始めに
ヘンリー=ジェイムズ『ある婦人の肖像』解説あらすじを書いていきます。
語りの構造
国際性
ジェイムズはアメリカ(ニューヨーク)生まれですが、若い頃からヨーロッパに長期滞在し、フランスやイタリアを旅し、最終的にはイギリスに帰化しました。彼の人生そのものが「アメリカ的背景」から「ヨーロッパ的文脈」への移動であり、その異文化的な距離感・観察者の立場が小説に反映されています。
ヘンリー・ジェイムズのテーマを「国際性(international theme)」と呼ぶのは、まさに批評史のなかでよく言われることです。
影響したメリメも『コロンバ』『マテオ=ファルコーネ』などにも、そのような制度論的な視座があります。
初期から中期にかけての代表作『アメリカ人』『デイジー・ミラー』『ある婦人の肖像』などでは、アメリカの「新世界」的な単純さ・純真さ・エネルギーと、ヨーロッパの「旧世界」的な洗練・伝統・複雑さの価値体系の衝突や交流を中心に物語が展開されます。批評家たちはこれを「国際テーマ」と呼び、ジェイムズ文学の重要な特徴とみなしています。
イザベルの結婚の不幸
本作はイザベルの結婚の不幸を描きます。ニューヨーク州アルバニー出身のイザベル=アーチャーは、母方の叔母であるリディア=タッチエットに招待され、父親の死後、ロンドン近郊の彼の邸宅にいるリディアの裕福な夫ダニエルを訪ねます。そこで、イザベルは彼女の叔父、いとこラルフ=タッチエット、そしてタッチエットの頑強な隣人、ロード=ウォーバートンに出会います。イザベルはウォーバートンや、カリスマ的で裕福なボストン工場の所有者の相続人であるキャスパー=グッドウッドのプロポーズも断ります。イザベルはキャスパーに惹かれるものの、独立願望から結婚を避けたのでした。家長のタッチエットは病気になり、息子のラルフの要請により、その死後、財産の多くをイザベルに残します。遺産を持って、イザベルは大陸を旅し、フローレンスでアメリカ人駐在員のギルバート=オズモンドに会います。イザベルは以前にウォーバートンとグッドウッドの両方を拒否していましたが、結局オズモンズのプロポーズを受け入れます。このオズモンド狡猾さと支配に悩み、結婚生活が破綻します。
ラストもオズモンドのもとを離れたのか、オズモンドから義理の娘パンジーを救い出して逃げたのか、解釈に委ねられています。
集合行為における一個のアクターの視点から描く心理劇
本作品とコンセプトとして重なるのは漱石『こころ』やロブグリエ『嫉妬』、谷崎潤一郎『卍』『痴人の愛』、芥川『藪の中』、フォークナー『響きと怒り』、リンチ監督『ブルー=ベルベット』と言えます。集合行為における一部のアクターを語りの主体にしたり、または一部のアクターにしか焦点化をしないために、読者も登場人物と同様、作中の事実に不確かな認識しか得られるところがなく、限定的なリソースの中で解釈をはかっていくことしかできません。
本作でも、イザベルにもっぱら焦点が設定され、夫オズボーンの娘パンジーの正体について、後半まであきらかになりません。
ロシアとフランスのリアリズムの影響。集合行為を追う物語
ヘンリー=ジェイムズという作家はツルゲーネフ(『父と子』『初恋』)を通じて知己を得たフローベール(『ボヴァリー夫人』『感情教育』)、ゾラ(『居酒屋』『ナナ』)、モーパッサン(『脂肪の塊』『女の一生』)などから影響を受けたことが知られます。そうした縁もあってロシアとフランスのリアリズム文学の影響を強く受けたのでした。またバルザック(『従妹ベット』『ゴリオ爺さん』)の作品をこのみ影響されました。
本作品もさながらドストエフスキーの『罪と罰』などを連想させられます。
他の作品では例えば冨樫義博『HUNTER×HUNTER』、ハメット『マルタの鷹』『血の収穫』、谷崎潤一郎『卍』、エドワード=ヤン監督『エドワード=ヤンの恋愛時代』などに近いですが、物語は偏に特定のテーマや目的に従うべくデザインされている訳ではなく、エージェントがそれぞれの選好、信念のもと合理性を発揮し、これが交錯する中でドラマが展開されていきます。このようなデザインは、現実社会における政治学・社会学(システム論、エスノメソドロジー)や制度論、国際関係論におけるリアリズム/リベラリズム/ネオリベラリズム/ネオリアリズムが想定する人間関係や国際関係に対するモデルと共通しますが、現実世界における実践に対する見通しとして経験的根拠の蓄積のある強固なモデルといえます。
メリメ、モーパッサンらの影響
ヘンリー=ジェイムズはモーパッサン(『脂肪の塊』『女の一生』)などから影響を受け、モーパッサンも枠物語構造をとりれた作品があって、それが永井荷風の『ふらんす物語』へ影響し、そこで「おもかげ」と呼ばれる作品をものしております。コンラッド『闇の奥』にもモーパッサンの影響があります。本作の非線形の語りはモーパッサン、それからメリメの影響が大きいでしょう。
メリメは『カルメン』のオペラ化が有名ですが、ゴシック文学を広く手がけております。伝聞による語りや翻訳文学のパロディなどを孕んだ、豊かな語り口が特徴の作風で、『カルメン』も枠物語の構造です。
ジェイムズの非線形の語りにはこうした作家の影響も関わります。
物語世界
あらすじ
ニューヨーク州アルバニー出身のイザベル=アーチャーは、母方の叔母であるリディア=タッチエットに招待され、父親の死後、ロンドン近郊の彼の邸宅にいるリディアの裕福な夫ダニエルを訪ねます。そこで、イザベルは彼女の叔父、いとこラルフ=タッチエット、そしてタッチエットの頑強な隣人、ロード=ウォーバートンに出会います。
イザベルは後にウォーバートンの突然のプロポーズを断ります。イザベルはまた、裕福なボストン工場の所有者の相続人であるキャスパー=グッドウッドのことも断ります。イザベルはキャスパーに惹かれるが、独立願望から結婚を避けます。
家長のタッチエットは病気になり、息子のラルフの要請により、その死後、財産の多くをイザベルに残します。遺産を持って、イザベルは大陸を旅し、フローレンスでアメリカ人駐在員のギルバート=オズモンドに会います。イザベルは以前にウォーバートンとグッドウッドの両方を拒否していましたが、結局オズモンズのプロポーズを受け入れます。
イザベルとオズモンドはローマに定住するものの、オズモンドの妻への愛情の欠如のために、結婚は破綻します。イザベルは、オズモンドの最初の結婚での娘と思われるパンジーが好きになり、若いアートコレクターであるエドワード=ロシエと結婚したいという願いを叶えたいと考えます。
卑劣なオズモンドは、パンジーがウォーバートンのプロポーズを受け入れることを願っています。
イザベルは、ラルフがイギリスの地所で死にかけていることを知り、見舞う準備をしたものの、オズモンドはそれに反対します。一方イザベルは、義理の姉から、パンジーは実際には、オズモンドと数年間不倫関係にあったマダム=メルルの娘であることを知ったのでした。
イザベルはパンジーを訪ね、パンジーはいつか戻るように必死に頼み、イザベルはしぶしぶそれに応えます。それからイザベルは、意地悪な夫に言わずに、イギリスで死にゆくラルフのもとへ戻ります。
グッドウッドは、ラルフの邸宅でイザベルに出会い、オズモンドを離れて彼と一緒に来るように彼女に頼みます。グッドウッドは情熱的に彼女を抱きしめてキスしたものの、イザベルは逃げます。グッドウッドは翌日彼女を探し出すものほ、イザベルはローマに向けて再出発したようです。
物語の結末は曖昧で、イザベルがオズモンドのもとに戻ったのか、それともパンジーを救い出してオズモンドを離れるのか、については暗示されるばかりです。




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