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ブラウニング『指輪と本』解説あらすじ

ロバート=ブラウニング
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始めに

 ブラウニング『指輪と本』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ブラウニングの作家性

​ ブラウニングに最も強烈な初期衝動を与えたのはシェリーです。処女作『ポーリーン』の中で、ブラウニングはシェリーへ神格化に近い敬愛を示しました。急進的な思想、無神論、そして詩人の魂のあり方に深く傾倒しました。


​ ​シェリーと並び、ロマン派のキーツからも大きな影響を受けました。感覚的な描写や、古代ギリシャ文化への憧憬などはキーツの影響が見て取れます。


​ ​ブラウニングの代名詞である劇的独白は、シェイクスピアの劇中独白を詩の形式に凝縮・進化させたものと言えます。特定のキャラクターになりきって語らせる手法、人間の複雑な心理、善悪が入り混じったリアルな人間像の描き方は、シェイクスピアという土台があってこそ完成しました。
​ ​17世紀の形而上詩人であるジョン・ダンとの共通点は、多くの批評家から指摘されています。


​ エリザベス・バレット・ブラウニングは​妻であり、当時彼よりも有名だった詩人です。二人の往復書簡や結婚生活は、ブラウニングの愛の詩に深みと現実味を与えました。また、お互いの作品を批評し合うことで、彼の詩的技法はより洗練されていきました。

語りの構造、タイトル

 ​この作品は、1つの事件を12の異なる視点から語り直すという極めてモダンな構成をとっており、そこには以下のような深いテーマが込められています。


​ ​本作のテーマは、人間にとって客観的な真実を把握することは可能なのかという問いです。殺人犯の夫、被害者の妻、救出しようとした神父、野次馬、裁判官など、語り手によって事実の解釈が180度変わります。芥川龍之介の『藪の中』に先駆けること半世紀以上前に、ブラウニングは真実は見る人の立場や欲望によって歪められるという心理的リアリズムを提示しました。

 ​タイトルの指輪は、芸術の役割を象徴しています。ブラウニングは、歴史的事実を純金に、詩人の想像力を合金に例えました。純金だけでは柔らかすぎて指輪に成形できませんが、合金を混ぜることで形を成し、最後に酸で合金を飛ばせば、輝く芸術品が残るという考えです。詩人の役割は、埋もれた過去の事実に想像力という息吹を吹き込み、死んだ真実を蘇らせることにあるとしています。

心理劇の内容

 ​物語の中心には、純粋無垢な犠牲者ポンピリアと、冷酷で狡猾な悪の化身グイド伯爵の対比があります。ブラウニングは単なる勧善懲悪ではなく、なぜグイドが悪に染まったのか、その心理的な深淵までも執拗に描き出します。絶望的な状況下で示されるポンピリアの信仰や許し、そして救出しようとしたカポンスッキ神父の勇気を通じて、人間の尊厳を描いています。


​ ​物語の終盤、時の教皇インノケンティウス12世が最終的な裁きを下します。人間が作った法律や証拠がいかに脆く、偏見に満ちているか。教皇の独白を通じて、世俗の正義を超えた神の視点や良心の声こそが真実を見抜く唯一の手段であることが示唆されます。

物語世界

あらすじ

  『指輪と書』のあらすじは、1698年にローマで実際に起きたフランチェスキーニ事件という凄惨な殺人事件に基づいています。​物語は単なる時系列ではなく、12の異なる視点(劇的独白)で構成されています。


​ ​没落した貴族グイド=フランチェスキーニ伯爵は、家門を立て直すために金を求めていました。彼は、ローマの老夫婦コンパリーニ夫妻の娘、わずか13歳のポンピリアと結婚します。


​しかし、この結婚は双方にとって計算違いでした。グイドは妻の家が大富豪だと思っていて、​老夫婦は伯爵と結婚すれば娘は安泰だと思っていました。​結婚後、衝撃の事実が発覚します。母ヴィオランテが、実はポンピリアは娼婦から買い取った子であり、遺産を騙し取るための偽りの娘だったと告白したのです。


 これに激怒したグイドは、ポンピリアを虐待し始めます。地獄のような生活に耐えかねた彼女は、若き神父カポンスッキの助けを借りて、ローマの実家へと逃亡を図ります。


 ​二人はローマへ向かう途中でグイドに追いつかれ、不倫の疑いで逮捕されます。裁判の結果、カポンスッキは謹慎処分、ポンピリアは修道院(後に実家)へ預けられることになりました。その直後、彼女はグイドの子を出産します。


​ 自分の跡取り息子が生まれたことを知ったグイドは、これで妻と両親を殺しても、遺産は息子のものになると確信します。


 1698年の正月の夜、グイドは4人の刺客を連れてローマの家を襲撃。老夫婦を惨殺し、ポンピリアに致命傷を負わせました。


​ ​グイドは捕らえられ、裁判が始まります。彼は不貞を働いた妻への復讐(名誉の殺人)を主張して正当化しようとしますが、瀕死のポンピリアは4日間生き延び、真実を証言しました。


 ​最終的な判断は教皇インノケンティウス12世に委ねられます。教皇は膨大な資料を読み解き、グイドの邪悪さを見抜き、彼に死刑判決を下しました。グイドが処刑されるところで、物語は幕を閉じます。

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