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三島由紀夫『音楽』解説あらすじ

三島由紀夫
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始めに

 三島由紀夫『音楽』解説あらすじを書いていきます

語りの構造、背景知識

古典主義(ラディゲ、コクトー)

 三島由紀夫はラディゲ(『ドルジェル伯の舞踏会』肉体の悪魔』)、コクトー(『恐るべき子供たち』)といったフランスの古典主義文学に影響を受けています。私淑した二人にも相通じる、作品全体が合理的に構造としてデザインされた戯曲、家庭小説には佳品が多いです。

 ラディゲはコクトーなどのモダニスト、シュルレアリストと親交があって、前衛的な文学的潮流と接触していたものの、本人はフランスの心理小説(コンスタン『アドルフ』、ラファイエット夫人『クレーヴの奥方』)やロマン主義文学(ミュッセ)に習いつつ、古典的な小説スタイルでもって小説を展開していきました。『ドルジェル伯の舞踏会』もクラシックな心理小説『クレーヴの奥方』の翻案として、王宮文学としてのメロドラマを展開します。

 コクトーはシュルレアリストですが、本作はシュルレアリスムで重視された精神分析をテーマにします。

精神分析サスペンス

 全体的に本作は精神分析をテーマにするサスペンスです。三島は一時期、精神分析に関心を持ちましたが、次第に離れました。ヒッチコックにも『白い恐怖』『サイコ』など、精神分析や精神医学をテーマにしたサスペンス作品がありますが、ヒッチコックは三島が好んだ監督でした。

 ある秋の日、日比谷で診療所を開いている精神分析医の汐見和順のもとに、24、5歳の美しい女性患者弓川麗子が訪れます。麗子は食欲不振、嘔気、軽い顔面チックと、音楽がきこえないという症状を訴えていました。「音楽がきこえない」というのは、恋人の江上との性行為で「オルガスムスを感じない」という意味だと打ち明けます。

 やがて、麗子のトラウマが明かされます。麗子には大好きな10歳上の美男子の兄がいたものの、少女の頃にその兄に一度愛撫されたことや、昇仙峡の宿で兄と伯母との性行為を見てしまったことがありました。その後、兄は伯母との関係が親や世間に露呈して失踪したそうです。

 実は麗子の深層心理の中には、兄の子供を生みたいという願望がありました。それは、兄自身を自分の母胎へ迎え入れるために、その母胎を空けておくという願望です。麗子は兄以外の男の子供を妊娠する恐怖から不感症となり、無原罪の母胎を信じていました。そして麗子は自分自身の中のその無意識に気づきます。

 「兄の子」がすでにいることを見た麗子はその後、江上と結婚し、半年後、江上から汐見に、「オンガクオコル」という電報があったのでした。

物語世界

あらすじ

 ある秋の日、日比谷で診療所を開いている精神分析医の汐見和順のもとに、24、5歳の美しい女性患者弓川麗子が訪れます。麗子は食欲不振、嘔気、軽い顔面チックと、音楽がきこえないという症状を訴えていました。

 問診によると、彼女の実家は甲府市であるものの、親が許婚と決めた又従兄から無理矢理に処女を奪われ、彼を嫌ってS女子大卒業後も帰郷せずに東京で貿易会社の事務員に就職し一人暮らしをしていました。現在は同じ会社で知り合った恋人の江上隆一がいるといいます。

 後日、再び診察に訪れた麗子は、「音楽がきこえない」というのは、江上との性行為で「オルガスムスを感じない」という意味だと打ち明けます。江上を愛しているにもかかわらず、それによって彼から猜疑心をもたれ出し、愛想をつかされるのではないかと悩んでいます。

 麗子は診察を受けながらも時折、汐見医師に手紙を書き、子供の頃の記憶や心理的な夢に出てくる鋏の挿話を送ります。それは虚実入り混じったものでした。また、麗子は恋人の江上にわざと見られるように、汐見との仲を勘違いさせるような嘘の日記を付けたりしていましたが、やがて徐々に自分のトラウマを汐見に語り出します。

 麗子には大好きな10歳上の美男子の兄がいたものの、少女の頃にその兄に一度愛撫されたことや、昇仙峡の宿で兄と伯母との性行為を見てしまったことがありました。その後、兄は伯母との関係が親や世間に露呈して失踪したそうです。

 冬のある日、突然彼女が診察に来なくなります。麗子は、甲府にいる許婚の又従兄が肝臓癌で危篤となり、憎んでいたにもかかわらず、看病にいきました。そして麗子の報告の手紙によると、病人となった又従兄への献身的な看護の末、聖女のような気持になった彼女は瀕死の彼の手を握りながら、「音楽」を聞いたそうです。

 その後麗子は帰京し汐見の診療所を訪ねた後、伊豆南端のS市に一人旅に出かけ、旅先から汐見に手紙を送ります。麗子は観光ホテルで不能に悩む青年の花井と知り合っいます。

 数箇月後、再び診察室を訪ねた麗子は症状が再発し、ヒステリー状態でした。麗子は、しばらく花井と麹町のホテルに2人で住んでいたこと、花井の不能が治ると麗子は彼を嫌悪して、彼から逃げ出して追われていることを話します。しかし、その前に汐見を訪ねた花井の様子から、それが嘘だと感じた汐見は、麗子の心理を鑑みて、彼女が失踪していた兄に会ったのではないかという質問をします。図星を言われた麗子は驚愕し、本当のことを語り出した。

 実は麗子は江上と知り合う前に、失踪していた兄に会っていました。彼女が女子大の寄宿舎で暮していたときに兄が訪ねていました。兄は昔とすっかり変わりヤクザっのようになり、安アパートに酒場の女と暮していました。麗子を妹だと信じず嫉妬したその女は酔って兄と口論となり、麗子が本当の妹か証明するために、目の前で2人で寝てみろと挑発します。口喧嘩の末、兄は突然、麗子に接吻し襲いかかります。麗子は兄の或る切実なやさしさを感じとり、少女の時に兄に愛撫された甘い快感を見出します。女が目の前の2人が本当の兄妹だと直感し、行為を止めさせようとした時はもう遅かったのでした。麗子は兄が襲ってきたら鋏で兄を刺し殺そうと鋏を枕の下に隠したものの、それを彼女は手から離してしまいましあ。それ以来、鋏は麗子にとって、地獄に身を委ねた破廉恥な自分の良心をおびやかす象徴でした。その後、兄と女はアパートから引っ越します。

 汐見は荒療治に出ることにします。それは麗子の兄を探し出し、江上と自分の立会いのもと2人を対決させることです。

 ある日、テレビに山谷のドヤ街の特集番組に兄が映っているのを麗子が発見します。汐見と看護婦、江上と麗子の四人は、浅草山谷街の都電停留所と泪橋の停留所との左右にまたがる山谷へ行き、麗子の兄を見つけます。兄は背中に赤ん坊をおんぶし、コップ酒を呑み青白い顔でした。兄は妻を街娼に立たせて暮らしていたのです。狭い2畳の部屋で、麗子は兄の子を見つめ、「可哀想に」と赤ん坊の頬に自分の頬をすりつけます。

 麗子の深層心理の中には、兄の子供を生みたいという願望がありました。それは、兄自身を自分の母胎へ迎え入れるために、その母胎を空けておくという願望です。麗子は兄以外の男の子供を妊娠する恐怖から不感症となり、無原罪の母胎を信じていました。そして麗子は、「赤ちゃんのお母さん」と言うところを、「赤ちゃんの妹さん」と言い間違えたことで、自分自身の中の無意識に気づいたのでした。

 「兄の子」がすでにいることを見た麗子はその後、江上と結婚します。半年後、江上から汐見に、「オンガクオコル」という電報があったのでした。

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