始めに
ウィリアム・バトラー・イェイツ「キャスリーン伯爵夫人」解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
イェイツの作家性
若き日のイェイツは、現実離れした美しさや神秘的なヴィジョンを追い求めていました。そうしてブレイク、シェリー、エドマンド=スペンサーなどから影響されました。
アイルランド独自の文化を再発見しようとする動きからも影響されました。レディ=グレゴリーはイェイツと共にアイルランド国立劇場を創設した恩人です。彼女を通じてアイルランドの民話や口承文芸の価値を再認識します。スタンディッシュ=ジェイムズ=オグレディはアイルランド文芸復興の父と呼ばれ、彼が書いたアイルランド神話の物語が、イェイツの愛国的なテーマの源泉となりました。
ロンドンやパリの文学シーンからも大きな刺激を受けています。アーサー=シモンズはイェイツにフランスの象徴主義(ヴェルレーヌやマラルメなど)を紹介した人物です。マダム=ブラヴァツキーは神智学の創始者で、彼女を通じて東洋思想やオカルト、神秘思想に深くのめり込みました。
キャリアの後半、イェイツの詩はより硬質で現代的なものへと進化します。エズラ=パウンドは一時イェイツの秘書を務めていましたが、逆にイェイツにもっと具体的で現代的な言葉を使うべきだと助言し、彼の文体を近代化させました。また、パウンドを通じて日本の能を知り、その様式美を自身の劇作『鷹の井戸』などに取り入れました。晩年のイェイツはニーチェの哲学に触れ、運命を肯定する力強さや、対立する概念の闘争といったテーマを詩に刻むようになりました。
利他と善
テーマは他者のために自分の魂を売るという究極の犠牲です。飢饉に苦しむ領民を救うため、キャスリーンは自分の全財産を使い果たし、最後には自分の清らかな魂を悪魔に売り渡して食糧を確保します。これは、キリスト教的な自己犠牲の精神を極限まで押し進めた形と言えます。
劇中では、魂を金で買おうとする悪魔と、目に見えない価値を守ろうとするキャスリーンの対立が描かれます。飢えという現実の苦痛を利用し、魂を市場の商品に変える現実主義と、苦痛を分かち合い、自分を滅ぼしてでも愛を貫く精神主義が対比されます。
この劇には、キャスリーンを愛する詩人エイルイルが登場します。彼は政治や民衆の苦難など忘れて、一緒に芸術と夢の世界へ逃げようと彼女を誘います。
しかしキャスリーンはそれを拒み、苦しむ民衆のために身を投じます。象徴主義的な美の世界に閉じこもるか、現実の社会問題に責任を持つかという、イエイツ自身の葛藤の反映でもあります。
物語世界
あらすじ
舞台は大飢饉に見舞われたアイルランド。人々は飢えに苦しみ、絶望しています。そこへ東方の商人に変装した二人の悪魔が現れます。彼らの目的は、金と引き換えに飢えた人々から魂を買い取ることでした。
若く美しいキャスリーン伯爵夫人は、領民たちの窮状を放っておけませんでした。彼女は自分の屋敷にある金銀財宝をすべて売り払い、海外から食糧を買い寄せて人々に配ろうと奔走します。また、彼女を愛する詩人エイルイルは、政治や現実の苦しみなど忘れて妖精の世界へ逃げようと誘いますが、彼女は頑なにそれを拒み民衆のそばに留まります。
キャスリーンの慈悲を邪魔しようと、悪魔たちは彼女の屋敷から財宝を盗み出し、食糧を運ぶ船を魔法で足止めしてしまいます。救いの手が断たれた民衆は、空腹に耐えかねて次々と悪魔に魂を売り渡していきます。
領民たちが地獄へ落ちていくのを目の当たりにしたキャスリーンは、ある決断を下します。彼女は悪魔の元へ向かい提案を持ちかけます。自分の清らかな魂を50万金貨で買って、その金で民衆を救うようにいいました。
悪魔たちは、聖女のような彼女の魂を手に入れられることに大喜びし、契約を交わします。
契約の後、キャスリーンは心痛と衝撃により、静かに息を引き取ります。悪魔たちは彼女の魂を奪い去ろうとしますが、そこへ天使の軍勢が降臨します。
天使は告げます。「彼女の行為は罪であったが、その動機は純粋な自己犠牲であった。神は行為の形式ではなく、心の意図を見る」と。結局、彼女の魂は救われ、天へと召されていくのでした。




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