始めに
ヘミングウェイ『武器よさらば』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
クレイン、ジェイムズのリアリズム、トウェインの超絶主義とロマン主義
ヘミングウェイはスティーブ=クレイン(『赤色武勲章』)のシニカルな要素に影響を受けていて、短編にはそのようなニヒリズムが見えます。本作もビターエンドが印象的です。
またH=ジェイムズ(『鳩の翼』『黄金の盃』)からも顕著な影響を受けていて、そのリアリズムや国際性、グランドツアーのモチーフが共通します。本作においても、戦争というグランドツアーが描かれ、そのなかでのメロドラマが展開されます。
またマーク=トウェイン(『ハックルベリー=フィンの冒険』)の影響も顕著で、その超越主義、プラグマティズム的な発想と、等質物語世界の語り口などに活きています。本作もヘンリーという等質物語世界の語り手を設定しています。また、主人公が機転をはたらかせて戦場で立ち回るプロットは、ピカレスクのモードを踏まえるトウェインの影響が顕著です。
タイトル
タイトルはイギリス16世紀後半の詩人、ジョージ=ピールがエリザベス女王に捧げた詩”Farewell to Arms”から採っています。詩は、年老いた騎士が主君への奉仕の一線から引退しようとする心境がうたわれています。これは1590年の即位記念日の試合のために書かれたものです。
”Farewell to Arms”というタイトルはダブルミーニングになっていて、一つには主人公フレデリックの混乱する戦線からの逃亡です。この裏切り行為によって反逆罪によって、フレデリックはイタリア警察に追われることになります。もう一つは恋人キャサリンとその死産した息子の両腕への別れを象徴しています。
ハードボイルド
マーク=トウェイン(『ハックルベリー・フィンの冒険』『王子と乞食』)、スティーヴン=クレイン、セオドア=ドライサー、シンクレア・ルイス等と同じく、ヘミングウェイは小説家になる前はジャーナリストでしたので、その文体から影響があります。直接の体験から得た題材を、端正な筆致で物語っていきます。
無駄を切り詰めたスタイルはハードボイルドと呼ばれ、本作にもそうしたスタイルが見えます。
第一次大戦
本作は第一次世界大戦を舞台にし、イタリアに従軍するアメリカ人のヘンリーの、イタリアへの幻滅を描いています。
第一次世界大戦は連合国(ロシア帝国、フランス第三共和政、大英帝国の三国協商)と中央同盟国(主にドイツ帝国とオーストリア=ハンガリー帝国)の両陣営の衝突で、イタリアもアメリカも連合国側でした。
ヘミングウェイはファシズムを否定的に捉え、やがてはスペイン内戦でも反ファシズムとして戦いましたが、本作に描かれるイタリアは、やがてファシズムへと染まっていきます。
伝記的背景
作品は第一次世界大戦中のイタリア戦線でのヘミングウェイ自身の経験に基づいています。キャサリン=バークリーのモデルは、ミラノの病院で負傷したヘミングウェイを看護した看護師アグネス・フォン・クロウスキーで、ヘミングウェイは彼女と結婚するつもりでしたが、アメリカに帰国した際に彼女は彼を拒みます。ファッション記者キティ=カネルがヘレン=ファーガソンのモデルで、名前のない司祭は、アンコーナ旅団の第69連隊と第70連隊の司祭ドン=ジュゼッペビアンキがモデルです。
リナルディは『われらの時代』にも現れます。
物語世界
あらすじ
フレデリック=ヘンリー中尉はイタリア軍に従軍するアメリカ人衛生兵です。第一次世界大戦中、冬の初め、コレラの流行で何千人もの兵士が亡くなります。フレデリックはゴリツィアを訪れ、他の仲間や司祭に会います。
帰国後、彼は友人でフレデリックと同い年の外科医リナルディに自分の体験を語ります。リナルディは美しい女性が好きで、キャサリン=バークリーというイギリス人看護師に恋をしました。リナルディはフレデリックをイギリスの病院に連れて行き、そこでフレデリックはキャサリンを紹介され、彼女に惹かれます。彼女は戦闘で亡くなった婚約者のことを話し、雨で気分が悪くなったことをフレデリックに伝えます。フレデリックは彼女にキスしようとしますが、彼女は拒否して彼を平手打ちします。彼女はそれを後悔し、やがて彼に心を許し、二人はキスをします。
フレデリックと仲間の運転手 (パッシーニ、マネラ、ゴルディーニ、ガヴッツィ) ですが、パッシーニは迫撃砲の攻撃で死亡します。フレデリックもイタリア戦線で膝に重傷を負い、病院に搬送されます。
外科医のリナルディが病院のフレデリックを見舞い、より良い治療を受けるために、すぐにミラノの病院に移されることを告げます。フレデリックは、キャサリンを看護婦としてほしいと頼みます。
アメリカはドイツに宣戦布告します。フレデリックはミラノの病院に到着します。そこで、彼はミス=ゲージ、ミセス=ウォーカー、そして監督官ミス=ヴァン=カンペンによって看護されます。キャサリンがそこに到着し、フレデリックは彼女に対する強い愛情と情熱に気づきます。やがて彼らは愛し合います。
膝が治った後、フレデリックは黄疸と診断され、3週間の療養休暇が認められます。ヴァン=カンペンはフレデリックの部屋で酒の空き瓶を見つけ、アルコール依存症が病気の原因だと考えます。また、彼女はフレデリックが戦場を避けるために病気をつかっていると結論づけます。ヴァン=カンペンは療養休暇の取り消しを報告し、フレデリックは戦場に呼び戻されます。
キャサリンはフレデリックに妊娠3ヶ月であることを告げ、戦争から戻ったら再会して結婚することを約束しあいます。
フレデリックはゴリツィアに戻ります。フレデリックはバインツィッツァに行き、そこでジーノに会い、オーストリア軍の銃の砲台について聞かされます。フレデリックは、オーストリア軍が攻撃してきたら逃げられないだろうと思います。
大雨が降り、砲撃が始まります。オーストリア=ハンガリー帝国はカポレットの戦いでイタリア軍の防衛線を突破し、イタリア軍は撤退します。撤退中、道路上で混乱が生じたため、フレデリックは別のルートを取ることにします。フレデリックと部下たちは道に迷い、車は泥にはまります。フレデリックは、ボネロと一緒に乗っていた 2 人の工兵軍曹に助けを求めます。敵に追いつかれるのを恐れた彼らは、それを拒否して立ち去ろうとします。フレデリックは銃を抜いて 1 人を撃ち、もう 1 人は逃走します。運転手の 1 人であるアイモは後に殺され、もう 1 人のボネロはオーストリア軍に降伏するために逃げます。
フレデリックとピアーニは、タリアメント川を渡って主要な撤退ルートに合流します。橋を渡るとすぐに、フレデリックは憲兵に、反逆罪で将校たちが尋問され処刑されている川岸の場所に連行されます。フレデリックは川に飛び込んで逃走、その後平原を歩き、キャサリンを探すためにミラノ行きの列車に飛び乗ります。
ミラノに着くと、彼はキャサリンがストレーザに向けて出発したことを知ります。やがて列車でストレーザに到着し、バーテンダーのエミリオから、駅近くの小さなホテルに二人のイギリス人看護婦が滞在していると知ります。フレデリックはそこでキャサリンとヘレン=ファーガソンに会います。また、ストレーザへの前回の訪問でフレデリックが会った貴族グレフィ伯爵にも会います。
フレデリックは自分が犯罪者、戦争逃亡者だと感じています。エミリオは、イタリア警察がフレデリックを逮捕しようとしていると知らせます。やがてキャサリンとフレデリックはスイスに逃げる計画を立てます。ボートでついに二人ははスイスに到着します。警備員が彼らの身元を確認し、スイスに滞在するための暫定ビザを発行するのでした。
フレデリックとキャサリンは山の中で静かな暮らしを送ります。モントルーの村外れの山にある木造の家に移り、グッティンゲン夫妻と知り合います。その後病院が近くにあるローザンヌの町に引っ越します。
やがてキャサリンが陣痛を起こし、病院に運ばれます。しかし男の子を死産し、キャサリンもなくなります。フレデリックは病院を出て、雨の中ホテルまで歩いて戻ります。
参考文献
・高村勝治『ヘミングウェイ』




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