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ホセ・ドノソ『夜のみだらな鳥』解説あらすじ

ホセ・ドノソ
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始めに

ホセ・ドノソ『夜のみだらな鳥』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ドノソの作家性

 ドノソにとって最も重要な作家はヘンリー=ジェイムズです。​ドノソはプリンストン大学での卒業論文をジェイムズについて書いています。曖昧さの探求、視点の複雑さ、語られないことへの執着などを継承します。


​ ​ドノソはチリの閉鎖的な社会を、ヨーロッパ的な知識人の視点で見つめていました。プルースト、​ヴァージニア=ウルフのモダニズムを継承します。マンからの影響も顕著です。


​ ​ベニート=ペレス=ガルドスはスペインの写実主義作家で、ドノソはガルドスの細部へのこだわりを評価しました。ラテンアメリカの作家の多くがそうであるように、ドノソもフォークナーから一族の没落と土地の呪縛というテーマを学びました。


​ 同時代の​カルロス=フエンテス、​フリオ=コルタサルはライバルでした。

語りの構造

 主人公ムディート(「おし」)は、物語を通じて名前も姿も、さらには存在自体も変化し続けます。彼は他者の影になり、最終的には「インブンチェ」というすべての穴を縫い合わされた伝説の怪物へと変容していきます。私という確固たる中心が消滅し、複数の人格や意識が入り乱れることで、人間が個として成立することの不可能性を描いています。


​ ​物語の舞台のひとつラ・リンコナダは、醜いものや奇形の人々だけを集めた理想郷です。ここでは醜さが普通であり、唯一の美男子である主人の息子こそが怪物として扱われます。ドノソは、社会が規定する「美」や「正常」という概念がいかに脆弱で、残酷な欺瞞であるかを暴き出そうとしました。

マジックリアリズムと血の呪い

 ​アスコイティア家というチリの特権階級の崩壊が描かれます。厳格な家父長制や宗教的権威が、内部から腐敗し、無秩序に飲み込まれていく様が描かれます。子供が生まれない、あるいは怪物が生まれるといった再生産の失敗は、支配階級の血統や歴史の行き止まりを象徴しています。


​ チリ南部の伝説に登場する怪物インブンチェが重要なモチーフです。 体中の穴を縫われ、外の世界を遮断されたインブンチェは、究極の孤独と受動性の象徴です。


​ 最終的に古い女たちによって包みに縫い込められていくプロセスは、子宮への回帰であると同時に、絶対的な無への消滅を意味します。

物語世界

あらすじ

 チリの有力な貴族ヘロニモ=アスコイティアとその妻イネスには、なかなか子供が生まれませんでした。ヘロニモは自身の完璧な血統を残すことに執着しますが、ようやく生まれた息子「ボーイ」は、見るに堪えない異様な姿をした怪物でした。


​ ヘロニモは絶望し、息子が自分を醜い存在だと気づかないように、隔離された別荘ラ・リンコナダを建設します。そこには世界中から集められた奇形の人々や怪物が住まわされ、醜さこそが正常という歪んだ鏡の世界が作り上げられました。


​ ​物語の語り手は、かつてヘロニモの秘書であり、彼の伝記を書こうとしていた野心的な作家志望の男、ウンベルト=ペニャローサです。


 ​しかし、彼はヘロニモの圧倒的な存在感に屈し、次第に自分を見失っていきます。彼は名前を捨て、声を捨て、聾唖の召使ムディートとして、打ち捨てられた修道院ラ=チンバで40人の老婆たちに仕えながら生きるようになります。


​ ​物語のもう一つの舞台である廃墟のような修道院では、かつての乳母や使用人だった老婆たちが、ガラクタや迷信に囲まれて暮らしています。


 そこでは、ヘロニモの妻イネスの乳母であるペタ=ポンセという老女が、呪術的で不気味な影響力を振るっています。彼女はヘロニモへの復讐のように、アスコイティア家の秩序を精神的に侵食していきます。


​ ​やがて現実と幻想の境界は完全に崩壊します。ムディートは老婆たちによって、伝説の怪物インブンチェへと作り替えられていきます。彼は何重もの袋に縫い込められ、個体としての意識も肉体も失い、最後はただのゴミとして掃き出され、火の中に消えていきます。

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