械化された近代戦によって永遠に失われる直前の無垢な瞬間がテーマとなっています。写真に撮られた瞬間、農夫たちはただの人から歴史の証人へと変貌します。数十年後の現代に生きる登場人物がこの写真に魅了されることで、過去と現在が交差します。記録されたイメージは、時間が過ぎ去った後も私たちに何を語りかけ続けるのかを問いかけています。 

​ ​この作品は、3つの物語が並行して進みます(1914年の農夫、1980年代の雑誌編集者、そして写真の歴史を辿るエッセイ的な語り)。ヘンリー=フォードやサラ=ベルナールなどの実在の人物を交え、世界がいかにしてシステム化されていったかを描いています。一見無関係に見える出来事や人物が、科学や芸術の糸で複雑に結びついていくプロセスは、後のパワーズ作品に通底する大きなテーマです。

物語世界

あらすじ

​ ​物語の核となるのは、ドイツの伝説的写真家アウグスト=ザンダーが撮影した「舞踏会に向かう三人の農夫」という写真です。第一次世界大戦が勃発する直前の5月、ドイツのヴェスターヴァルト地方で、三人の若者が正装して舞踏会へと向かっています。


​ 彼らは自分たちの日常が戦争によって永遠に失われようとしていることに気づいていません。物語は、この三人がその後どのような運命(戦場、死、あるいは生存)を辿るのかを描き出します。


​ ​現代のボストンに住む雑誌編集者ピーター=メイズは、たまたま目にしたこの写真に強く惹きつけられます。 ピーターは写真の中の農夫の一人が、自分の祖先ではないかという直感に突き動かされ、彼らの正体を探る旅に出ます。


​ 彼の個人的な探索は、やがて歴史の大きなうねりと結びつき、偶然と運命の不思議な一致を見せていきます。


 ​三人目の語り手の著者の分身が、20世紀という時代そのものを解剖します。ヘンリー=フォード、サラ=ベルナール、そして写真家アウグスト=ザンダーなどの歴史上の人物たちが登場し機械化、大量生産、写真という技術が人間の認識をどう変えたかが語られます。農業を中心とした古い世界から、戦争とテクノロジーに支配される現代への転換点が、エッセイ的な筆致で綴られます。

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