はじめに
E=ブロンテ『嵐が丘』解説あらすじを書いていきます。
語りの構造、背景知識
ロマン主義
ブロンテ姉妹は、イギリスのロマン主義を代表する作家です。シェイクスピア、バイロン、スコット、ワーズワースなどのロマン主義からそのロマン主義を形成していきました。
『嵐が丘』には、シェイクスピアの悲劇『リア王』、『ロミオとジュリエット』『マクベス』、『ハムレット』への言及があります。
またホフマンのロマン主義、幻想文学の影響も顕著で、本作もゴシック文学風味の演出が垣間見えます。
階級制度
舞台となる18世紀後半から19世紀ごろには産業革命が進行し、1847年までにイングランドの大部分では新興のブルジョワジーが支配的な勢力となっていました。これは社会階級の伝統的秩序に混乱を引き起こし、中流階級が拡大し、紳士を定義する新しい基準も生まれ、伝統的な血統や家柄などによる秩序を揺らがせました。
ヒースクリフが活躍したのもまさにそんな時代でした。愛するキャサリンに裏切られたと錯覚して行方不明になり、ヒースクリフはその後富を手に入れて戻ってきます。そして自分を虐待したヒンドリー、キャサリンを奪ったエドガー、そして自分を捨てたキャサリンへと復讐しようとして、復讐の標的の暮らす嵐が丘を乗っ取ろうと画策します。
語りの構造
語り手はロックウッドという男ですが、彼は物語のなかでは部外者です。そして彼に家政婦のネリー=ディーンが語る部分が大抵ですが、ほかにも何人かの語り手が現れ、物語をさまざまな視点から描きます。
こうした枠物語的構造、非線形の語りはゴシック文学のモードを踏まえるものです。
二つの家の物語
本作は複雑なプロットと語りの構造ですので、ざっくり整理します。
物語は鶫の辻に暮らすリントン家と嵐が丘に暮らすアーンショウ家という2つの家族が中心です。アーンショウ家に孤児ヒースクリフが引き取られ、養子のようになり、娘キャサリンと惹かれ合います。しかしアーンショウの死後はその息子ヒンドリーに虐待され、またエドガー=リントンに愛するキャサリンを奪われ、そのキャサリンの真意をも誤解してヒースクリフは絶望して失踪し、エドガー、ヒンドリー、キャサリンへの復讐のために富を得てこの地に戻ってきます。
ヒースクリフは順調に復讐を果たし、嵐が丘と鶫の辻を支配するようになるものの、死の淵にあるキャサリンと和解したこともあって心が揺らぎ、やがてヒンドリーとフランシスの息子ヘアトンと、エドガーとキャサリンの娘キャシーが結ばれ、この2人はまるであり得たかもしれないヒースクリフとキャサリンのようであったために復讐の感情が失せて、ただキャサリンを失った悲しみだけがのこったヒースクリフは死ぬ、という内容です。
物語世界
あらすじ
1801年、都会の生活に疲れた人間嫌いの青年ロックウッドは、人里離れた田舎にある「スラッシュクロス(鶫の辻)」と呼ばれる屋敷を借りて移り住みます。
ロックウッドは挨拶のため唯一の近隣であり大家の住む屋敷、「ワザリング・ハイツ(嵐が丘)」を訪れ、主人のヒースクリフと面会します。ヒースクリフは不愉快な人間でひたが、彼に興味を抱いたロックウッドは再び嵐が丘を訪問します。
嵐が丘にはヒースクリフのほか、キャサリン=リントンという娘と粗野な男ヘアトンがいました。キャサリンは美しいものの生気がなく、ヘアトンは召使のような格好ですが、食卓を一緒に囲んでいます。住人たちの関係は冷え切り、客前でも平気で罵りあいます。
その夜、吹雪のためにロックウッドは宿泊を申し込むものの、ヒースクリフに断られます。しかし、気の良い家政婦のズィラに案内され、秘密で部屋をあてがわれます。その部屋でロックウッドはキャサリン=アーンショウの日記を発見し、読みながら眠ってしまいます。
物音に目を覚ましたロックウッドは、少女の幽霊が窓を叩きながら「ヒースクリフ、私よ、キャシーよ」と呼び掛ける姿を目にします。恐怖からロックウッドが叫び声を上げると、激昂したヒースクリフが駆けこんできます。しかし彼は幽霊の話を聞くと表情を変え、窓に取りすがり「キャシー、帰っておいで」と泣き崩れます。
翌日、鶫の辻に戻ったロックウッドは、家政婦のネリーに事情を尋ねます。実はネリーはかつて嵐が丘で働いていた家政婦の娘で、嵐が丘と鶫の辻、二つの屋敷にまつわる過去を知っています。
昔、この嵐が丘には地主のアーンショウとアーンショウ夫人、その子供の兄ヒンドリーと妹キャサリンが暮らしていました。ある日、アーンショウは外出先のリヴァプールで身寄りのない混血の少年を哀れみ、家に連れ帰ります。彼はその男児をヒースクリフと名づけ可愛がるものの、得体のしれない出自と浅黒い肌を持ち、英語もよく話せないヒースクリフを召使たちは嫌い、ネリーも秘かに彼を虐めていました。また、父の愛情を奪われたと嫉妬したヒンドリーはヒースクリフを憎み暴力を振るうようになったため、寄宿学校に入れられます。キャサリンは、最初はヒースクリフを警戒していたものの打ち解け、一緒に荒野を駆けまわります。
しかし数年後、アーンショウと夫人が亡くなると、妻フランセスを連れて戻ったヒンドリーが嵐が丘の主人となり、ヒースクリフは下働きになります。それでもヒースクリフとキャサリンの絆は変わらず、キャサリンはヒースクリフを手伝って畑を耕し、勉強を教えます。いつしか二人は恋に落ちます。
ある日キャサリンとヒースクリフは悪戯心から鶫の辻の敷地に入り、屋敷の中を覗いて番犬をけしかけられ、キャサリンが足を噛まれます。鶫の辻の主人リントンは、彼女が嵐が丘の娘キャサリンと知ると屋敷に招き入れて手当てをするものの、下働きに見えるヒースクリフは邪険にされ、嵐が丘へと戻されます。
療養のためにしばらくリントン家にとどまろうとするキャサリンは、リントン夫人やその息子エドガー、エドガーの妹イザベラにも歓迎され、身分にふさわしい待遇と教育を受けます。5週間後のクリスマス前日、嵐が丘へと戻ったキャサリンはすっかり淑女となり、ヒースクリフはそれにそよそしい態度をとってしまいます。キャサリンも、もはや元の粗野な振舞いに戻れず、二人の間には距離ができます。
その翌日、クリスマスパーティーに出席するため、リントン家の兄妹が嵐が丘を訪れます。リントン家からの申し入れでヒースクリフは同席を拒まれます。同情したネリーは、場にふさわしい身なりを整えてやるものの、ヒンドリーに追い出され、エドガーからは伸びっぱなしの髪を「仔馬のたてがみ」と馬鹿にされます。怒ったヒースクリフは熱いアップルソースをエドガーに浴びせ、エドガーは泣きじゃくりキャサリンに呆れられます。ヒースクリフはヒンドリーに折檻され、屋根裏部屋に閉じ込められるものの、ネリーに助けられます。ヒースクリフはヒンドリーに恨みを募らせ、復讐してやるといいます。
フランセスはヒンドリーの息子ヘアトンを出産後、体調を崩して亡くなり、悲しみから酒びたりとなったヒンドリーは、酔って幼いヘアトンを殴るようになります。屋敷は荒れ果てるものの、キャサリンに恋したエドガーだけは通い続けます。
ある日、キャサリンに招待されたエドガーが屋敷を訪れると、キャサリンは掃除を続けて部屋を出ないネリーと口論しています。その様子に怯えたヘアトンが泣き出すと、キャサリンは肩を揺さぶって泣き止ませようとします。驚いたエドガーが止めようとしたところ、うっかりキャサリンは彼を打ってしまいます。エドガーは怒り絶交を宣言し、キャサリンは泣き出します。結局はこの喧嘩が逆に作用して、二人の仲は深まります。
その夜、キャサリンはエドガーに求婚され、承諾したことをネリーに打ち明けます。容姿端麗で裕福なエドガーは理想の結婚相手で、身分違いのヒースクリフと結婚すれば、自分も下層階級になるとキャサリンは悩みます。ネリーはそれを批判し、ヒースクリフを捨てられるのか、ヒースクリフの気持ちを考えないのかと咎めるものの、キャサリンは、自分が魂の片割れであるヒースクリフを捨てることはないと言い、エドガーと結婚すればその資産でヒースクリフを援助するのだと話します。
たまたまこの会話を立ち聞きしたヒースクリフは、キャサリンが自分との結婚を否定したところで耐えられず、その後の彼女の本音を聞かないまま家を飛び出します。ヒースクリフが行方不明になったことを知ったキャサリンは錯乱し、寝込んでしまうものの、ネリーの看護とエドガーの励ましにより回復します。エドガーと結婚し、ネリーを伴って鶫の辻へと移ります。
3年後、ヒースクリフは裕福な紳士となって荒野に舞い戻ります。それは自分を虐待したヒンドリー、キャサリンを奪ったエドガー、そして自分を捨てたキャサリンへ復讐するためでした。
その目的を知らないキャサリンは再会に大喜びするものの、エドガーはそれを見て嫉妬と不安を抱き、さらに妹のイザベラがヒースクリフに惹かれ始めて困惑します。キャサリンも、イザベラにはふさわしくないと忠告するものの、夢中になったイザベラは昔の関係を持ち出してキャサリンに反発します。
ヒースクリフは当初イザベラを冷たくあしらいますが、むしろエドガーとキャサリンに対する復讐のチャンスだと考え、イザベラを誘惑し始めます。それを止めようとするキャサリンに、これは復讐だとヒースクリフは話し、二人は口論となります。ネリーは二人を止めようとエドガーに告げ口するものの、それが誤解を招き、今度はキャサリンとエドガーが争います。エドガーはヒースクリフの出入りを禁止し、彼と別れるか自分と離婚するかとキャサリンに迫ります。キャサリン怒り、食事もとらないまま3日間も閉じこもり、精神を病んで衰弱します。心配したネリーは医者を呼びに行くものの、イザベラはその夜のうちにヒースクリフと駆け落ちします。
それから2か月後、エドガーの子供を身ごもっていたキャサリンは、精神錯乱と妊娠による消耗で、危篤になります。そこへネリー宛に、嵐が丘のイザベラから手紙が届きます。そこには、キャサリンの忠告が本当であり、ヒースクリフに騙されていたと気付いたこと、毎日つらくもはやヒースクリフに憎しみを抱いていることが綴られ、これを兄と義姉には知らせないでほしいが、ネリーが来ることを楽しみにしていると結んでいました。イザベラの身を案じ、嵐が丘に向かったネリーは、ヒースクリフに捕まり、キャサリンとの密会を強要されます。
ネリーの手引きでヒースクリフはエドガーの留守に鶫の辻を訪問し、最後の逢瀬をします。衰弱し死を待つばかりのキャサリンを見たヒースクリフは動揺し、思わず彼女への素直な愛情を口にします。キャサリンも最後には彼を受け入れます。しかしそこへエドガーが帰宅し、ネリーは二人を引き離そうと騒ぎ、かえって事をエドガーに気付かせます。ヒースクリフの腕の中で気を失っているキャサリンを見たエドガーは、怒りからヒースクリフに掴み掛るものの、ヒースクリフはまずキャサリンの手当てをしろ、と言い放ち屋敷を去ります。キャサリンは意識を回復するものの、正常な精神には戻りませんでした。
その夜、キャサリンは出産を終えると亡くなり、エドガーは残された娘に母と同じキャサリン(キャサリン=リントン)と名付け、亡き妻と区別するためにキャシーと呼びます。エドガーはキャサリンをリントン家の墓地ではなく、緑の丘に埋葬します。
その翌日、鶫の辻に怪我だらけのイザベラがやってきます。ヒースクリフの暴力から脱出したのでした。それからイザベラはロンドンへと逃れ、そこでヒースクリフの息子リントン(リントン=アーンショウ、リントン)を出産します。
酒に溺れるようになったヒンドリーはヒースクリフに賭博を仕掛けられ、嵐が丘の屋敷と土地を抵当に彼から借金を重ねませ。そのヒンドリーが亡くなり、ヒースクリフが嵐が丘の新たな主人となります。嵐が丘を手にしたヒースクリフは、本来なら嵐が丘の後継者であったヘアトンを、かつての自分同様の下働きにします。ヘアトンはキャサリンによく似ており、ヒースクリフも内心ヘアトンを気に入っていたものの、憎んでいるヒンドリーの息子であり、ヒースクリフは復讐のために愛情を捨てました。こうしてヘアトンは教育を与えられずこき使われ、品性を失いました。
キャシーは父エドガーの愛情を受け、鶫の辻で育てられます。彼女が12歳になったころイザベラが亡くなり、遺言により一子リントンはエドガーに引き取られます。エドガーがロンドンに出掛けている間に、キャシーは嵐が丘の敷地へ入り込み、そこで偶然ヘアトンと出会います。ヘアトンは18歳になっていたものの、ヒースクリフから受けた仕打ちの結果、読み書きもできません。キャシーはそんな人間が存在すること、そしてそれが自分のいとこであることを知って驚くものの、それでも友達ができたと喜びます。
エドガーは鶫の辻にリントンを連れ帰ります。リントンは病弱で気難しい少年ですが、キャシーは彼を歓迎します。そこへ嵐が丘の下男、ジョウゼフが使いに現れ、ヒースクリフが息子リントンを寄越すように命じたと伝えます。その翌日、エドガーは渋々、ネリーを付き添わせてリントンを送り出します。しかしリントンを見たヒースクリフは失望し、彼を見限ります。ヒースクリフの態度に怯えたリントンは泣きだします。
キャシーが16歳になるころ、虚弱なリントンは20歳まで生きられないと言われています。エドガーも体が弱り、どちらが先に亡くなるかという状態でした。ヒースクリフは、鶫の辻の先代であるエドガーの亡父の遺言がまだ有効で、男性の血縁だけに相続権があることに着目し、自分の息子でエドガーの甥であるリントンと、エドガーの娘だが相続権のないキャシーを結婚させて、鶫の辻を間接的に自分のものにしようとします。
ヒースクリフはリントンをけしかけ、キャシーはリントンに恋したと錯覚し、父エドガーに内緒で会いに行くようにります。エドガーはキャシーにヒースクリフの危険性を知らせます。キャシーは会いに行くことはやめたものの、秘かにリントンと文通しますが、ネリーに手紙の束を発見され、焼き捨てられます。
エドガーが病に倒れ、キャシーが落ち込んでいると、ヒースクリフはリントンの体調が悪いので会いに来るよういいます。キャシーは再びリントンに会いに行くようになり、病気になったネリーは3週間も寝込み、彼女を引き留められません。
リントンは体調が悪いことを訴え、ヒースクリフの機嫌を気にするばかりでキャシーを落胆させ、二人の仲は進みません。ヒースクリフは、キャシーが回復したネリーを伴って訪れた際、二人を引き離し、数日間監禁します。このままでは父エドガーの死に目に会えないと脅され、キャシーは結婚を了承します。
嵐が丘から脱出したネリーは、手勢を集めてキャシーを奪還しようとします。エドガーは遺言状を書き換えようと弁護士を手配するものの、ヒースクリフの買収で失敗します。そこへリントンの手助けで屋敷を抜け出し、キャシーが戻ります。キャシーはかろうじて父を看取ったものの、鶫の辻はすでにヒースクリフが支配しています。
エドガーの葬儀後、キャシーを連れ戻そうと鶫の辻にやってきたヒースクリフは、ネリーに「キャサリンの墓を暴いた、自分が死んだらキャサリンの隣に葬られ、土の下で一緒になりたい」と告白をします。彼女の死から18年、ヒースクリフは復讐に燃えるものの、キャサリンへの思いに苦しみます。ネリーはキャシーとリントンが鶫の辻で生活できるよう懇願するものの、ヒースクリフはキャシーを嵐が丘へと連れ去ります。
その後、ネリーは嵐が丘の家政婦ズィラから、嵐が丘の様子を聞かされます。リントンは亡くなり、キャシーは嵐が丘の誰もリントンを助けてくれなかったと恨みます。そのためヘアトンが好意を示しても無碍にし、ズィラからも嫌われているそうです。やがて鶫の辻は売りに出され、それを賃貸したのがロックウッドでした。
ロックウッドは鶫の辻での生活を終わらせ、ロンドンへ去ります。しばらく後、友人から招待を受けて北イングランドを訪れたロックウッドは、ネリーを訪ねようと鶫の辻へ向かうものの、応対するのは見知らぬ家政婦で、ネリーは今は嵐が丘にいると伝えられます。早速嵐が丘へと向かい、ネリーと再会すると、屋敷の様子は変わっていました。
険悪だったキャシーとヘアトンは恋人同士となり、キャシーの美しさは、ロックウッドがヘアトンに嫉妬するほどでした。ネリーの話によると、ヒースクリフは3ヶ月ほど前に死んだそうです。
読み書きもできないことを馬鹿にされていたヘアトンですが、キャシーに認められたいために必死に勉強します。最初は彼をさげすんでいたキャシーも、そのひたむきさに惹かれて文字を教えるようになり、親しくなります。一方ヒースクリフは、当初キャシーとヘアトンを虐めようとしていたものの、キャサリンに似た二人が仲良くしているため、その気も失せます。やがてこの世はキャサリンが生きていたこと、それを自分が失ったことを記した膨大な備忘録だと語り、生きる気力をなくし、食事もとらなくなります。やがてある大雨の日、ネリーが部屋で死んでいるヒースクリフを発見します。
それ以来、村にはヒースクリフとキャサリンの亡霊がさまよい、下男のジョウゼフも雨が降る日にはヒースクリフの寝室の窓に二人の姿が浮かぶと伝えます。
話を聞き終えたロックウッドは、恋人たちの邪魔をしないよう、裏口から屋敷の外へ出ます。キャサリン、エドガー、ヒースクリフの墓を眺めたロックウッドが、彼らの安らかな眠りに思いを馳せます。
参考文献
・青山 誠子 (著)『ブロンテ姉妹』




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