始めに
三島由紀夫「憂国」解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
古典主義(ラディゲ、コクトー)。リアリズム
三島由紀夫はラディゲ(『ドルジェル伯の舞踏会』『肉体の悪魔』)、コクトー(『恐るべき子供たち』)といったフランスの古典主義文学に影響を受けています。私淑した二人にも相通じる、作品全体が合理的に構造としてデザインされた戯曲、家庭小説には佳品が多いですが、純文学作品には駄作も多いです。また純文学でいいのは『金閣寺』など初期の作品に多いです。
本作は仲間から蹶起に誘われなかった新婚の中尉が、叛乱軍となった仲間を討伐する立場に懊悩し、妻と心中するさまをエロティックに描いています。
象徴主義、シュルレアリスム的なグランギニョル
本作は三島由紀夫のサディスティック、マゾフィスティックな欲望がうかがえる内容です。男の惨殺のモチーフに性的興奮を覚える心理が背景にあります。
この辺りは精神分析などの心理学、コクトー(『恐るべき子供たち』)、サド(『悪徳の栄え』)、リラダンなどの象徴主義文学、森鴎外(「阿部一族」)、ダンヌンツィオなどがグランギニョルなモチーフやプロットの崇高さ(不快かつ快)に着目した表現を展開したのと重なります。
三島由紀夫が好んだ森鴎外にも「堺事件」「阿部一族」「興津弥五右衛門の遺書」といった切腹をモチーフにする物語があり、本作もそれを踏まえています。
心中の美はダンヌンツィオが『死の勝利』などで描き、『盗賊』などにも描いています。
ダヌンツィオと『死の勝利』
三島由紀夫はダヌンツィオに影響され、晩年のファシズム的パフォーマンスや最期の自殺に至るまで、そこからの感化が見えます。
ダヌンツィオ『死の勝利』も、本作同様に、心中の美を描きます。『死の勝利』では主人公ジョルジョ=アウリスパは愛人イッポーリタへの情欲にとらわれつつも、彼女を完全に所有しえないこと、体の衰えに葛藤し、ニーチェの超人思想を拠り所にするものの、ついにイッポーリタと心中することを決意します。
ダヌンツィオも三島に影響したニーチェをこのみ、『死の勝利』においては超人思想を援用しています。
映画版
本作は三島由紀夫の監督、製作で映画化されています。上映フィルムは廃棄されたものの、ネガフィルムや資料は残っていて、映画DVDは2006年4月に東宝で販売され、新潮社の『決定版 三島由紀夫全集別巻・映画「憂国」』にも、DVDと写真解説が所収されています。
作品ではワグナー『トリスタンとイゾルデ』がもちいられています。ロマン派オペラを代表するワグナーは三島の愛したトーマス=マンへの影響もしられ、その勇壮でダイナミックな楽曲が作品を彩ります。
『トリスタンとイゾルデ』は「トリスタンとイゾルデ」の恋愛物語の伝説を下敷きにし、騎士トリスタンと、主君マルク王の妃となったイゾルデの三角関係を描きます。伝説では三角関係から三者は和解するのですが、ワーグナーのオペラでは三角関係の果てにマルク王の家臣メーロトにトリスタンは殺されます。
物語世界
あらすじ
昭和11年2月28日、二・二六事件で蹶起をした親友たちを叛乱軍として討たざるをえない近衛歩兵一聯隊勤務の武山信二中尉は、自死を選ぶことを妻・麗子に伝えます。麗子は受け入れて、共に死を選びます。
死までの間、夫と濃密な最期の営みをします。そして身支度をして遺書を書いた後、夫の切腹に立会い、自らも咽喉を切り自殺します。




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