始めに
ロンドン『荒野の呼び声』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ロンドンの作家性
ジャック=ロンドンは、当時の最先端の科学や哲学からも影響を受けました。
チャールズ=ダーウィンは進化論を通じて、生物が環境にいかに適応するかという視点を与えました。ハーバート=スペンサーの社会進化論からも刺激を受けました。
フリードリヒ=ニーチェの超人思想的な個人主義からも影響があります。同時にロンドンは熱心な社会主義者でもあり、労働者の過酷な現実を描いた『どん底の人びと』や、ディストピア小説の先駆け『鉄の踵』には、マルクス的な階級闘争の視点が生きています。
キプリングの簡潔で力強い文体や、動物を主人公にする手法からも影響を受けました。スティーヴンソンのロマン主義からも感化があります。
文明から野生へ。進化と闘争
文明化された環境で暮らしていた主人公のバックが、過酷な北極圏の自然に放り込まれることで、眠っていた野生の本能や祖先の記憶を呼び覚ましていく過程が描かれています。飼い犬としての皮が剥がれ、狼のような野獣へと変貌していく姿は、人間の中にも潜む原始的な衝動を暗示しています。
焚き火のそばで、バックが太古の野蛮な世界の幻影を見るシーンは、遺伝的な記憶を象徴しています。
荒野では道徳や慈悲は通用しません。そこにあるのは殺すか、殺されるかという冷徹なルールだけです。人間や他の犬との闘争を通じて、バックは支配するか、支配されるかの二択しかない過酷な生存競争を学び、その頂点へと登り詰めていきます。バックが唯一の心の拠り所であったジョン=ソーントンを失い、森の奥深くへと消えていく結末は、野生への回帰を象徴します。
物語世界
あらすじ
カリフォルニア州サンタクララバレー。セント=バーナードとスコットランド系牧羊犬の雑種であるバックは、ミラー判事の飼い犬として快適な生活を送っていました。しかしながら、バックは4歳のある日、庭師助手にさらわれ、売り払われます。バックは、シアトルの犬販売業者「赤いセーターの男」と出会ったとき、輸送中の虐待に対する怒りにまかせて襲い掛かるものの、逆に棍棒で殴られ、棍棒を持つ人間には逆らわないことを学びます。
バックは、シアトルで二人組のフランス系カナダ人に買われ、カナダのユーコン準州クロンダイク地方に移動し、そり犬として働くようになります。その地でバックは、そりのチームメイトの犬を観察し、寒い冬の夜と群れでの生き残り方をすばやく学びます。
性悪なソリの先導犬であるスピッツとバックは対立するものの、最終的にバックがスピッツに闘い勝ちます。この闘いで負けたことで、スピッツはエスキモー犬の群れによって殺されます。バックはスピッツに代わって先導犬となり、優れたリーダーシップを発揮するようになります。
政府命令により、そり犬チームは、郵便で働くスコットランド系混血の男に引き渡されて、重い荷物を運ぶことになります。そり犬たちは、満足に休みを取れないまま郵便ぞりで酷使され、そのために疲れて使い物にならないほど弱ったと判断された犬たちは売り払われます。バックたちのチームは、ハル、ハルの姉マーシーディーズ、マーシーディーズの夫チャールズの三人組に売却されます。
三人組とそり犬たち一行は旅の途中で、経験豊富なアウトドアマンであるジョン=ソーントンに出会います。ソーントンは、川の氷上のそり道を通るのは氷が融けて危険であると警告します。しかし、三人組は警告を拒絶して犬たちに動き始めるように命令します。バックは疲れており、氷が割れそうだと感じたこともあって、動けない振りをして命令に従いません。怒ったハルがバックを棍棒で打ち据えるのを見たソーントンは、バックを助け三人組から引き離して保護します。その直後、川面のそり道を進んだ三人組は、氷が割れて、犬ぞりと一緒に川の中に消えます。
ソーントンはバックが健康になるまで世話をし、その後も愛情を持って扱います。バックもそれに応じて、ソーントンを愛するようになりソーントンには献身的になります。しかし、そり犬のときに身につけたものは消えません。
その後、ソーントンと二人の仲間は、バックたち数匹の犬と金採掘の旅に出て、運よく金を見つけます。ソーントンたちがその地で金を採鉱する間、バックは周囲の森に出歩きます。森の中で狼と出会って交流する中で、バックは野性への思いを強めるものの、一方でキャンプ地に戻りソーントンとふれあう愛情にかられもします。
ある日、バックが森の狩りから戻ると、キャンプ地でソーントン一行がインディアンの集団によって襲われており、犬たちやソーントンの仲間が殺されていました。バックは目に付くインディアンを殺した後、ソーントンも死んでいることを理解します。
バックはその後、狼の吠え声に引き寄せられ自然の中に戻り、狼の群れの先頭に立つようになります。その後、バックはインディアンに幽霊犬と恐れられる存在となります。ある狼(幽霊犬)が毎年夏になるとソーントンが死んだ谷に現れ、長い遠吠えをあげて去っていくものの、そのことは人々には知られていなのでした。




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