始めに
D.H.ロレンス『チャタレイ夫人の恋人』解説あらすじ
背景知識
モダニズム、ロマン主義
ロレンスは、大きくモダニズムに括られる作家です。ただ、格別誰かに影響を受けていたり偏愛していたりとかはあまりないです。とはいえゲーテ『イタリア紀行』やエズラ=パウンドの影響でイタリアに旅行し、その後もメキシコなどの海外経験から国際的感覚を培って、それを創作の縁にするということはあって、傾向としては、ロマン主義的な精神、グランドツアーやそれによる国際色などは、作風としてしばしば現れます。
またフォースターとは親交があり、そのモダニズム、リベラリズムを共有し、本作もフォースター『モーリス』の影響があります。
出生と炭鉱町
ロレンスは、炭鉱夫の父アーサー=ジョン=ローレンスと教師だった母リディアの第4子として生まれました。ノッティンガムシャー州ブロックストウ地区イーストウッドの炭鉱町で幼少期を送っています。炭鉱夫の組長で父アーサーと教養ある母リディアは不仲で、それもフォースターの作風に影響しました。
本作もそうした経験を踏まえ、炭鉱町を舞台にし、夫婦の不仲を描きます。
石炭採掘は他に『息子と恋人』や『恋する女たち』 、そして『菊の香り』などの短編小説にも表れます。
階級と炭鉱
本作は階級制度を背景にします。物語は貴族の妻(コニー)と労働者階級の男性(メラーズ)の不倫を描きます。
チャタレイ家の住むラグビー邸とテヴァーシャルの住民の間には階級の違いと軋轢があります。
当時の英国の炭鉱村は、組合に組織され自立した暮らしを送っていました。
炭鉱村は、不倫などの性的罪を禁じる非国教徒主義の中心地でもあり、本作も保守的な風土のなかで物語が展開されます。またそうした背景のなかでアナキズム、社会主義、共産主義のモチーフ、テーマ性が見えます。
物語世界
あらすじ
ダーヴィシャー地方の炭坑の村を領地に持つ貴族の妻となったコンスタンス=チャタレイ(コニー)。夫のクリフォード=チャタレイ准男爵は陸軍将校として第一次世界大戦に出征したのち、戦争で負った怪我で下半身不随となり、復員後は2人に性の関係ができなくなります。
その後、クリフォードはラグビー邸で暮らしつつ作家として成功するものの、コニーは日々の生活に幻滅します。
クリフォードは跡継ぎのため、コニーに男性と関係を持たせようとします。相手の条件は、同じ階級で子供ができたらすぐに身を引くことでした。コニーは自分はチャタレイ家の道具のようだと幻滅します。
コニーが恋に落ちたのは、労働者階級出身で、妻に裏切られて別れ、陸軍中尉になるものの上流中流階級の社会に馴染めないまま退役し、チャタレイ家の領地で森番をしているオリバー=メラーズでした。
メラーズとの逢瀬のなかで人間の権利に目覚め、クリフォードと離婚したいと思い、姉のヒルダとヴェニス旅行中、メラーズの子供を妊娠していると知ります。
一方領地では、戻ってきたメラーズの妻が、メラーズとコニーが通じていることに感づき、世間に吹聴して回っていた。メラーズは森番を解雇され、田舎の農場で働くようになる。帰ってきたコニーはクリフォードと面談するが、クリフォードは離婚を承知せず、コニーはラグビー邸を去ることになった。
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