始めに
ラクロ『危険な関係』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ラクロの作家性
ラクロに最も大きな影響を与えたのは、イギリスの作家リチャードソンです。彼はリチャードソンの書簡体小説に深く傾倒していました。『クラリッサ』や『パミラ』に見られる美徳が危機にさらされるというテーマや、心理描写の技法を学びました。
『新エロイーズ』の著者であるルソーも、ラクロに影響があります。クレビヨン=フィス はフランスのリベルタン(放蕩)文学の旗手で影響しました。
語りの構造と心理劇
18世紀のフランス貴族社会を舞台に、175通の手紙によって綴られる書簡体小説です。
主人公のヴァルモン子爵とメルトゥイユ侯爵夫人にとって、恋愛は心を交わすものではなく、相手を屈服させ、堕落させる征服のゲームです。相手の弱点を分析し、包囲網を築き、最終的に陥落させるプロセスそのものに彼らは快感を覚えます。
当時の男性優位社会において、女性が自由を手に入れるためには知略と偽善が不可欠でした。メルトゥイユ侯爵夫人は自分自身を創り上げたと豪語し、男性を操ることで権力を握ろうとします。ヴァルモンとメルトゥイユのやり取りは、かつての恋人同士の親愛ではなく、どちらがより冷酷で、より優れた策士であるかを競う主導権争いです。
社交界の偽善と破滅
物語の舞台は、フランス革命直前の停滞した貴族社会です。実際に行っている悪徳よりも、どう見られているかがすべてを決める世界です。登場人物たちは手紙の中で、相手によって言葉巧みに仮面を使い分けます。この見せかけの美徳と裏側の冷酷さのギャップが、物語に緊張感を与えています。
リベルタン(放蕩者)たちが、自らの冷徹な理性によって自滅していくプロセスも重要です。ヴァルモンはトゥルベル法院長夫人を誘惑する過程で、自分でも気づかぬうちに本物の愛を抱いてしまいます。これは彼自身のアイデンティティを崩壊させる致命的なミスとなります。
感情を排除してゲームを楽しんでいたはずの二人が、最後には互いへの嫉妬やプライドから、共倒れしていくのでした。
物語世界
あらすじ
18世紀のフランス貴族社会を舞台に、175通の手紙によって綴られます。
物語の主役は、稀代のプレイボーイであるヴァルモン子爵と、美しく冷酷な策士メルトゥイユ侯爵夫人です。かつて恋人同士だった二人は、今は互いの悪徳を認め合う戦友のような関係です。
ある日、メルトゥイユはヴァルモンに復讐の協力を持ちかけます。自分を捨てた男への復讐に、その男の婚約者である純潔な少女セシルを、結婚前にヴァルモンが誘惑して汚すことを頼むのでした。
ヴァルモンはこの簡単な依頼に満足せず、より難易度の高い獲物を狙います。メルトゥイユの依頼通り、純真なセシルを誘惑し、堕落させます。
それからトゥルベル法院長夫人という貞淑で信仰心の厚い既婚女性を、ヴァルモンは、屈服させようとします。
ヴァルモンは言葉巧みにトゥルベル夫人を追い詰め、ついに彼女を「陥落」させます。しかし、ここで誤算が生じます。ヴァルモン自身が、彼女を本気で愛し始めてしまったのです。
これに気づいたメルトゥイユは激しい嫉妬とプライドから、ヴァルモンに究極の選択を迫ります。愛などではないと証明するために、トゥルベル夫人を無残に捨てることでした。
ヴァルモンは自尊心のために夫人を捨て、絶望した夫人は病に倒れます。
その後、メルトゥイユの策略により、セシルの恋人ダンスニーと決闘することになったヴァルモンは、致命傷を負って命を落とします。
ヴァルモンは死の間際、メルトゥイユの悪行を暴露する手紙をダンスニーに託します。
悪事が社交界に知れ渡った彼女は、財産も名声も失い、さらに天然痘にかかって美貌まで失い、フランスを逃げ出します。




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