始めに
マン『ファウストゥス博士』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
リアリズムの影響
トーマス=マンは、リアリズム文学からの影響が顕著です。
特に影響を受けたのが、フォンターネというドイツの詩的リアリズムの作家で、シニカルでリリカルなリアリズムを特徴とします。
またロシアの写実主義からも影響が大きく、ニコライ=ゴーゴリ、イワン=ゴンチャロフ、イワン=ツルゲーネフ(『父と子』『初恋』)に見える自己批判は、本作にも顕著に見えます。
ドイツなどのロマン主義の影響
マンはゲーテ(『ファウスト』『若きウェルテルの悩み』)を終生尊敬していました。ゲーテは古典や形式を重視する古典主義者であると同時に、作家や個人の主体性や形式主義的実験を重んじるロマン主義者としての側面があり、どちらかというとマンは前者の古典主義者としてのゲーテからの影響が顕著で、守旧的なスタイルを特徴とします。
本作はゲーテ『ファウスト』のようにファウスト伝説を下敷きにしますが、ファウスト自身を描くものではなく、ファウストの伝説に惹きつけられ、ファウストをモチーフに創作を手がけようとする音楽家アドリアンを描きます。
またゲーテのロマン主義を継承するレフ=トルストイからも影響が顕著です。
物語世界
あらすじ
ザーレ川沿いの架空の小さな町カイザースラウテルンに生まれた語り手ツァイトブロムと主人公アドリアン。それぞれカトリックとルター派の出身です。
二人は、カイザーザシェルのドイツ系アメリカ人オルガン奏者、講師、音楽学者であるウェンデル=クレッチマーによって音楽に目覚めます。一緒に学校に通った後、二人ともハレで勉強します。アドリアンは神学を学ぶものの、ツァイトブロムはただ神学を学ぶ学生たちとの議論に参加するのみです。アドリアンは、形而上学と音楽のハーモニー、対位法、ポリフォニーに夢中になり、クレッチマーに師事するためライプツィヒへ向かいます。
ツァイトブロムは、アドリアンに梅毒を媒介した女性(「エスメラルダ」とあだ名される)と交わったこと、彼女の名前を音符暗号で作曲に取り入れたこと、そしてアドリアンを治療しようとした医師たちが謎の介入によって治療を阻止されたことを描写しています。
アドリアンは他の友人たちと親交を深めていくにつれ、ツァイトブロムは悪魔的なものを感じ始めます。翻訳家のリュディガー=シルトナップと、その後ミュンヘンに移り住んだ後、ハンサムな若いバイオリニストのルディ=シュヴェルトフェガー、ロッデ夫人と彼女の死を待つ娘のクラリッサとイネス、貨幣学者のクラニヒ博士、レオ=ツィンクとバプティスト=シュペングラーという2人の芸術家と親交を深めます。
アドリアンは、ミュンヘンから1時間離れた田舎のプファイフェリング(バイエルン町ポリングがモデル)でシュヴァイゲシュティル家と出会い、そこは後にアドリアンの永住の地および隠れ家となります。
1912年、アドリアンはシルトナップとともにイタリアのパレストリーナに住んでいて、ツァイトブロムが訪ねてきます。そこで、シェイクスピアの『恋の骨折り損』のオペラ化のための音楽に取り組んでいたアドリアンは、自分の著した手記のなかで、メフィストフェレスという人物と長い対話をします。この悪魔は、エスメラルダがアドリアンを罠にかける道具だと話し、愛の温もりを捨てるなら、梅毒の潜伏期間とされる24年間の天才としての人生を与えると申し出ます。
その後、アドリアンはファイフェリングに永住し、ツァイトブロムとの会話の中で、人生に悲観しているのを伝えます。ハイム=ブライザッハー博士のような悪魔的な人物が登場し、音楽論評を展開します。
1915年、イネス=ロッデはインスティトーリスと結婚するものの、ルディ=シュヴェルトフェガーと不倫します。アドリアンは嘔吐、頭痛、偏頭痛などの病に苦しみます。
1919年8月までに、アドリアンは『デューラーの木版画による黙示録』の草稿を完成させます。また、美術専門家のセクストゥス=クリドヴィス、ハイム=ブライザッハー、古動物学者のエゴン=ウンルーエ博士、文学史家のゲオルク=フォーグラー、デューラー研究家のホルツシューア博士、そして陰気な詩人ダニエル=ツーア=ホーエら知識人の新しい友人の輪も生まれます。グループはブルジョア的なものに反発し、中世以前の厳格さの時代に備える必要があると宣言します。アドリアンはツァイトブロムに、集団主義こそがブルジョア文化の真のアンチテーゼであると書き送っており、ツァイトブロムは、耽美主義は野蛮の先駆けであると捉えます。
1926年、フランクフルトでオットー=クレンペラー指揮の『黙示録』が上演されます。ツァイトブロムはこの作品を、希望のない憧憬に満ち、地獄の笑いが天体や天使の焼けつくような音色にまで変容した作品だと説明しています。
ルディが依頼した協奏曲を作曲したアドリアンは、ルディを愛の使者として雇うことで契約を逃れ、マリー=ゴドーを妻として得ようとします。しかし、マリーはルディを愛し、アドリアンには興味をみせません。その後すぐに、ルディは嫉妬からイネスに路面電車の中で射殺されます。
1928年、アドリアンが第2オラトリオ『ファウスト博士の嘆き』の計画を始めると、妹の子供であるネポムクが彼のもとにやってきます。
ネポムクは病気になり、死亡します。絶望したアドリアンは、悪魔との契約に違反して愛情を込めて彼を見つめてしまったことで、ネポムクを殺してしまったと信じます。
1930年に『ファウストス博士の嘆き』の楽譜が完成し、アドリアンは友人や客を招待し、そこで発狂してしまい、10年後に亡くなるまで続く脳の病気に陥りました。
参考文献
・村田 經和『トーマス=マン』



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