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コーマック=マッカーシー『ノー・カントリー・フォー・オールド・メン』解説あらすじ

コーマック・マッカーシー
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始めに

 コーマック=マッカーシー『ノー・カントリー・フォー・オールド・メン』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

マッカーシーの作家性

 初期作品の『果樹園の守り手』などに見られる、長く重厚な一文や、南部ゴシック的なドロドロとした人間模様は明らかにフォークナーの影響を受けています。


​ 『ブラッド・メリディアン』はメルヴィルの影響が見えます。同作に登場する判事という怪物的なキャラクターは、『白鯨』のエイハブ船長や白鯨そのものの不気味な神性を彷彿とさせます。人間を寄せ付けない圧倒的な自然の描写や、絶対的な悪というテーマにおいて、メルヴィルの視点を引き継いでいます。


​ またマッカーシーはインタビューで、ドストエフスキーを高く評価しています。マッカーシーの特徴である句読点の省略や、独自のタイポグラフィは、ジョイスの実験的文体からの影響が指摘されています。


​ ジェームズ王訳聖書は彼の文体を形作る最大の源泉です。接続詞のandを多用する文体や、預言者のような威厳に満ちたトーンは、聖書的なリズムに基づいています。他にもヘミングウェイ、オコナーに刺激されました。

タイトルの意味

 シガーは、自分を運命の執行人だと考えています。彼はコインを投げることで、個人の意志とは無関係に生か死かを決定します。善人であれ悪人であれ、ある瞬間にそこに居合わせたというだけの偶然によって、命が奪われる世界の非情さを描いています。


​ ​タイトルの由来は、ウィリアム=バトラー=イェイツの詩「ビザンチウムへの航海」の一節「That is no country for old men(老人には向かない国だ)」から来ています。エド=トム=ベルは、かつての法と秩序が通用した時代を懐かしみ、理解不能な現代の暴力に当惑します。
​ 麻薬ビジネスに伴う金と効率だけの暴力は、かつての人間的な動機による犯罪を凌駕しており、旧世代が立ち向かえるものではなくなっています。

運命の寓意

 ​ルウェリン=モスが大金を見つけるという選択をした瞬間から、彼の運命は固定されます。一度選択をすれば、その結果として生じる地獄からは逃げられないという因果律を冷徹に描きます。モスは有能なサバイバーですが、彼がどれだけ努力しても、システムとしての暴力や、シガーという原理の前では無力であることが強調されます。


​ ​アントン=シガーは、単なる殺し屋というよりも、抗いようのない死そのものや自然の摂理のメタファーとして機能しています。​彼は自身の欲望のために殺すのではなく、自分に課した独自のルールに従って動きます。この理解不能な論理を持つ悪こそが、ベル保安官を引退へと追い込む最大の要因となります。

物語世界

あらすじ

 ベトナム帰還兵のルウェリン=モスは、プロングホーンの狩りをしている最中、砂漠のど真ん中で惨殺死体の山に遭遇します。それは麻薬取引が決裂した現場でした。彼はそこで、200万ドルが入った鞄を見つけ、誘惑に負けて持ち帰ってしまいます。この瞬間、彼の運命の歯車は狂い出します。


​ ​夜中、現場に置き去りにした瀕死の男に水を届けに戻ったモスは、運悪く追っ手に発見されてしまいます。そこへ放たれたのが、冷酷無比な殺し屋アントン=シガーです。家畜用屠殺銃のキャトルガンを武器に、一切の感情を排除して標的を追い詰めるシガーは、行く先々で無関係な人々を殺害しながらモスに迫ります。


​ ​地元のベテラン保安官エド=トム=ベルは、この凄惨な事件を追いかけます。しかし、彼が目にするのは、これまでの経験が通用しない理解不能な悪の形跡ばかり。ベルはモスを救おうと奔走しますが、常に一歩遅れ、時代の変化が生んだ暴力に圧倒されていきます。


 ​ルウェリン=モスはシガーとの最終決戦もなく、立ち寄ったモーテルでメキシコの麻薬カルテルにあっけなく殺されてしまいます。

 ​アントン=シガーはモスの死後、約束通りモスの妻カーラ=ジーンのもとを訪れます。彼女にコイン投げを迫りますが、彼女は決めるのはコインではなくあなただと拒否します。しかし、シガーは冷酷に彼女を殺害します。その後、シガーは偶然の交通事故に遭い重傷を負いますが、警察が来る前に子供からシャツを買い取って止血し、そのまま闇へと消えていきます。


 ​エド=トム=ベルは結局、シガーを捕まえることも、モスを守ることもできず、自分の無力さを痛感して保安官を引退します。物語の最後、引退したベル保安官が妻に、亡き父について見た「2つの夢」を語ります。

​ 第1の夢は父親から預かったお金を失くしてしまう夢です。父の世代から受け継いだ正義や秩序を守れなかったという、ベルの罪悪感の表れです。第2の夢は暗く凍えるような夜の山道を馬で進んでいると、父親が自分を追い越して先へ進んでいくもの。父は角の中に火を灯して運んでおり、その光は暗闇の中で月のような色をしています。父は暗闇の先のどこかで火を焚いて待っているだろうと、ベルは確信するのでした。

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