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イーディス・ウォートン『ローマ熱』解説あらすじ

イーディス・ウォートン
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始めに

イーディス・ウォートン『ローマ熱』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ウォートンの作家性

 ヘンリー=ジェイムズ​は最も有名かつ重要な影響源です。二人は深い親交があり、ウォートンは彼を師と仰いでいました。​ウォートンはジョージ=エリオットの深い知性と、社会における道徳的な責任感に強く惹かれていました。


​ ウォートンはフランス文化を深く愛し、人生の後半をフランスで過ごしました。バルザックの社会全体を一つの有機体として捉え、詳細に記録する人間喜劇の手法に感銘を受けました。フローベールの写実主義にも刺激を受けました。


​ 文学作品だけでなく、当時の最新科学も彼女に大きな影響を与えています。ダーウィンの進化論やスペンサーの社会進化論を読み込み、人間もまた、環境や血統という抗えない力に支配される生物であるという冷徹な視点を持ちました。『歓楽の家』などの悲劇的な結末には、この環境から逃れられないという科学的な決定論が影を落としています。

上流階級と心理戦

​ 物語の主人公、スレイド夫人とアンズリー夫人は、25年来の友人でありながら、その実態は嫉妬と優越感に満ちたライバル関係です。


​ スレイド夫人は、自分が活動的で魅力的な夫を手に入れ、地味なアンズリー夫人に対して優位に立っていると信じて疑いません。表面的には礼儀正しく、お互いを思いやる振りをしながら、腹の底では相手を蔑んでいるという、上流階級の洗練された残酷さが描かれています。

 スレイド夫人は、アンズリー夫人を思慮が浅く、おとなしいだけの女と決めつけていました。しかし、物語の終盤で、その認識がいかに独りよがりなものであったかが突きつけられます。 25年前、スレイド夫人がアンズリー夫人を罠に陥れるために書いた偽の恋文が、実は全く別の結末を招いていたという皮肉な構造になっています。

タイトルの意味

 タイトルの「ローマ熱」には二重の意味が込められています。まず当時ローマで流行していたマラリアのことです。加えて、 若き日の情熱、嫉妬、そして理性を失わせるような恋心を示します。
​「ローマ熱」は、かつて彼女たちの母親世代が恐れた病であり、彼女たち自身がかつて冒された情熱であり、そして25年後の今、再び二人の間で再燃する告白の熱を象徴しています。

 また ​二人の娘たち、ジェニーとバーバラの描写を通じて、時代の変化が示唆されます。親の世代が隠し持っていたドロドロとした情念に対し、娘たちはより自由で、あっけらかんとしています。​しかし、スレイド夫人は自分の地味な娘ジェニーに比べ、アンズリー夫人の娘バーバラがなぜあんなに光り輝くような魅力を持っているのか理解できず、そこに物語の答えが隠されています。

物語世界

あらすじ

 舞台はローマ。夕暮れ時、街を一望できるレストランのテラスで、二人のアメリカ人未亡人、スレイド夫人とアンズリー夫人がくつろいでいます。


 ​二人は若い頃からの友人同士で、今はそれぞれ年頃の娘ジェニーとバーバラを連れてローマを訪れていました。娘たちが遊びに出かけた後、二人は残って、自分たちがかつて恋に燃えた25年前のローマに思いを馳せます。


​ ​スレイド夫人は、知的で派手な自分に比べ、アンズリー夫人のことを地味で退屈な女と心の中で見下していました。しかし、アンズリー夫人の娘バーバラが、自分の娘よりもはるかに輝くような魅力を持っていることに嫉妬を覚えます。


 ​沈黙に耐えかねたスレイド夫人は、25年間胸に秘めていた残酷な真実を突きつけます。​「あの夜、あなたがコロッセオへ呼び出された手紙を書いたのは、婚約者だったデリフィンじゃない。私が書いたのだ」と。スレイド夫人は、ライバルだったアンズリー夫人を冷たい夜のコロッセオに呼び出し、待ちぼうけを食らわせ、風邪(ローマ熱)を引かせて恋路から脱落させようと罠を仕掛けたのでした。


​ ​スレイド夫人は、あなたは誰も来ない暗闇で一晩中私の嘘を信じて待っていたのね、と嘲笑います。しかし、ショックを受けたアンズリー夫人の口から出た言葉は、予想外のものでした。​「私は返事を出したの。デリフィンに『行くわ』と。だから、彼はちゃんと来たの」と。


 ​実は、スレイド夫人が書いた偽の手紙にアンズリー夫人が返事を出したため、本物のデリフィンが待ち合わせ場所に来てしまい、二人は密会を果たしていたのです。


​ ​優位に立っていたはずのスレイド夫人は動揺し、最終的に彼と結婚したのは私で、あなたには何も残らなかった、と叫びます。

​アンズリー夫人は席を立ち、去り際に静かに決定的な一撃を放ちます。​「私にはバーバラがいるわ」と。

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