始めに
川端康成『古都』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ドストエフスキー,谷崎流の心理リアリズム、モダニズム(ジョイス、横光利一)、少女小説(内藤千代子)
川端康成が好んだ作家はまずドストエフスキーなどの心理リアリズム作家で、サリンジャー(『ライ麦畑でつかまえて』)にも似た理想主義的な少女の表象はまずドストエフスキー(『地下室の手記』『虐げられた人々』)の影響を伺わせます。
また谷崎の影響も顕著で、『雪国』『山の音』『眠れる美女』『みづうみ』といった代表作は、『痴人の愛』『卍』『過酸化マンガン水の夢』といった谷崎のモダニズム、心理劇、古典趣味とかなり重なります。
また内藤千代子の少女小説風の少女の表象が印象的です。
本作は生き別れになった双子の少女、佐田千重子と苗子の交流の物語です。老舗呉服商の一人娘として育った捨て子の娘千重子は、北山杉の村で見かけた自分の双子の村娘と祇園祭の夜にめぐりあうという内容です。
谷崎の古典趣味と心理劇
主人公・千重子が平安神宮で桜を見る場面では、谷崎潤一郎の『細雪』からの「まことに、ここの花をおいて、京洛の春を代表するものはないと言ってよい」という一節が引用されており、川端は全体的に谷崎の古典趣味と心理劇の影響が顕著です。
谷崎潤一郎は英仏の象徴主義、古典主義からの影響が顕著です。オスカー=ワイルドの作品は『ウィンダミア卿夫人の扇』などを共訳で翻訳していますし、『サロメ』的なファム=ファタールを描いた『痴人の愛』もあります。スタンダール(『赤と黒』『パルムの僧院』)的な心理劇、古典主義も谷崎に顕著に影響していて、日本の王朝文学への関心もフランスの心理主義文学、宮廷文学への関心と結びついています。
谷崎潤一郎『細雪』はそうした谷崎の古典趣味が遺憾なく発揮された、京都のアッパーミドルの家族を描く物語です。
本作も京都を舞台にして、古典的な趣味の光る物語になっています。四季の美しい自然や京都の伝統的美を背景に、物語は展開されます。
正直微妙な内容
本作は川端の代表作みたいに言われますが、代表作といっても通俗的中間小説的路線で、しかもあまりよくないです。
なんでかというと、まず川端康成はプロットを作ったりするのが苦手です。谷崎潤一郎、三島由紀夫、川端康成はなんとなく作風が似ているのが誰でも感じると思いますが、この三人は谷崎から川端と三島、川端から三島と、影響関係にあります。影響関係にあって三人とも演劇を手掛けたり関心を持った時期がある点も共通なんですが、この中だと戯曲の才覚は三島、谷崎、川端の順であって、三島はウェルメイドなプロットのデザインが巧いです。谷崎はそこまで下手ではないけど文章や語り口、視点の設定でもっと光る部分があって、戯曲は相対的によくないので本人もすぐ離れています。川端もちょっと興味を持って自分で手掛けるのはせずに終わりました。才能のベクトルとしては谷崎と近いですが、プロットを作るのは谷崎よりさらに苦手です。
川端だと『雪国』『山の音』『眠れる美女』『みづうみ』は行間で語る心理劇として成功しているんですが、ただプロットとか物語の筋のデザインは川端は不得意で、川端に三島のような端正な戯曲とか中間小説は書けません。
本作も生き別れの双子の再会とか冗談みたいな設定ですが、筋もべたべたで感傷的で、文章の練度は高いものの、川端の構成力の低さを物語っています。
物語世界
あらすじ
京都中京の呉服問屋の一人娘の佐田千重子は、自分が捨て子ではないのかと悩んでいます。両親は否定し、20年前に祇園さん(八坂神社)の夜桜の下に置かれていた可愛い赤ちゃんをさらって逃げてきたと千重子には説明します。
5月のある日、千重子は友達の真砂子と北山杉を見にいきますが、真砂子は北山丸太の加工の仕事をしている村娘の中に千重子とそっくりな娘を見つけ、千重子に指し示します。
夏、祇園祭の夜、千重子は八坂神社の御旅所で七度まいりをしている娘を見つめます。その娘も千重子に気づくと見つめてきて、涙を流します。娘はあの北山杉の村娘で、名は苗子でした。2人はお互いの身の上を語り合い、とりあえず別れます。
苗子は身分の違いから、千重子を「お嬢さん」と呼びます。四条大橋のたもとで、西陣織屋の息子で職人の秀男が、苗子を千重子と間違えて声をかけます。千重子が好きな秀男は、自分の考案の柄で帯をおらしてくれと言います。
後日、千重子の家に図案を持ってきた秀男に、千重子は自分に双子の姉妹がいることを告げ、苗子の分も杉と赤松の山の帯を織って届けてほしいと頼みます。それをきっかけに秀男は苗子に惹かれ、時代祭に誘います。
一方、千重子の家と同じ問屋の息子で、幼馴染の水木真一の兄・竜助が千重子の店にやって来て、番頭の裏帳簿を正そうと店を手伝います。竜助の父親は、息子を佐田家に婿養子に出してもいいと申し出ます。
苗子は秀男に結婚を申し込まれ、それを千重子に告げます。千重子は賛成するものの、苗子は、秀男が千重子の幻を愛していることを知っていて、自分のことが公になれば、千重子に迷惑がかかると考え、プロポーズを断るつもりでした。千重子は、父も母も苗子を引き取ってもいいと話していることを苗子に告げると、苗子は感謝し、一泊だけ千重子の家に行きます。
冬の夜、千重子と苗子は一緒の床に寝ます。千重子はずっと側にいてくれるよう言いますが、苗子はお嬢さんの幸せに支障があってはならないと考え、雪の朝早く、山の村へ帰ります。
参考文献
小谷野敦『川端康成伝-双面の人』(2013.中央公論新社)




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