始めに
シュニッツラー『夢小説』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
シュニッツラーの作家性
フロイトはシュニッツラーを「自分のドッペルゲンガー」と呼びました。交友のあった2人ですが直接の影響よりも、シュニッツラーは文学的直感によってフロイトと同じ深層心理に到達していました。
モーパッサンからは、文体や構成の影響を受けています。ロシア文学、特にドストエフスキーの深い心理洞察は、シュニッツラーに大きな感銘を与えました。初期のシュニッツラーは、当時流行していた「自然主義」からも刺激を受けました。ただし、シュニッツラーはそこから象徴主義的方面へ進みます。
カフェ=グリンシュタイドルに集まった文学グループからの相互影響があり、ホーフマンスタールやヘルマン=バールから刺激されました。
性愛の輪舞
この物語には、娼婦、兵士、小間使い、若旦那、若妻、夫、可愛い子ちゃん、詩人、女優、伯爵という、当時のウィーン社会のあらゆる階層が登場します。性欲の前では、高貴な伯爵も卑しい娼婦も、等しく同じ本能に突き動かされる動物であるということが描かれます。厳格な階級社会であっても、性を通じて異なる階級が密接に繋がっているという皮肉を描いています。
各シーンは情事の直前と直後の会話で構成されています。人間がいかにセックスを達成するために甘い嘘や理屈を並べ立てるか、という欺瞞が描かれます。誘惑する最中の熱狂的な言葉が、行為が終わった瞬間にいかに冷淡で空虚なものに変わるか。その滑稽さと残酷さが冷徹に描かれています。
華やかなタイトルとは裏腹に、そこには深い虚無感が漂っています。肉体的に結ばれても、魂は決して交わらないという絶対的な孤独が描かれます。次から次へと相手を変えても、結局は同じところをぐるぐる回っているだけで、どこにも辿り着けない人間の営みを象徴しています。
当時のウィーンに蔓延していた生への倦怠感と死への予感が背景にあります。刹那的な快楽に耽ることで、迫りくる時代の終焉や死の恐怖から目を逸らそうとする人々の姿が描かれます。
物語世界
あらすじ
10人の男女が数珠つなぎに情事を重ね、最後には最初の人物に戻るという円環構造そのものがあらすじとなっています。各場面は情事の前の駆け引きと情事の後の冷めた会話の2部構成で進んでいきます。
・娼婦と兵士:場末の街角。娼婦が兵士を誘い、無料でもいいからと情事に及びます
・兵士と小間使い:ダンスホール。兵士はダンスを楽しむ小間使いを強引に連れ出し、野原で情事を済ませると、彼女を放置して去ります。
・小間使いと若旦那:主人の留守宅。小間使いは奉公先の若旦那に誘惑され、身を任せます。
・若旦那と若妻:不倫の密会。若旦那は人妻を言葉巧みに誘惑し、彼女もまた「罪悪感」をスパイスにして快楽に耽ります。
・若妻と夫:夫婦の寝室。夫は妻に道徳を説き、自分たちの愛が高潔であると語りながら性交渉を持ちます。
・夫と可愛い子ちゃん:個室レストラン。夫は世間知らずな風を装う娘を囲い、教育者を気取りながら欲望を果たします。
・可愛い子ちゃんと詩人:隠れ家。詩人は娘をミューズとして扱い、芝居がかった言葉で彼女を酔わせます。
・詩人と女優:田舎の宿屋。プライドの高い二人が互いの虚栄心をぶつけ合い、激しく愛し合います。
・女優と伯爵:女優の寝室。倦怠感に満ちた貴族の伯爵が女優を訪ねます。肉体関係よりも、その後の哲学的な対話に重きが置かれます。
・伯爵と娼婦:翌朝。伯爵が目覚めると、そこは第1場で登場した娼婦の部屋でした。彼は昨夜の記憶が曖昧なまま、彼女に魂の繋がりをかすかに感じ、また日常へと戻ります。




コメント