始めに
泉鏡花『天守物語』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
泉鏡花の口語的世界
泉鏡花は、尾崎紅葉の硯友社のメンバーで、そこから江戸文芸の戯作文学を参照しつつも、リズミカルな口語によって幻想的で性と愛を中心とする世界を描きました。
江戸文芸にあった洒落本ジャンルは、遊郭における通の遊びを描くメロドラマでしたが、鏡花も洒落本を継承して、花柳界におけるメロドラマを展開しました。また読本的な幻想文学要素、人情本的な通俗メロドラマからも影響されて、幻想文学、メロドラマをものした鏡花でした。戯作文学の口語的な豊かな語りのリズムを鏡花は継承しました。
本作も、中国幻想文学(志怪小説、伝奇小説、白話小説)を思わせる、とくに伝奇小説を思わせる、幻想的世界が特徴です。
異類婚姻譚
本作は『海神別荘』などのように、異類婚姻譚です。また、シェイクスピア『夏の夜の夢』のような、幻想的なモチーフをうまく絡めたドタバタと喜劇的メロドラマが特徴です。
姫路城天守閣五重。天守閣の最上階は異形の者たちが棲んでいます。主である天守夫人富姫も妖怪です。彼女の棲まう天守に武士の姫川図書之助がやってきて、やがて富姫は彼に惹かれます。そして最終的に、二人が結ばれてハッピーエンドになる顛末が描かれています。
物語世界
あらすじ
姫路城天守閣五重。天守閣の最上階は異形の者たちが棲んでいます。
晩秋の日没近く、主である天守夫人富姫が簑を付けて雲に乗って帰ってきます。今日は妹分の亀姫が空の旅路をはるばるとやってくるのに、姫路城主播磨守の鷹狩の一行が弓矢鉄砲を使って騒がしいから、夜叉ヶ池のお雪様に雨風を頼み、鷹狩の行列を追い散らしたそうです。
猪苗代(福島県)から亀姫一行がやってきます。亀姫が土産に持ってきた品は、播磨守と瓜二つの兄弟亀ヶ城の主武田衛門之介の生首でした。生首を喜ぶ富姫ですが、自分の用意していた土産、播磨守の家宝の兜では見劣りがすると言い、見せるだけにとどめます。
二人が手鞠に興じた後、鷹狩の一行に目をとめた亀姫が播磨守の白鷹を気に入り、富姫は鷹を捕らえ土産にしてあげます。
天守で薄明かりの中に富姫が一人佇んでいると、武士の姫川図書之助が階段を上って五重へとやってきます。何故来たのかと問う富姫に、鷹を失った罪で切腹を申しつけられたが鷹の行方を見届けることを条件に猶予を与えられたと語ります。富姫は図書之助の清々しさに心を打たれ、ここは人間が一度足を踏み入れたら、生かして帰さない場所だが、この度だけはと許して帰します。
戻る途中で妖かしに雪洞の灯を消された図書之助が、再び五重に現れます。約束を破ったことを富姫に咎められると、闇の中で梯子を踏み外し男の面目を失うよりは富姫に命を取られようとも、再び灯をもらいに来たと答えます。富姫は感銘を受け、惹かれます。そして鷹は自分がとったと明かし、筋道の通らない人間世界に帰したくないと引き留めます。しかし図書之助は世の中への未練があります。富姫はここへ来た証拠にと、秘蔵の兜を持たせて帰します。
下界へ戻った図書之助はお家の重宝を盗み出したと疑われ、追われてまた天守五重へやってきます。富姫は共に生きようと言い、二人は獅子の母衣に身を隠します。
やがて追っ手が迫り、獅子が両目を刺されると、富姫、図書之助をはじめ天守の世界の物は皆、失明し闇に迷います。二人が絶望し共に死のうとするところへ、獅子頭を彫った工人近江之丞桃六が現れ、獅子の目に鑿を当てます。
そして二人は光を取り戻します。桃六は二人を見守り、笑い声を立てるのでした。




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