始めに
パール=バック『大地』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
パール=バックの作家性
パール=バックはディケンズの影響を受けました。少女時代、中国の家でディケンズの全集に触れたのでした。またバックはラーゲルレーヴからの感化もあります。
『水滸伝』のサーガ形式、『紅楼夢』の家族の興亡やリアリズムにおいて中国古典文学の伝統を吸収しています。
母親のキャリー=サイデンストリッカーが語るアメリカの故郷の話や、身近な出来事をドラマチックに伝える語り口が、パールの描写力を養いました。後にパールは母親の伝記『母の肖像』を執筆しています。
大地
この作品のテーマは、土地こそが生命と安定の唯一の源泉であるということです。主人公の王龍(ワン=ルン)にとって、土地は単なる不動産ではなく、信仰に近いものです。飢饉で全てを失いかけても、土地さえあればやり直せると信じ、実際に土を耕すことで立ち直ります。
王龍が土地を愛している間は精神的に健全ですが、富を得て土地から離れ、贅沢な暮らし(町での生活や側室を持つこと)に溺れるようになると、家庭内に不和と腐敗が生じます。
苦労して財を成した初代(王龍と阿蘭)に対し、その豊かさの中で育った息子たちは、土地の尊さを忘れ、価値観が多様化していきます。
作品の結末で、王龍が死の間際に「土地を売ってはならぬ」と諭す傍らで、息子たちが土地を売る算段をする場面は、この避けられない歴史の皮肉を象徴しています。
伝統と女性
妻の阿蘭(オラン)を通じて、当時の女性の過酷な地位と、それを支える精神的強さが描かれています。阿蘭は元奴隷という低い身分ながら、王龍を支え、飢饉を生き抜き、一家を繁栄させる影の立役者です。
彼女の強さは土地そのもののようですが、王龍が豊かになると、彼女の無骨さが疎まれるようになります。ここに、伝統的社会における女性の悲劇と尊厳という重いテーマがあります。
物語の背景には、古い習慣(纏足や大家族制)が残る一方で、近代化や革命の足音が聞こえ始める「移行期の中国」が描かれています。かつて王龍が仕えていた黄家という貴族の没落と、農民である王龍の台頭を対比させることで、社会構造の劇的な変化を浮き彫りにしています。
物語世界
あらすじ
物語は、王龍が町の有力者黄家から、奴隷として働いていた阿蘭を妻に迎えるところから始まります。寡黙で働き者の阿蘭は、家事だけでなく畑仕事もこなし、一家は少しずつ豊かになっていきます。
しかし、ひどい干ばつが村を襲います。一家は飢えを凌ぐために南の都市へと逃れ、物乞いや人力車引きをして辛うじて生き延びます。
南の街で暴動が起きた際、王龍と阿蘭は混乱に乗じて金品を手に入れます。彼らはその金を持ってすぐさま故郷の村へ帰り、荒れ果てた土地を買い戻します。
王龍は持ち前の勤勉さで次々と土地を買い足し、かつて阿蘭が仕えていた黄家をも凌ぐほどの大富豪へと成長します。豊かになった王龍は、次第に土を耕すことをやめ、街の社交場へ通うようになります。彼はそこで美妾の荷花(蓮花)を迎え、献身的な妻である阿蘭を疎んじるようになってしまいます。
家族の長として君臨する王龍でしたが、やがて老いと、避けて通れない家族の崩壊が訪れます。長年黙々と一家を支え続けた阿蘭は、王龍の心変わりによる孤独の中で、静かに息を引き取ります。
王龍は土地こそが命と信じて疑いませんでしたが、贅沢に育った3人の息子たちは土地への愛情を持っていません。長男は金遣いの荒い地主になり、次男は商人に、三男は軍人を目指します。
王龍が死の床についた際、息子たちは彼を安心させるために「土地は売りません」と誓いますが、彼の背後ではすでに土地を切り売りする相談を始めていました。




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