始めに
ホーフマンスタール『薔薇の騎士』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ホーフマンスタールの作家性
ボードレール、ヴェルレーヌなどフランス象徴派の詩人たちから、言葉の音楽性や、繊細な感覚の表現を学びました。既成の言語への不信や、象徴的なイメージの使い方にランボーの影響を見ることができます。ワイルドやスウィンバーンなどイギリスの耽美主義からも影響を受け、芸術のための芸術、装飾的な美しさを追求しました。
古代ギリシャとバロック劇からも影響があります。ソポクレスやエウリピデスからの刺激で、『エレクトラ』や『オイディプスとスフィンクス』など、ギリシャ悲劇を近代的な心理劇へと翻案しました。カルデロン=デ=ラ=バルカはスペイン・バロックの劇作家で、彼の『人生は夢』や聖体劇の形式は、ホーフマンスタールの『ザルツブルク大世界劇場』などの祝祭劇に色濃く反映されています。
成熟期の彼は耽美主義から脱し、文化的な伝統との結びつきを重視するようになります。ゲーテはホーフマンスタールにとって生涯の師とも言える存在です。調和、伝統の継承、そして全体性という概念をゲーテから学びました。初期にはニーチェ『悲劇の誕生』におけるディオニュソス的な陶酔に影響を受けましたが、後にニーチェのニヒリズムに対しては批判的な距離を置くようになります。
シュテファン=ゲオルゲはドイツ象徴主義の巨頭で、若きホーフマンスタールの才能を見出し、自身のグループ(ゲオルゲ派)に誘いましたが、芸術至上主義的なゲオルゲと、より社会的・伝統的な広がりを求めたホーフマンスタールは、後に決別しました。
元帥夫人マルシャリンの諦念
第1幕の終盤、元帥夫人マルシャリンが独白するシーンが象徴的です。夜中に起きて時計をすべて止めてしまいたいと願う元帥夫人の姿は、若さが永遠ではないことへの不安と、愛するオクタヴィアンがいずれ自分のもとを去るという予感を表しています。すべての物事が移ろいゆく無常観を象徴しています。
若者たちの恋を成就させるために、自らの愛を潔く引き下がる元帥夫人の諦念が、作品に深い感動を与えます。自分の恋人が若い娘ゾフィーと恋に落ちたとき、彼女は嫉妬に狂うのではなく、自ら身を引くことで自尊心と気品を保ちます。
社会風刺
物語の舞台はマリアテレジア時代のウィーンですが、書かれた当時の20世紀初頭の社会情勢も反映されています。粗野で時代遅れの貴族オクス男爵は、特権階級の滑稽な末路を象徴しています。ゾフィーの父ファニナルは、金で爵位を買った成金であり、古い身分制度が崩れ、新しい経済力が台頭する時代の変化を描いています。
劇中では変装や、儀式が重要な役割を果たします。人間が社会的な役割を演じることの裏にある真実を見つめました。華やかな銀の薔薇の儀式も、本質的には形式に過ぎませんが、その形式を通じてしか伝えられない感情があることも示しています。
物語世界
あらすじ
第1幕:元帥夫人の寝室
18世紀、女帝マリア=テレジア時代のウィーン。ウィーンの貴族、元帥夫人マルシャリンは、夫の留守中に17歳の美青年オクタヴィアンと情事にふけっています。そこへ、夫人の従兄である放蕩者オクス男爵が騒々しく現れます。
オクスは、成金ファニナル家の娘ゾフィーとの婚約が決まったため、伝統に則って「銀の薔薇」を届ける使者(薔薇の騎士)を紹介してほしいと頼みに来たのです。夫人はいたずら心から、オクタヴィアンをその役に推薦します。
オクスが去った後、夫人は鏡を見つめ、自分の若さが失われていくこと、そしていつかオクタヴィアンも自分のもとを去ることを予感し、深い物思いに沈みます。
第2幕 ファニナルの屋敷
華やかな儀式の中、銀の薔薇を手にしたオクタヴィアンがゾフィーのもとへ現れます。しかし、顔を合わせた瞬間に二人は恋に落ちてしまいます。
そこへ婚約者のオクス男爵が登場。彼はゾフィーをまるで家畜のように扱い、下品な振る舞いを繰り返します。激怒したオクタヴィアンはオクスと決闘になり、彼の腕を軽く傷つけます。
オクタヴィアンは、ゾフィーと結婚しようとするオクスを追い出すための罠を仕掛けることにします。
第3幕:場末の居酒屋
オクタヴィアンは女装して小間使いのマリアンデルに化け、オクスを誘惑して密会へと誘い出します。酒場でオクスが彼女を口説こうとすると、あちこちから幽霊や隠し子を装った役者たちが現れるという、オクタヴィアンが仕組んだドタバタ劇が繰り広げられます。
騒ぎを聞きつけた警察やファニナル、そしてついに元帥夫人までもが登場します。万事休したオクスは、多額の勘定を押し付けられ、ほうほうの体で逃げ出します。
残されたのは、元帥夫人、オクタヴィアン、ゾフィーの3人。夫人は、オクタヴィアンが本当にゾフィーを愛していることを悟り、自ら身を引いて二人の仲を認めます。最後に若い二人が愛を語り合い、幕が閉じます。




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