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ヴォルテール『カンディード』解説あらすじ

ヴォルテール
Largillierre, Nicolas de (1656-10-10 - 1746-03-20), Portrait de Voltaire (1694-1778) en 1718, 1718. Huile sur toile. Musée Carnavalet, Histoire de Paris.
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始めに

ヴォルテール『カンディード』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ヴォルテールの作家性

 ヴォルテールはフランス啓蒙思想の巨頭ですが、彼の思想が完成するまでには、特にイギリス滞在の1726-1729年で出会った哲学者や科学者、そしてフランス国内の懐疑主義者たちからの多大な影響がありました。


​ ヴォルテールはロックの経験論に深く心酔しました。生まれながらの観念を否定し、理性的・寛容な社会を説くロックの姿勢は、ヴォルテールの『哲学書簡』の根底に流れています。ニュートンの科学的な方法論を、ヴォルテールはフランスに紹介しました。


​ ​ヴォルテールの代名詞である鋭い皮肉やユーモアは、イギリスの文豪たちから刺激を受けています。スウィフトの『ガリバー旅行記』などにおける社会の不条理を鋭く突く諷刺(サタイア)の手法は『カンディード』などの執筆に大きな影響を与えました。​アレキサンダー=ポープの詩的な表現や、楽天主義を論じた『人間論』に刺激を受けました。


​ ​ピエール=ベールは『歴史批評辞典』の著者で、あらゆるドグマを疑い、宗教的寛容を説くベールの態度は、ヴォルテールの反教権主義的な姿勢の先駆けとなりました。​モンテーニュの懐疑心と、偏見にとらわれない自由な精神からも学びました。


​ ​ルクレティウスという古代ローマの詩人における唯物論的な宇宙観や、宗教による恐怖からの解放を説く姿勢は、ヴォルテールの合理主義的への影響が見えます。

保守主義的テーマ

 物語の柱は、哲学者ライプニッツが提唱したこの世は神が作った最善の場所であるという理論への反論です。


​ 主人公の師パングロスは、どんな悲惨な目に遭ってもすべては最善の結果のためにあると言い張ります。ヴォルテールは、カンディードに戦争、梅毒、拷問、宗教裁判、奴隷制、そしてリスボン大地震という、当時の人間が直面しうる最悪の事態をこれでもかと浴びせます。現実にこれほど悪が溢れているのに、どうしてこれが最善の世界だと言えるのかという強烈な疑問を突きつけています。


​ ​ヴォルテールは、楽天主義だけでなく、当時の社会組織や宗教機関の腐敗も鋭く批判しました。寛容を説くはずの聖職者が残酷だったり、私欲に溺れていたりする様子が描かれます。血統だけにこだわり、中身のない貴族たちの滑稽さが、カンディードが愛するクネゴンドの家族などを通じて揶揄されます。

​ 物語の結末で、カンディードが辿り着いた答えが、​「それはおっしゃる通りですが、私たちは自分の庭を耕さなければなりません」(Il faut cultiver notre jardin.)というものです。​これは単に農業をしようという意味ではなく、宇宙がどうだとか、神の摂理がどうだとかいう「答えの出ない議論」を止め、目の前にある自分にできる仕事に集中し、手を動かすことこそが、退屈・悪徳・欲求不満という3つの大きな悪から人間を救う唯一の手段であるという主張です。

物語世界

あらすじ

 主人公のカンディードは、ドイツの男爵の城で育った素朴な青年です。彼は家庭教師のパングロスから、「この世は考えうる限り最善にできている」というポジティブな哲学を叩き込まれていました。
 
 しかし、男爵の娘クネゴンドとキスをしているところを見つかり、尻を蹴り上げられて城を追い出されてしまいます。

 ​城を出たカンディードを待ち受けていたのは、パングロスの教えとは正反対の凄惨な現実でした。無理やり軍隊に入れられ、凄まじい虐殺を目の当たりにします。​リスボン大地震に遭い、さらに地震を防ぐための生贄として宗教裁判にかけられます。死んだと思っていたクネゴンドと再会するも、彼女は権力者の愛人にされており、カンディードは殺人を犯して逃亡します。


​  南米の奥地で、金銀が道端に転がっている理想郷を見つけますが、クネゴンドがいない楽園に意味はないと、大量の宝石を持ってそこを去ります。


​ その後、カンディードは世界中で騙され、強盗に遭い、愛するクネゴンドが奴隷となって醜くなってしまったという知らせを聞きます。彼は悲観主義者の老人マーティンを道連れに、人間は苦しむために生まれてきたのかと自問しながら旅を続けます。


​ ​最後、カンディードは生き延びていたパングロスや、老いて醜くなったクネゴンド、かつての仲間たちと再会し、トルコの片田舎で一緒に暮らすことになります。


​ パングロスは相変わらず「これら全ての不幸があったからこそ、今こうして干しブドウを食べられる。やはり世界は最善だ」と屁理屈をこねます。しかし、散々ひどい目に遭ってきたカンディードは、もうその言葉には耳を貸しません。彼は静かにこう返します。​「おっしゃる通り。でも、私たちは自分の庭を耕さなければなりません」と。

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