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クンデラ『笑いと忘却の書』解説あらすじ

ミラン=クンデラ
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はじめに

 クンデラ『笑いと忘却の書』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ルネサンスとバロック

 クンデラはルネサンスやバロック、ロマン主義の作家からの影響が顕著です。ラブレー(『ガルガンチュアとパンタグリュエル』)、セルバンテス、スターンなどで、セルバンテス『ドン=キホーテ』やスターン『トリストラム・シャンディ』のような形式主義的実験が本作にも見えます。

 またロマン主義のルーツとなったフィールディングなどの艶笑コメディからの影響も本作に顕著です。

 また幻想文学の影響も顕著で、カフカ(『変身』)からの影響は大きいです。カフカと重なるような黒い笑いとペーソスはクンデラの特徴です。

艶笑コメディ

 本作はモラヴィア(『軽蔑』)や川端(『眠れる美女』『みづうみ』)、村上春樹(『ノルウェイの森』)などのような艶笑コメディになっています。性と愛をテーマとしながら、笑いや忘却についての思弁が展開されていきます。

 こうした性愛と思索を絡めるデザインは、シュルレアリズムに影響したサド(『悪徳の栄え』)の文学を思わせます。サドが好んだフィールディングは、クンデラにも影響が大きいです。

笑いと忘却

 タイトルになっている「笑い」と「忘却」ですが、本作はこの2つをテーマにしています。そして、クンデラ自身が体験した、チェコスロバキアにおけるソ連とその喧伝するマルクス主義のイデオロギーとの緊張について物語ります。

 作品の中心的なコンセプトですが、「笑い」と「忘却」の2つについてそれぞれの重要な側面に着目し、どちらの極にも偏り過ぎないような中庸な生を目指そうとする、ルネサンス的ヒューマニズムが見て取れます。

 まず「笑い」ですが、笑いには天使の笑いと悪魔の笑いの2種類があります。世界の秩序や人生の価値(重さ)を称揚する天使たちに対して、世界の無秩序や人生の無価値さ(軽さ)を喧伝する悪魔たちですが、両者の均衡が大切です。このあたりは『存在の耐えられない軽さ』にも描かれています。

 真剣に捉えなくてはならず笑ってはいけないことがある一方で、笑うことを禁止するムードは時に深刻な抑圧をもたらします。そのようなムードの中での悲喜劇をクンデラは『冗談』で描きました。真剣にとらえることは大切なのですが、その教条主義にとらわれず笑うことだって同じくらい大切なのです。

 忘却にも、同様の両極があります。人や共同体には、そのアイデンティティや理想、正義のために、絶対に忘れてはいけない過去や記憶があります。そのことを忘れることは、アイデンティティを損なったり、歴史的な不正義から目を背けることに繋がります。

 他方で、しばしば人は忘れられないことによって苦しみます。それは過去のトラウマだったり失敗だったりしますが、それが忘れられないからこそ今を生きられず、前に進めないことがあります。そのことを忘却していたら正しい方向に進めない事柄が人や共同体にとってある一方で、その記憶に苛まれるために前に進めないこともあります。

 そうしたことから、笑ってはいけないことと笑うべきこと、忘れてはいけないことと忘れるべきことの間で、中庸な生を志向していくことかま要請されます。

語りの構造、構成

 語りはもっぱら異質物語世界の、作者の分身的存在によって展開されます。

 物語は7つのエピソードからなっていて、それぞれのエピソードは基本的に独立したストーリーで、それがそれぞれ「笑い」と「忘却」の先述の両側面を伝える、という内容です。

物語世界

あらすじ

失われた手紙

 1971年を舞台とし、ミレクがズデナとの思い出を辿る物語です。この醜い女性を愛していたという事実が、ミレクに傷を残します。傷心から、ミレクはズデナに送ったラブレターを破棄します。

 またズデナの家を往復する間、二人の男に尾行され、ミレクは自宅で逮捕されます。懲役6年、息子は2年、そして10人ほどの友人が1年から6年の刑を宣告されます。

 1948年2月21日の写真についても言及され、そこには、ウラジーミル=クレメンティスがクレメント=ゴットヴァルトの隣に立っています。ウラジーミル=クレメンティスは1950年に起訴された際、国家プロパガンダによって写真から、写真家のカレル=ハイェクと共に削除されます。

ママ

 義母が文句ばかり言うので、マルケタは義母を自分とカレルの家に招きます。日曜日には用事があるので土曜日には離れないといけなかったのに、母親は月曜日まで滞在することを強引に決めてしまいます。

 日曜日の朝、カレルとマルケタの友人であるエヴァがやって来て、マルケタの従妹として義母に紹介されます。エヴァはカレルと出会い愛し合い、カレルがエヴァとマルケタを会わせたのでした。

 マルケタの提案で、三人は何年もの間性的関係を持っていました。義母は危うく三人が行為に及んでいるところを目撃するところでしたが、エヴァがカレルの幼少期の友人を思い出させ、それを逃れます。

 こうしてカレルはますますエヴァに惹かれ、母親が去った後も、関係を続けます。

天使たち

 1968年のロシアによるチェコスロバキア占領後の出来事、とくにクンデラが知人の名義で星占いを書こうとした試みについて。
 クンデラの上司で、生涯の半分をマルクス・レーニン主義の研究に費やしてきた人物が、個人的な星占いを依頼します。クンデラはそれを十ページにまで膨らませ、その人物が人生を変えるための指針となるようなものにします。
 やがて、コードネーム「R.」で呼ばれるクンデラの知人が、クンデラの秘密裏の執筆活動について事情聴取を受け、場の雰囲気は愉快なものから緊張感のあるものへと変わります。
 さらにクンデラは「サークル・ダンシング」についても記しており、そこでの喜びと笑いが高まり、人々のステップが天高く舞い上がり、笑う天使たちとともに空へと飛び立っていくさまが描かれます。

失われた手紙

 カフェで働く亡命者のタミナは、プラハへ行く予定の客ビビを通して、亡くなった夫との記憶を損なわないよう、プラハにあるラブレターと日記を取り戻そうとしています。また、タミナに恋心を抱くもう一人の客、ヒューゴは、ビビがプラハに行けなくなったらタミナに協力すると申し出ます。

 ある日、ヒューゴはタミナを夕食に誘い、二人は一緒に動物園へ行きます。ダチョウの群れが、何かを警告するかのように、ヒューゴとタミナに無言の口を激しく動かし、タミナはプラハにあるラブレターと日記について嫌な予感を覚えます。小包に詰められているというそれは義母の手元にあるので、タミナは義母から受け取ってほしいと父親に電話します。

 何度も頼み込んだ結果、父親はタミナの兄弟に受け取ってもらうことに同意しますが、品物は小包に詰められておらず、タミナは自分の個人的な手紙や日記が他人に読まれることを恐れます。

 ビビは夫にうんざりしてどこにも一緒に行こうとしなくなり、プラハ行きはキャンセルされます。ヒューゴは助けを申し出て、再びタミナを家に招きます。ヒューゴは必死に彼女の心を掴もうとします。

 タミナは後にヒューゴと性交するものの、亡くなった夫のことが頭から離れません。ヒューゴは彼女の不安を感じ、行為を終わらせます。

 再びヒューゴはタミナと会話をしますが、タミナはヒューゴの話には興味がなく、プラハ行きの話にしか興味がありません。ヒューゴは次第にそのことに気づき、怒り始めます。タミーナはヒューゴの話にだんだんうんざりし、ついにはトイレで嘔吐します。ヒューゴはタミナが自分に全く興味がないことを知っており、彼女を助けることを拒否するのでした。

 結局、手紙と日記はプラハに残ることになります。

リトスト

 チェコ語の「リトスト」という言葉について、著者は解説します。クンデラは、この言葉は他の言語には正確に翻訳できないと述べています。クンデラによれば、「リトスト」とは「突然、自分の惨めさを目の当たりにすることによって引き起こされる苦悩の状態」です。クリスティナが愛するその学生には、この感情が常に存在しているようであり、それはまた、彼が元恋人と別れた理由の一つでした。

 ヴォルテールというあだ名の教授は、学生を国の偉大な詩人たちの夜会に招待します。しかし、その夜、学生はクリスティナとデートの予定があり、会への出席を断ります。そして、会の当日、ヴォルテールはクリスティナと出会います。彼が会について話すと、彼女はすっかり魅了され、この機会を逃すまいと学生にも会いに行こうと誘います。学生は同意し、会に出席します。そして偉大な詩人たちに会い、議論や論争を聞きます。

 この経験を通して、学生は多くのことを学びます。学生は、作者がゲーテと名付けた詩人の一人に、自分の本に献辞を書いてくれるよう依頼し、クリスティナにその本を贈ります。

 学生が家に戻ると、クリスティナが待っていました。彼女は献辞に感動します。二人は性行為こそしなかったものの、互いの計り知れない愛を感じます。学生はクリスティナに何度も両足を開かせようとするものの、クリスティナは妊娠して命の危険にさらされることを恐れます。そのため、そうすることで自分が死んでしまうと言い続けるのでした。学生は、長い間離れているとクリスティナが自分の計り知れない愛で死んでしまうと誤解します。学生は深く心を動かされ、すぐに眠りに落ちます。

 翌朝目覚めると、コートの中にクリスティナからのメモが入っていました。思い返し、昨晩の彼女の言葉を誤解していたことに気づきます。彼はリトストを感じたが、クリスティナは既に去ってしまったため復讐はできません。

詩人の一人が学生に近づき、栄光で満たし、学生の絶望を和らげてくれます。

天使たち

 タミナに戻ると、著者は彼女の苦悩を父親の死と重ね合わせます。彼女は謎めいた船旅で島へと渡り、そこで多くの子供たちと共に漂流します。

 子供たちにからかわれても気にしませんが、最終的には脱出を試みて溺れます。

国境

 45歳の主人公ヤンの多彩な性生活を巡る物語。

 乱交シーンを描写しながら、著者はクレヴィス家の進歩主義を批判します。

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