始めに
遠藤周作『海と毒薬』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
カトリック文学
遠藤周作はカトリックの作家です。サド、ペギィ、堀辰雄、ジャック=リヴィエールなどの影響から、独特のロマン主義を形成していきました。
サドのグランギニョルやゴシック風味から、遠藤は影響されています。
ペギィもカトリックに改宗した人道主義者で影響があります。
堀辰雄とは個人的に面倒をみてもらいました。堀は芥川龍之介の弟子筋ですが、周作の作品は芥川と重なるところがあります。
語りの構造
本作は非線形の語りが取られています。
第一章「海と毒薬」の冒頭では平凡なサラリーマンが語り手で主人公の医師勝呂を訪ね、これが導入で枠物語になっています。以降は異質物語世界の、いわゆる三人称の語り手です。焦点化(視点人物)もかっちり設定せず、勝呂の周辺の人たちの模様を展開していきます。
第二章「裁かれる人々」では、ある看護師の手記(Ⅰ)、戸田という医学生の語り(Ⅱ)など、等質物語世界の語り手のパートが交じり、明日物語世界の描写のパートもⅢにて展開されます。
第三章「夜のあけるまで」は、異質物語世界のパートです。
非線形の語りは実験的手法というより、若書きゆえの構成力のなさを伝える感じのもので、単純に読みづらいです。
モデルと続編
太平洋戦争中に、捕虜となった米兵が臨床実験の被験者にされた九州大学生体解剖事件をモデルにした内容です。
全体的には無神論とされる日本人の、絶対的な価値観の基準を持たないことゆえの、優柔不断さと悪徳を描いています。
続編に『悲しみの歌』があり、主人公勝呂のその後が描かれ、過去の人体実験の罪悪感と戦後の世間からのバッシングに苦悩し、自ら命を絶ってしまう勝呂の罪と贖罪が描かれます。
物語世界
あらすじ
引っ越した家の近くにある医院へ、持病を治療しに通う語り手の男がいます。彼はやがて、その医院の医師の勝呂が、かつての解剖実験事件に参加していたと知ります。
F市の大学病院の医師である勝呂は、助かる見込みのない患者である「おばはん」が実験材料として使われようとすることに憤りを感じるものの、教授たちに反対することができません。当時、橋本教授と権藤教授は医学部長を争っていたものの、橋本は前部長の姪である田部夫人の手術に失敗し、死なせてしまいます。名誉挽回のため、B29の搭乗員の生体解剖を行い、勝呂と戸田も参加させられます。
勝呂は後になっても、なぜ断らなかったのか分かりませんでした。その場にいた戸田が参加を決めたから自分も参加したのではないかとも感じます。
戸田は幼少から、良心が欠けていました。人体実験についてもどうせ処刑される人間だからと、特に反対しません。
看護婦の大場が参加を決めたのは、橋本教授の妻への当てつけや、橋本教授に惹かれる看護婦長への競争心からであり、医学の進歩などについては考えていません。
実験当日、鳶色の瞳の米国捕虜に病気を治すための手術だと説明して手術台へ寝るように指示すると、笑って素直に服を脱いで寝そべります。
手術の後、軍部から見学に来ていた幹部たちは成功を見届けると、軍部の送別会へ移ります。そこへ戸田は捕虜の肝臓を所望されて運んでいくのでした。
手術室で目を閉じていた勝呂は戸田に「お前は強いな」と言います。
戸田は、殺したのではなく活かしたんだ、と言います。
勝呂は「いつか俺たちは罰を受けるのではないか」と呟き、一人屋上から海を見つめ、詩を呟こうとするものの、口の中が乾いてできません。
参考文献
・加藤宗哉『遠藤周作』




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