はじめに
村田喜代子「鍋の中」解説あらすじを書いていきます。
背景知識
語りの構造
タイトルからわかる通り、芥川「藪の中」のオマージュめいた、信頼できない語りです。
本作は高校生のたみ子が語り手となり、それとたみ子の弟と二人の従兄弟の四人で、夏休み中を祖母の家で数日過ごします。
祖母は記憶がおぼつかないのですが、その祖母の口から、実はたみ子の母親は祖母の妹の娘である「麦子」であり、亡くなっていると語られます。祖母の記憶は鍋の中のもののように蕩けていて当てにはならないけれど、母親が別にいるという疑念はたみ子のなかに残り、真相は藪の中、という内容です。
南部ゴシックとフォークナー
本作はフォークナー作品と、手法、主題の点で重なります。
フォークナーの作品は南部ゴシックと形容され、これはホーソン(『緋文字』)、メルヴィル、トウェイン、ポー(『アッシャー家の崩壊』)などのアメリカのゴシック文脈を先駆とし、保守的風土のなかでの悲劇を描くジャンルです。『八月の光』では、そこにおけるアイデンティティの苦悩が描かれます。
また、フォークナーは、意識の流れの手法を用いて、一人称的な経験を通じて、それを経由した歴史の記述を試みました。『響きと怒り』でもそうですが、一人称的な意識の流れのなかで、過去の歴史が縦横に語られていきます。
「鍋の中」もそれと同様に、たみ子が田舎で経験する、アイデンティティの苦悩を描きます。祖母の信頼できない一人称的な経験と記憶を通じた語りから、たみ子は自分のアイデンティティを揺るがされ、実存的な葛藤を経験します。
物語世界
あらすじ
ある夏、80歳の鉦おばあさんの住む田舎に四人の孫が同居することになります。わたしこと17歳のたみ子と中学生の信次郎の姉弟、従兄の19歳の縦男とその妹17歳のみな子の四人です。おばあさんのところにハワイに住む弟の病気が伝えられ、四人の親はハワイに出かけ、子どもたちがおばあさんのところに預けられたのでした。
ところが、おばあさんはその弟のことを知らないといいます。13人いたおばあさんの兄弟たちの12人までは名前は覚えているものほ、この弟の名前だけは出てこないのです。さらに、おばあさんは精神に異常をきたして座敷牢に入れられた弟や駆け落ちをした兄弟の話をします。
やがて祖母の口から、実はたみ子の母親は祖母の妹の娘である「麦子」であり、亡くなっていると語られます。祖母の記憶は鍋の中のもののように蕩けていて当てにはならないけれど、母親が別にいるという疑念はたみ子のなかに残り、真相は藪の中なのでした。




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