始めに
オーウェル『動物農場』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ユートピア文学、ディストピア文学
本作はユートピア文学、ディストピア文学の作品です。
ユートピアという言葉は、1516年に出版されたイギリスの思想家トマス=モアの著作『ユートピア』(Utopia)で初めて用いられました。ユートピアという言葉は、ギリシア語の outopos(存在しない場所)と eutopos(良い場所)の両者を踏まえ、理想的な国家に関する両義的で皮肉なモデルをそこで提起しました。これがその後のユートピア文学、ディストピア文学のモードに影響します。
ピカレスクと英米文学
英米文学は、ピカレスクというスペインの文学ジャンルからの影響が顕著です。ピカレスクは、アウトローを主人公とする文学ジャンルです。ピカレスクは「悪漢小説」とも訳されますが、傾向としてピカレスクの主人公は悪人ではなく、アウトローではあっても、正義や人情に篤く、その視点から世俗の偽善や悪を批判的に描きます。高倉健のヤクザ映画みたいな感じで、主人公はアウトローだけど善玉、みたいな傾向が強いです。
このピカレスクから英文学は顕著な影響をうけ、しかしフィールディング『トム=ジョーンズ』などを皮切りに、ピカレスクに刺激されつつも、それを英文学固有の表現として継承していきました。デフォー『モル=フランダーズ』なども有名です。
そうした土壌の上で、ディケンズ『デイヴィッド=ゴッパーフィールド』、トウェイン『ハックルベリー=フィンの冒険』も展開されましたが、トウェインはオーウェルも好んだ作家でありました。
本作もピカレスク的に、現実社会主義国家の不正義や偽善について批判的に描きます。
モーム、スウィフト的サタイア
オーウェルはサマセット=モーム(『人間の絆』『月と六ペンス』)やスウィフトの作品を好んでいました。ふたりとも風刺的な作品を特徴としています。
スウィフトには『ガリヴァー旅行記』があり、あれが異世界冒険譚でありディストピアめいた世界をも描いていたのが印象的ですが、本作も全体主義がもたらすディストピアを描いています。
ロレンス、フォースター的なリベラリズム
またD.H.ロレンス(『チャタレイ夫人の恋人』)やE.M.フォースター(『インドへの道』)のリベラリズム、自由主義からもオーウェルは影響され、自身も自由のためにファシズムに抗い、スペイン内戦への参加の中で『カタロニア讃歌』をものしました。
本作は革命後の権威主義と全体主義によって自由が損なわれるプロセスを描いています。自由のための闘いが、いつのまにか新しい不正義を作り出す不条理を描いています。
左翼的リベラリズムから、ファシズムへの警鐘
オーウェル自身は左翼的なリベラリストでしたが、自由主義のために積極的に行動し、また左翼の不正義も追及しました。
本作に描かれているのも、ソ連の社会主義、共産主義がファシズムへと変貌しつつあることに対する批判になっています。
物語は革命によって指導者になった豚が独裁者と化し、恐怖政治を展開していく姿を描いていて、ロシア革命以降のソ連の歴史をなぞる内容になっています。独裁者であるナポレオンはスターリンで、そのライバルのスノーボールはスターリンです。
民主主義、社会主義、共産主義の理想が、ともすれば全体主義や国家資本主義へと変貌するリスクや、革命の弊害の危険性、ソ連に対する無批判な信頼などを批判する内容になっています。
物語世界
あらすじ
イギリス・ウィリンドン近くにあるマナー農場。農場主のジョーンズ氏はアルコール中毒の怠け者で、家畜たちは不満です。
動物から尊敬される老いた雄豚メージャー爺さんは、夜の動物たちの集会で、人間を排除し、全ての動物の平等と自由を謳う「動物主義」を唱えます。農場の動物たちはこれに賛同し、革命歌「イングランドの獣」を歌い、反乱のムードが起こります。
メージャー爺さんが亡くなると2匹の若い雄豚スノーボールとナポレオンが後を引き継ぎます。彼らは動物たちを指揮してジョーンズ氏に反逆し、人間を農場から追い出します。農場は「動物農場」と改名され、人間を敵視し、すべての動物は平等、などを定めた7つの掟が宣言されました。農場の食料は豊富であり、革命前に宣伝されていたほどではないにせよ、動物たちは前より恵まれた生活を送ります。
農場の運営方針は動物たちの最高会議の賛否で民主的に決定されるものの、種族によって知能はいろいろで、革命を指揮したスノーボールとナポレオンを代表に、知能が比較的高く数も多い豚たちがリーダーシップをとります。スノーボールは他の動物に読み書きを教え、羊たちなど知能が低い動物たちのためには掟を要約した「4本脚は良い。2本足は悪い」のスローガンを作り出します。他にもスノーボールは種族ごとの委員会を組織したり、野生動物にも動物主義を広めようとするものの、失敗します。ナポレオンはスノーボールの活動には興味がなく、生まれたばかりの子犬たちに動物主義の原理を教えます。また、豚たちは自分たちが牧場の運営に必要であることを強調し、他の動物たちよりも良い食料を優先的に食べます。
間もなく、ジョーンズ氏は隣接する他の農場主と農場を奪還しようとするものの、スノーボールと雄馬ボクサーの活躍で失敗(「牛舎の戦い」)。これで動物たちの支持を高めるスノーボールは、風車の建設計画を発表します。
スノーボールとナポレオンは運営方針を巡って対立し、集会では演説の上手いスノーボールが支持されるものの、ナポレオンは会議のあいだに支持者を増やしていました。ナポレオンは、風車について、今は食糧増産が必要だから風車を建設するなら餓死者が出ると批判します。また、この頃からスノーボールの演説を、ヒツジたちが妨害するようになります。
風車の建設計画を決める日、いつものように雄弁に語るスノーボールでしたが、9匹の犬が襲いかかり、スノーボールは農場の外へ逃亡します。犬の正体はナポレオンが動物主義を教え込んだ仔犬たちでした。
スノーボールがいなくなると、ナポレオンは農場運営の方針を決める最高会議を全員、自分を支持する豚たちに変更します。これに反対しようとした動物たちもいたものの、抗議は犬や羊たちに妨害されます。
ナポレオン体制下では、豚たちは家屋に住み、ベッドに寝たり酒を飲みます。これは7つの掟で禁じられていたものの、掟は密かに文言が書き換えられており、それを元に若い雄豚スクィーラーが説明を行いました。
さらにナポレオンは風車建設計画を実行に移そうとし、資金を得るためとして禁止されていた人間との取引をします。抗議の声がおこるものの、風車計画はナポレオンが計画していたものをスノーボールが盗んだとして、スクィーラーに丸め込まれます。
しかし猛烈な嵐のあと、建設途中の風車は崩壊します。ナポレオンとスクィーラーは、これはスノーボールの仕業だとし、彼は革命を破綻させようとしているといいます。「牛舎の戦い」を知る動物たちは否定するものの、勇敢に戦ったのはナポレオンということにされ、しかもスノーボールはジョーンズ氏に協力していた裏切り者ということになります。
ナポレオンは「我らの指導者で同志ナポレオン」と尊称することが課せられ、革命歌「イングランドの獣」は禁止され、ナポレオンを称える歌が推奨されます。いいことはすべてナポレオンのおかげで、悪いことはスノーボールの陰謀となります。それでも多くの動物たちはジョーンズ時代よりはマシだと信じます。
壊れた風車を立て直すためとして、食料は前より減り、労働は過酷となります。それでも風車が完成すれば豊かになると信じ、動物たちは働きます。豚たちは満足な食事を受け、肉体労働はしません。
その中で、隣の農場主フレデリック氏が農場を襲い、風車が破壊されます。老いた馬ボクサーなど革命初期からの英雄が大怪我を追うものの、防衛に成功します。負傷中でもボクサーは働きますが、やがて動けなくなってしまいます。するとボクサーはトラックで農場外へと運ばれ、トラックには食肉工場とあり、動物たちは抗議するものの、スクィーラーは動物病院に送られると説明し、丸め込まれます。
後日、スクィーラーはボクサーは病院で息を引き取ったと説明します。実際には食肉工場へと送られ、その代金はナポレオンとその側近たちがウィスキーを買うのに使われました。
数年後、寿命の短い動物は代替わりし、豚たちを除けば革命前を知っている者は減っています。風車は再建され、別の風車も建設されるなど、農場は十分な収入を得ています。農場は豊かなのに、生活が豊かにならないことに動物たちは不満ですが、ナポレオンは贅沢は動物主義に反すると言い、懸命に労働し、質素な生活を送ることが幸福だと言います。裕福なのは豚たちと犬たちで、働いていないようですが、スクィーラーは我々は「ファイル」や「報告書」の作成といった重要な仕事をしていると説明します。しかし作成された書類は夜のうちにはかまどで燃やされます。
ある日のこと、豚たちは2本足で歩き初めます。スクィーラーに誘導された羊たちは、4本脚は良いが、2本足はさらに良い、と連呼します。いつのまにか7つの掟は、ただ1つの「すべての動物は平等だが、一部の動物はさらに平等」に変えられています。ナポレオンは前足で鞭を持ち、豚たちは服を着始めます。農場の名前と、マナー農場に戻りました。
ナポレオンは近隣の牧場主の人間たちを夕食会に招き、トランプをします。その様子を動物たちは建物の外から目にするものの、窓から漏れるナポレオンの影は人の影と見分けがつかなくなっています。
参考文献
・Crick, Bernard. ”George Orwell: A Life”




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