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デリーロ『コズモポリス』解説あらすじ

ドン=デリーロ
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始めに

 デリーロ『コズモポリス』解説あらすじを書いていきます。

コンテンツ

デリーロの作家性

 デリーロはポストモダン文学の作家です。モダニズムを中心に影響を受けました。

 ジョイスからは文章の音楽性やエピファニーを描く手法において影響を受けています。​ガートルード=スタインのスタイルからも刺激が大きいです。フォークナーは意識の流れや、歴史記述の手法に共通性が見えます。

​ 映画からの影響も大きく、ゴダールやアントニオーニなどの​アート映画の感化があります。

 加えて​ニューヨークのブロンクスでイタリア系のカトリック家庭に育ち、キリスト教的背景を持ちます。

ホームランボールと歴史

 作品の象徴的なガジェットは、1951年の試合で打たれたホームランボールです。このボールが半世紀にわたって人々の手を渡り歩く様子を描くことで、デリーロは無名の個人たちの生活と、冷戦という巨大な国家の歴史がいかに密接に、時に無意識に結びついているかを証明しようとします。すべてはつながっているというパラノイア的な感覚はデリーロ作品にしばしばありますが、本作ではそれが野球のボールという物理的な物体によって可視化されています。

ゴミと歴史。冷戦と地下

​ ​主人公ニック=シェイの職業は廃棄物管理です。私たちが捨て去ったもの、忘れたいものこそが、その時代の真実を語っています。

 ニックが扱う「ゴミ」の中でも、最も厄介なのが核廃棄物です。消えることのない放射能のゴミは、冷戦が生み出した負の遺産であり、人類が永遠に背負い続ける「地下(アンダーワールド)」の記憶です。

​ ​冷戦時代、人々は核の恐怖(アンダーワールド)に怯えながらも、同時に敵と味方がはっきり分かれた世界に奇妙な安定を感じていました。ソ連が崩壊し冷戦が終わったことで、人々は共通の敵を失い、かえって世界がバラバラになったような不安に襲われます。地下深くの核シェルター、地下鉄のグラフィティ、人々の心の奥底にある秘密など、表の歴史には出てこない裏側の真実が、いかにして私たちの意識を形作っているかが描かれます。

物語世界

あらすじ

 主人公のエリック=パッカーは、超高層マンションの最上階に住む資産運用会社の若き天才です。ある朝、彼は「髪を切りたい」と思いつき、防弾仕様のハイテクリムジンに乗り込みます。目的地は街の反対側にある、幼い頃から通っている理髪店です。

 しかし、その日のマンハッタンは混沌としていました。反グローバリズムを掲げる過激なデモ隊の暴動や急逝した世界的スーフィ・ラッパーの葬儀行列によってリムジンは遅々として進まず、エリックは車内を「動くオフィス」として使いながら、愛人や部下、顧問たちと次々に面会していきます。

 ​エリックは車内で巨額の資産を動かしていますが、その日は「円」の相場に対して、会社の存亡をかけた強気な賭けに出ていました。しかし、彼の予測に反して円は高騰し続け、彼は莫大な損失を出し始めます。

​ 富がデジタルな数字として消えていく中で、エリックは自暴自棄な行動に出るようになります。自身のボディーガードを殺害し、偶然出会った妻(資産家の令嬢)との距離も縮まらず、彼は肉体的・精神的なスリルを求めるかのように破滅へと突き進みます。

 ​ようやくたどり着いた理髪店で、エリックは半分だけ髪を切り終えます。しかし、彼を殺そうとつけ狙う「ベノ・レヴィン」という男の存在が明らかになります。ベノはかつてエリックの会社で働いていた男で、システムから零れ落ちた「持たざる者」の象徴です。

 エリックは、廃墟のような建物に潜んでいたベノを見つけ出します。ベノはかつてエリックの会社で働いていた数学者でしたが、システムのスピードについていけず、社会からドロップアウトしました。

 ベノがエリックを殺そうとする理由は、個人的な恨みというよりも、あまりにも合理的で冷徹なシステムへの抵抗でした。エリックはベノの中に、自分が切り捨ててきた「生身の人間」の悲哀や混沌を見出します。

 ​対話の最中、エリックは突如として自分の手を銃で撃ち抜きます。これまでデジタルデータやモニター越しの世界で「万能感」に浸っていた彼にとって、自分を撃つことで感じる猛烈な激痛は、自分がまだ「生きた肉体」を持っていることを証明する唯一の手段でした。彼は破滅の果てに、ようやく生の実感を得ます。

 エリックの時計は、あらゆるデータをリアルタイムで表示する超高性能なものですが、ふとエリックが時計の画面を見ると、そこにはすでに射殺されて倒れている自分自身の死体が映し出されます。

​ ​物語は、ベノが銃を構え、エリックが自らの死を受け入れるところで終わります。

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