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イーディス・ウォートン『エイジ・オブ・イノセンス』解説あらすじ

イーディス・ウォートン
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始めに

イーディス・ウォートン『エイジ・オブ・イノセンス』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ウォートンの作家性

 ヘンリー=ジェイムズ​は最も有名かつ重要な影響源です。二人は深い親交があり、ウォートンは彼を師と仰いでいました。​ウォートンはジョージ=エリオットの深い知性と、社会における道徳的な責任感に強く惹かれていました。


​ ウォートンはフランス文化を深く愛し、人生の後半をフランスで過ごしました。バルザックの社会全体を一つの有機体として捉え、詳細に記録する人間喜劇の手法に感銘を受けました。フローベールの写実主義にも刺激を受けました。


​ 文学作品だけでなく、当時の最新科学も彼女に大きな影響を与えています。ダーウィンの進化論やスペンサーの社会進化論を読み込み、人間もまた、環境や血統という抗えない力に支配される生物であるという冷徹な視点を持ちました。『歓楽の家』などの悲劇的な結末には、この環境から逃れられないという科学的な決定論が影を落としています。

個人とモラル

 個人の幸福が社会の伝統やルールといかに衝突するかが描かれます。1870年代のニューヨーク上流階級は、法律よりも強力な不文律で動いています。主人公のニューランド=アーチャーは、その息苦しさを感じながらも、結局はその部族の一員であることから逃れられません。社会の調和を乱すエレン=オレンスカなどは、物理的な暴力ではなく、冷ややかな視線や村八分のような洗練された残酷さで排除されていきます。


​ ​アーチャーは安定した生活(メイ)と、知的な刺激に満ちた愛(エレン)の間で悩みます。​メイ=ウェランドは伝統、予測可能性、そして正しいニューヨークを象徴します。​エレン=オレンスカは自由、芸術、ヨーロッパ的な複雑さ、そして真実の生を象徴します。


 ​「私たちは一緒にいられるでしょうか」というアーチャーの問いに対し、エレンが「不幸せなまま、他人の不幸せの上に築かれた幸福の中で?」と返す場面は、当時の道徳的自己犠牲の重みを象徴しています。

タイトルの意味

  ​タイトルの「純真」には、ウォートンの深い皮肉が込められています。

​ メイに代表される女性たちの「純真さ」は、実は男性社会によって慎重に作り上げられた無知に過ぎません。一見、世間知らずで従順に見えるメイが、実は誰よりも社会のルールを熟知し、それを利用して自分の家庭を守り抜く強かさを持っている点に、この作品の鋭さがあります。


​ 物語の最後、数十年後のエピローグでは、かつてアーチャーを縛り付けていた厳格なルールが、次の世代の時代には跡形もなく消え去っていることが描かれます。かつて命をかけるほど重要だったスキャンダルや体裁が、時間が経てば単なる古い習慣に過ぎなかったという虚無感が漂います。

物語世界

あらすじ

​ 主人公のニューランド=アーチャーは、名家出身の若き弁護士。彼は、上流階級の理想を体現したような純真な令嬢メイ=ウェランドと婚約し、輝かしい未来を約束されていました。


 ​そこへ、メイの従姉妹であるエレン=オレンスカ伯爵夫人がヨーロッパから帰国します。彼女は不実なポーランド貴族の夫と別居しており、当時の保守的なニューヨーク社会ではスキャンダラスな存在として浮いてしまいます。アーチャーは一族の依頼で、彼女が離婚を思いとどまるよう説得する役目を引き受けます。


​ ​自由奔放で知的なエレンと接するうちに、アーチャーは彼女の持つ深い人間性と、ヨーロッパ的な芸術的感性に強く惹かれていきます。それと同時に、自分が守ろうとしていたニューヨークの社交界がいかに退屈で、形式的で、偽善に満ちているかに気づき始めます。


 ​アーチャーはエレンへの愛を確信し、すべてを捨てて彼女と結ばれることを望みます。しかし、それを察知した「部族」は、音も立てずに動き出します。


 メイはアーチャーの心の揺らぎを感じ取り、あえて純真な顔をして結婚式を早めるよう促します。一族は一見親切を装いながら、エレンを孤立させ、アーチャーが逃げ出せないよう周囲を固めていきます。


​ ​結局、アーチャーはメイと結婚します。しかし、数年経ってもエレンへの想いは消えません。ついに彼はすべてを打ち明け、エレンと駆け落ちしようと決意します。
 ​

 ところが、決定的な瞬間にメイが妊娠を告げます。 しかも、メイはまだ確信が持てない段階で、真っ先にエレンにその事実を伝えていました。それは、エレンに身を引けという無言の宣告でした。エレンは去り、アーチャーは良き夫、良き父としての人生に閉じ込められます。


​ ​物語のエピローグは、メイが亡くなった後、年老いたアーチャーが息子と共にパリを訪れる場面です。
 

​ 息子の計らいで、パリで暮らすエレンの家を訪ねるチャンスが巡ってきます。しかし、建物の前まで来たアーチャーは、結局部屋には上がらず、一人でベンチに座って彼女の窓を見つめた後、そのまま立ち去ります。自分にとっての真実の愛は、現実の再会によって壊されるべきではない、記憶の中の美しい思い出のままにしておくべきだと悟ったのでした。

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