始めに
トーマス=マン『魔の山』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
リアリズムの影響
トーマス=マンは、リアリズム文学からの影響が顕著です。
特に影響を受けたのが、フォンターネというドイツの詩的リアリズムの作家で、シニカルでリリカルなリアリズムを特徴とします。
またロシアの写実主義からも影響が大きく、ニコライ=ゴーゴリ、イワン=ゴンチャロフ、イワン=ツルゲーネフ(『父と子』『初恋』)に見える自己批判は、本作にも顕著に見えます。
ツルゲーネフ『煙』では、さまざまな主義主張階級の登場人物が織りなす物語が印象的ですが、本作も近い魅力が宿ります。
ドイツなどのロマン主義の影響
マンはゲーテ(『ファウスト』『若きウェルテルの悩み』)を終生尊敬していました。ゲーテは古典や形式を重視する古典主義者であると同時に、作家や個人の主体性や形式主義的実験を重んじるロマン主義者としての側面があり、どちらかというとマンは前者の古典主義者としてのゲーテからの影響が顕著で、守旧的なスタイルを特徴とします。
またゲーテのロマン主義を継承するレフ・トルストイからも影響が顕著です。
神秘的な魔の山
物語はスイスのアルプスの高地にあるダボスの国際サナトリウム「ベルク=ホーフ」を舞台として、ここが魔の山というタイトルの示すロケーションです。
途中、ハルツ山地のブロッケン山に舞台が転換し、これはゲーテの『ファウスト』にも描かれます。リヒャルト=ワーグナーのオペラ『タンホイザー』に現れるヴェーヌスベルクにも言及が見え、こうしたトポスの影響を受けつつ、魔の山は独特な時間の流れる、神秘的でグロテスクな、死の世界として描かれています。
ドイツの縮図としての魔の山
魔の山はまた、ドイツ社会の縮図です。ロドヴィコ=セテムブリーニ、レオ=ナフタなど、当時のドイツやヨーロッパ世界に典型的な人間を配置し、その縮図のような描かれ方をしていて、このあたりはツルゲーネフ『煙』などとも重なります。
全体主義を支持するユダヤ人のイエズス会士レオ=ナフタは、セテムブリーニと反対にヒューマニズムを批判し、病気をたたえ、テロを肯定し、共産主義的な神の到来を説きます。両者の間では、常に大論争が展開されます。
最終的に、主人公のカストルプは、魔の山のニヒリズムと死の崇高な雰囲気に取り憑かれて、第一次大戦に参加し、死亡したことが示唆されています。
物語世界
あらすじ
物語は、第一次世界大戦から遡ること10年間に始まります。主人公は、ハンブルクの商家の一人っ子、ハンス=カストルプです。両親が早くに亡くなった後、カストルプは祖父に育てられ、その後、ジェイムズ=ティーナッペルという母方のおじに育てられます。カストルプは20代前半で、故郷のハンブルクで造船の仕事に就こうとしていますが、仕事を始める前に、彼はスイスのアルプスの高地にあるダボスの国際サナトリウム「ベルク=ホーフ」で療養をしている結核のいとこ、ヨーアヒム=ツィームセンを訪ねます。
カストルプは慣れ親しんだ生活と義務を離れ、山の空気と療養所の内省的な世界を訪れます。ここでは下の世界を「平地」と呼んでいるそうです。
予定の三週間も終わる頃、療養所からのカストルプの出発は、自身の健康状態の悪化によって何度も先延ばしになります。最初は気管支感染症と思われたものの、療養所の主治医兼所長であるホーフラート=ベーレンスは、結核と診断します。石灰化した病巣の他に新しい浸潤箇所があるといわれ、レントゲン撮影の結果もそれと一致します。カストルプは、サナトリウムに患者として滞在するようにベーレンスに説得されます。
「魔の山」の住人になったカストルプは第一次大戦前のヨーロッパを代表するさまざまな人物に出会います。カストルプの師匠を自称するロドヴィコ=セテムブリーニは、西欧の文明文化の代表として、死と病気を敵視し、徹底的な合理主義と進歩主義を信奉するイタリア人ヒューマニストで、百科全書学者です。「魔の山」が青年に悪影響を及ぼすことを危惧し、カストルプに元の世界に戻ることを忠告します。しかしもともと死に関心があり、暗い死を持つスラブ系のニヒリズムを内にたたえたようなショーシャ夫人に魅了されているカストルプは、「魔の山」から脱出する気持ちはないのでした。
全体主義を支持するユダヤ人のイエズス会士レオ=ナフタは、セテムブリーニと反対にヒューマニズムを批判し、病気をたたえ、テロを肯定し、共産主義的な神の到来を説きます。両者の間では、常に大論争が展開されます。
従兄のヨアヒムは一向に病状が改善しないので、山を降りて、軍務につきます。カストルプは、下山の許可は出たものの理由をつけて山にとどまります。帰ることを忘れたカストルプを叔父ティーナッペルが迎えに来るものの、「魔の山」の人になったカストルプを目の当たりにし、叔父は逃げ帰ります。従兄のヨーアヒムは、病状を悪化させてサナトリウムに戻り、喉頭結核を併発して4か月あまりで亡くなります。
カストルプは結局サナトリウムに7年間滞在します。
小説の終結部では第一次世界大戦が始まり、カストルプは軍隊に志願し、戦場で彼の死が暗示されます。
参考文献
・村田 經和『トーマス=マン』




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