始めに
ゾラ『居酒屋』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
自然主義
ゾラはフランスの自然主義を代表する作家です。
ゾラが自然主義の理論書たる『実験小説論』で構想したのはベルナールの医学、行動を決定する要素の科学、テーヌの歴史学を参照にしつつ、人間の社会的実践の構造的理解を試み、それを美学的再現のレベルで反映しようとしたものでした。
ダーウィン『進化論』やベルナール『実験医学序説』など、行動を決定する要因についての医学、遺伝学、社会学的知見を背景に、人間の社会的実践の美学的再現を、家族や遺伝的要因に焦点を当てて試みようとするコンセプトから、ルーゴン・マッカール叢書は展開されていきます。
ルネサンス以降の絵画が解剖学的知見を背景に人体の構造的なデッサンを試みたのと同様に、ゾラも人間の社会の中での行動、実践を科学によって構造的に把握、再現しようとしたのでした。
社会主義への転換と、楽観主義、保守主義
エミール=ゾラは、やがて科学への信頼から自然主義から空想的社会主義文学へと晩年変化していきます。
ゾラの作品は暗く陰鬱な内容ですが、実際のゾラやルーゴン・マッカール叢書は、人類の進歩や未来に楽観的です。ルーゴン・マッカール叢書も、人間や社会に存在する問題に焦点を当てて描き、それを改善していくことで、漸進的に社会は進化していくという、エドマンド=バークや柳田國男の保守主義とも重なるコンセプトのもと展開されていきます。作品の中に描かれるフランスの暗い現実は、科学と理性によって乗り越えることができるし、それによってよりよい未来を作れます。
結局、空想的社会主義への移行も、ルーゴン・マッカール叢書が、人類と科学の進歩への楽観的信頼に基づく内容であったからで、科学への信頼が高じてそうした路線へ進んでいきました。
ゾラの人物再登場法
本作など、ゾラのルーゴン・マッカール叢書のシリーズでは、人物再登場法が使われます。
これはバルザック(『従妹ベット』『ゴリオ爺さん』)などがまず用いた手法で、シリーズ連作のなかで同じキャラクターが役割を変えて再び登場する手法です。
これによってゾラはフランス社会の歴史や人間関係を立体的な厚みをもって展開していきます。
人物再登場法の手法は、フォークナー(『アブサロム、アブサロム!』『響きと怒り』)のヨクナパトーファ・サーガなどへと継承されていきます。
物語世界
登場人物
- ジェルヴェーズ・マッカール :足が不自由。ランティエとの間に14歳でクロードを、18歳でエチエンヌを産みます。クーポーと結婚後に洗濯屋を開業。クーポーとの間にアンナを産みます
- アンリ・クーポー :ジェルヴェーズの夫。ブリキ屋根職人。屋根から落下し怪我をし、アルコール依存症になります。
- オーギュスト・ランティエ :ジェルベーズの内縁の夫。帽子屋。クロードとエティエンヌの父。駆け落ちして失踪。後にクーポー夫妻の店にたかりにきます。
- クロード・ランティエ :ランティエとジェルヴェーズの長男。『制作』の主人公。1842年生まれ。
- エチエンヌ・ランティエ:ランティエとジェルヴェーズの次男。グージェと共に鍛冶場で働きます。『ジェルミナール』の主人公。
- アンナ・クーポー :クーポーとジェルヴェーズの娘。造花女工になるが、後に家出。『ナナ』の主人公。
あらすじ
若く美しいジェルヴェーズ は、クロード とエティエンヌ という息子2人と恋人のランティエ とパリに住んでいます。ランティエは失踪し、置き去りにされたジェルヴェーズは困窮します。しかしジェルヴェーズはクーポー という労働者を知り、二人は結婚し、アンナ という娘が生まれます。ジェルヴェーズはやがて、洗濯屋を開きます。
ある日、通りにいるナナを見るために、クーポーは窓の近くに寄り、転落し大怪我を負って働けなくなります。そして酒に溺れます。
またランティエが戻ってきて三人が同居します。クーポーはジェルヴェーズを叩くようになり、ランティエはよく働くジェルヴェーズとの関係を復活させる。ジェルヴェーズの同居は周囲の反感を買って店は廃れ、ランティエは去り、クーポーは発狂して死にます。
ジェルヴェーズは孤独死し、死後2日たって発見されました。
参考文献
・尾崎和郎『ゾラ』
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