はじめに
ドストエフスキー『やさしい女』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ゴーゴリ風のロマン主義とバルザックのリアリズム
ドストエフスキーはキャリアの初期には特に初期から中期のゴーゴリ(「鼻」「外套」)の影響が強く、『貧しき人々』も書簡体小説で、繊細かつ端正なデザインですが、次第に後期ゴーゴリ(『死せる魂』)やバルザック(『従妹ベット』『ゴリオ爺さん』)のリアリズムから影響されつつ、独自のバロック的な、アンバランスなリアリズム文学のスタイルを『罪と罰』などで確立していきます。
本作はキャリアの後期の作品です。
バルザックにおける不幸な結婚
バルザック(『従妹ベット』『ゴリオ爺さん』)はシスコンで、そのために不幸な結婚をした妹たちを非常に哀れみ、そこから『従妹ベット』など、不幸な結婚、不幸な妻の表象を作品に展開しました。
ドストエフスキーも本作などでそうした表象を継承します。本作でも夫である語り手との関係に悩み自殺する妻を描きます。
語りの構造
物語は、語り手が家族を襲った悲劇に取り乱す場面から始まります。妻がテーブルの上に横たわり亡くなっているようです。語り手は読者にこの状況を理解してもらおうと回想します。
語り手は質屋の店主で、常連客の一人に16歳の少女がいて、彼女を若い妻としました。
しかし物質にとらわれて共感性に乏しく自分本位な語り手の性格は妻を傷つけます。やがて妻は不倫に走り、彼女を間男から取り戻すものの語り手が変わることはなく、結局妻は自殺します。
語り手は、優しい妻を自殺に追い込んだのは、結局のところ、彼の自己陶酔的な愛だったにもかかわらず、自分が5分遅すぎただけだと信じるばかりで、最後まで本質的な反省に至りません。
こうした歪んだ語り手の支配欲を顕す点でナボコフ『ロリータ』に似ます。
物語世界
あらすじ
物語は、語り手が家族を襲った悲劇に取り乱す場面から始まります。妻がテーブルの上に横たわり亡くなっているようです。語り手は読者にこの状況を理解してもらおうと回想します。
語り手は質屋の店主で、常連客の一人に16歳の少女がいました。少女はいつも質屋に品物を預け、新聞に家庭教師として広告を出すための資金を稼いでいました。語り手は彼女が困窮していることを察知し、少女の質物に適正な価値よりも高値で買ってやりました。語り手は徐々に少女に興味を抱きます。
語り手は少女の身辺を調査し、彼女が二人の強欲な叔母の言いなりになっていることを知ります。叔母たちは、かつて二人の元妻を殴り殺した太った店主との政略結婚を狙っていました。店主が少女に求婚すると、語り手は自らも求婚します。少女は熟考の末、語り手との結婚を決意します。
語り手の結婚生活は順調に始まったものの、けちな性格は若い妻の重荷になります。また共感不足と質屋の経営方法に関する意見の相違が、口論へと発展します。しかし語り手は、口論など一度もなかったと主張するのでした。
語り手の妻は日中に家を出るようになり、やがて、語り手の元所属連隊の隊員であるエフィモヴィッチのもとへ通っていることが発覚します。妻はエフィモヴィッチから聞き出した、語り手が連隊を不名誉な形で離脱した経緯を語り手に突きつけます。
その後も妻はエフィモヴィッチのもとへ通います。ある時、語り手は拳銃を手に妻の後をついてエフィモヴィッチのもとへ向かいます。語り手は妻とエフィモヴィッチの口論を面白おかしく聞き、妻はエフィモヴィッチを嘲笑します。そしてついに、語り手は部屋に入り、妻を取り戻すのでした。
語り手と妻は帰宅し、それぞれ別々に就寝します。朝、語り手が目を開けると、妻が自分のそばに立っていて、語り手のこめかみに拳銃を突きつけているのが見えます。語り手は再び目を閉じ、死を受け入れる覚悟で妻を征服したと確信します。
妻は銃を撃たず、語り手はその日、妻のために別のベッドを買ってあげます。その日、妻は病に倒れてしまいます。
語り手は妻の治療費を惜しまず、妻はゆっくりと回復します。冬の間ずっと、語り手は妻をこっそりと観察していたものの、妻が彼の前で歌い始めた時、転機が訪れます。語り手は妻の足にキスをし、変わることを誓うのでした。連隊時代の恥辱を語り、ブローニュ=シュル=メールへ連れて行くことを約束します。
数日後、語り手はパスポートの手続きのために家を出ました。
そして語り手が帰宅すると、家の外には人だかりができていたのでした。妻は自殺していました。聖像を掲げたまま窓から飛び降りたのです。
語り手は、優しい妻を自殺に追い込んだのは、結局のところ、彼の自己陶酔的な愛だったにもかかわらず、自分が5分遅すぎただけだと確信するのでした。




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