始めに
ケルアック『路上』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ケルアックの作家性
ケルアックの処女作『町と市』に最も色濃く表れているのが、トマス=ウルフの影響です。ウルフの長大で情熱的な文章、そしてアメリカという土地に対する愛着は、ケルアックの文体の土台となりました。自分の人生を巨大なサーガとして描く手法は、ケルアックが提唱するドゥルオーズの伝説という構想に繋がります。
またケルアックの書き方を根底から変えたのは、友人のニール=キャサディから届いた手紙でした。スピード感あふれる奔放な手紙にケルアックは衝撃を受け、即興のような書き方にたどり着きました。
モダニズムからも影響されました。プルースト『失われた時を求めて』のように、細部まで記憶を掘り起こし、それを流れるような文章で記述するスタイルに影響を受けました。ジョイスにおける言語の実験的試みや、内面的な意識をそのまま記述する手法を高く評価していました。
アメリカの開拓者の精神や自由を象徴する詩人ホイットマンの影響も見て取れます。
1950年代半ばからは、ケルアックは仏教に深く傾倒します。『金剛経』などの経典を作品の背景にもします。
この瞬間を求めて
作中でディーン(ニール=キャサディ)が熱狂的に語る「IT」こそが、最大のテーマの一つです。ジャズの即興演奏のように、過去も未来もなく「いまこの瞬間」に完全に一致する状態のことです。退屈な日常から脱出し、真理に触れるためのエクスタシーを追い求めました。
1950年代の、戦後の安定した中流階級の生活に対する強烈な違和感が根底にあります。社会が求める「責任」から逃れ、所有しない自由を称賛しました。そして社会のメインストリームから外れた人々の中に、真のアメリカの魂を見出そうとします。
主人公サルにとって、ディーンは単なる友人ではなく、聖なる狂人です。ケルアック自身も父を亡くしており、作中でも失われた父を象徴するものを探してアメリカ大陸を横断します。欠点だらけで無責任なディーンを、サルは神格化します。
語りの構造
語り手はサル=パラダイスで、彼の友人であるディーン=モリアーティとの二人が主人公です。
ディーン=モリアーティは自由奔放な一匹狼で、サルを旅へと誘います。
5 つの章で構成されており、そのうちの 3 つはモリアーティとの遠征が描かれます。物語は 1947 年から 1950 年にかけてが舞台です。
物語世界
あらすじ
第一部
最初のセクションでは、サルのサンフランシスコへの最初の旅について語られます。離婚の後、どん底まで落ち込んでいた彼の人生は、人生に最高にハイになっているディーン=モリアーティと出会い、道の自由を切望し始めたときに変わり始めます。
1948 年 7 月、サルはニュージャージー州パターソンの叔母の家を出発します。サルのポケットには復員軍人への給付金から貯めてきた 50 ドルが入っているだけでした。
いくつかのバスに乗ってヒッチハイクした後、サルはデンバーに到着し、そこでカルロ=マルクス、ディーン、およびその友人たちと交流をもちます。 パーティーもあったし、その中にセントラルシティのゴーストタウンへの小旅行もありました。最終的にサルはバスで出発し、サンフランシスコに到着し、そこでレミ=ボンクールとガールフレンドのリー=アンに会います。 レミは、船を待っている船員のための待機キャンプで、サルが警備員としての仕事に就くように手配します。 この仕事を長く続けていなかったサルは、再び旅に出ます。
すぐに、彼はロサンゼルス行きのバスの中で、テリーに出会います。彼らは一緒にベーカーズフィールドに戻り、そして家族が畑仕事をしている彼女の故郷であるサビナルへ向かいます。
綿花畑で働いていてサルは、自分がこの種の仕事に向いていないことに気づきます。テリーを置き去りにして、彼はピッツバーグに戻る東のバスに乗るのでした。その先は、ニューヨーク市のタイムズ スクエアに向かう途中でヒッチハイクします。そこに着くと、タイムズスクエアからパターソンの街まで、バス代がありません。ギリシア人の牧師に物乞いして、25セントを恵んでもらい、叔母の家に到着しましたが、彼に会いに来たディーンとはすれ違いになるのでした。
第二部
その後、サルは復員兵援護法で出るお金で学校に通っていました。1948 年 12 月、サルはバージニア州テスタメントで親戚とクリスマスを祝っていて、そこへ、ディーンがメリールウ とエド=ダンケルを連れて現れます。 サルのクリスマスの計画は、打ち砕かれます。こうして、ふたたび路上へ向かいます。
最初に彼らはニューヨークに車で行き、そこでカーロに会い、いろんなパーティを覗きます。 ディーンは、サルにメリールウとセックスしてもらい、その時の彼女の様子を見たいという願望があったものの、サルは、それを断ります。
ディーンの49年型ハドソンで1949 年 1 月にニューヨークを出発し、ニューオーリンズに到着します。アルジャ―ズでは、彼らはモルヒネ中毒のオールド=ブル=リーとその妻ジェーンの町外れの湿地帯そばの家に滞在します。ダンケルの妻ガラテアが、ニューオーリンズで合流し、サル、ディーン、マリルは旅を続けます。
サンフランシスコに着くと、ディーンは再びマリールウを置き去りにして、カミールを連れていなくなります。2人はしばらくホテルに泊まるものの、ディーがいなくなるとメリールウは彼を通してのみサルとつながっていたので、もうサルはどうでもいい人間でしかなく喧嘩ばかりで、彼女はナイトクラブのオーナーと姿を消し、サルはまた一人になります。
マーケット通りを回りながら、200年前のイギリスにいた母親や泥棒になった息子から、いろんな空想を思い描きます。 ディーンが戻ってきて、サルを自分の家族のところに連れて行ってくれます。彼らはナイトクラブを訪ね、黒人のミュージシャン、スリム=ジェラードやその他のジャズ音楽を聴きます。
その後、サルは出発し、バスでニューヨークに戻ります。
第三部
彼らはガラテアに会いに行きます。エドはまたしても彼女を置き去りにどこかにでかけています。ガラテアはディーンに、メリールウと子どもを置いて家を出てしまったことをなじります。しかしみんなはディーンのことを最低の悪党だと言って非難するものの、愉快なペテン師なんだと、サルは擁護します。
フォルサム通りのリトルハーレムでジャズとお酒を楽しんだ後、ガラテアのところには戻れないので、場末のホテルに泊まります。彼らは東へ出発します。 旅の道連れは、車の持ち主のゲイに恋人カップル、サルとディーンです。途中でゲイは、サルに行為の誘いをかけるがサルは受け付けません。ディーンは車の操縦を交代して、狂気のような運転をし、ゲイとカップルを恐がらせます。
彼らは、旅行会社から 1947 年のキャデラックをシカゴに運ぶという仕事を得ます。ディーンは不注意で、時速 100 マイルを超える速度で運転し、酷い状態で車を届けます。
バスでデトロイトに移動し、スキッド=ロウで一夜を過ごすします。ディーンはホームレスの父親を見つけたいと思っています。
デトロイトからニューヨークまで乗り合い、ロングアイランドにあるサルの叔母の新しいアパートに到着します。彼らはニューヨークでパーティーを続け、そこでディーンはイネズと出会い、サンフランシスコのカミールとは電話で離婚の話し合いをします。
ディーンは、そのカミールが2番目の子どもの出産を控えている間にイネズを妊娠させます。結局、ディーンは4人の子持ちになり、文無しで、トラブルとスピードの塊になって、イタリアに行く話はなくなります。
第四部
サルは書いた本を売って、多少ふところが暖かくなります。溜まっていた家賃も払えました。
1950年の春、サルはまた旅に出たくなります。ディーンはマンハッタンの駐車場で働いているので、別れの挨拶だけして、彼は置いてたびに出ることにします。
バスでサルは再び道路に乗り、ワシントン DC、アッシュランド、シンシナティ、セントルイスを通り、最終的にデンバーに到着します。そこで彼はスタン=シェパードに会い、ディーンが車を買って彼らに加わる途中であることを知ったとき、フランス旅行から帰ってきたばかりで、デンバーの生活に飽き飽きしていた2人はメキシコシティに行くことを計画します。
ガタガタの1937年型フォードセダンに乗って、3人はテキサスを横切ってラレードに向かいます。ラレードは治安の悪い不気味な街でした。
その後、グレゴリアで、彼らは地元の子供であるビクターに会い、売春宿に連れて行って最後のグランドパーティーを開き、マンボに合わせて踊り、飲み、売春婦と楽しみます。
メキシコシティでは、サルは赤痢で病気になり、錯乱して意識不明になります。ディーンはサルをスタンにまかせて置き去りにし、カミールと離婚が成立したので、彼はニューヨークのイネズのもとに帰るといいます。サルが回復すると、ディーンを嫌な野郎だと思うものの、ディーンの人生のどうしょうもない複雑さを思い、どうせ病気の自分なんかほっぽりだして何人もの妻たちとよろしくやることを優先するしかなかったんだろうと理解します。
第五部
メキシコで離婚届を入手したディーンは、最初にニューヨークに戻ってイネスと結婚したものほ、彼女を離れてカミーユに戻ります。サルは、メキシコでの赤痢から回復した後、秋にニューヨークに戻っています。彼はローラという女の子を見つけ、彼女と一緒にサンフランシスコに引っ越す計画を立てています。
サルは、サンフランシスコに引っ越す計画についてディーンに手紙を書きます。ディーンは、ローラとサルに同行する意思があると返信します。ディーンは 5 週間以上早く到着するものの、サルは一人で深夜の散歩に出ていて戻ってきたところで、ディーンが持っているプルーストの本を見ます。
ディーンは、イネズのところに行って、叩き出されます。そしてニューヨークに3日いると、もう鉄道のパスで列車で昼夜ぶっ通しの大陸横断鉄道で西海岸に戻る準備を始めます。しかし、サルはロスに引っ越すためトラックを用意できるだけの資金がありません。サルの友人レミ=ボンクールは、メトロポリタン=オペラ=ハウスでのデューク=エリントンのコンサートに行くので、サルもローラと行ったらどうだとチケットをくれます。途中、ディーンに40番街までの車に同乗させてくれというが、サルはそれを断ります。
サルのガールフレンドのローラは、これがサルにとってつらい瞬間であることに気づき、パーティーがディーンなしで出発するので、彼に対応を促します。サルは「彼は大丈夫だ」と答えます。サルは後に、ニュージャージーの夜空の下、川の桟橋に座って、彼が旅してきたアメリカの道と土地について振り返り、ついに見つからなかった、ディーンの父親オールド=ディーン=モリアーティのことを思い出すのでした。




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