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弥生小夜子『風よ僕らの前髪を』感想レビュー

ミステリー
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はじめに

 弥生小夜子『風よ僕らの前髪を』感想レビューを書いていきます。

ランク
B

基本情報

あらすじ

 弁護士の立原恭吾が何者かに殺害されます。妻の高子は密かに養子の志史を疑い、かつて探偵事務所に勤務していた甥の若林悠紀に彼の調査を依頼します。

 悠紀にとって志史は従弟であり、家庭教師として教え子の一人です。若林悠紀は事件の真相を探ります。

著者

 弥生小夜子。1972年神奈川県生まれ。白百合女子大学卒。第30回鮎川哲也賞に投じた『風よ僕らの前髪を』で、優秀賞を受賞しデビュー。

所感

本格というよりサスペンス

 全体的に本格というよりサスペンスです。鮎川哲也賞は本格ミステリーの賞なので、若干のカテゴリーエラー気味でありつつ、広義のミステリーだし読み物としての完成度から、優秀賞という形で受賞させた、みたいな感じかと思います。

 本格というよりサスペンス、というのは、探偵役が経験的根拠から推論を働かせたり、ミステリー的な意外性があったりという要素が希薄で、視点人物が関係者に聞き込みして、だんだん事件全体があきらかになる、というよくあるサスペンスのデザインになっているからです。

 作品は全体的にメロドラマ中心です。サスペンスとしては、キャラクター設定やプロットなど、ウェルメイドでありつつ、新鮮さはあまりありません。

良くも悪くも新人離れ

 本作は耽美もののサスペンスで、萩尾望都さんとか竹宮惠子さんが好きならしっくりくる人も多いと思います。

 読んでいて思ったのは、「良くも悪くも」新人離れしている、ということです。良い意味では、文章が洗練されていて、鮎川哲也賞でも上位に入る文章の練度だとは思います。悪い意味で新人離れしているというのは全体的に人工的で浮世離れしている印象が強く、近いのは連城三紀彦とか川上宗薫とかですが、つまるところ一昔前の中間小説を参照して書かれたテイストで、新人らしいフレッシュな感性とか世界観、描写力のようなものがうかがえず、伝統的なウェルメイドなスタイルを単に小器用になぞっている印象です。そういう意味あいにおいては、新人ならではの独創性に欠いています。

 また全体的に登場人物が作り物じみていて、登場人物が多くいる中、書き分けに失敗しているとは思わないものの、極端にステレオタイプな悪人描写も目立ちます。

 全体的に古いスタイルの中間小説のガワをそのままなぞっている印象で、それに対する批評性から固有のスタイルを創造するには至っていない印象です。文章も物語も、ある程度の水準になっているものの、固有の表現には至っていません。

総評

 耽美ものでちょっと古くさいスタイルで人を選ぶ気持ちはするものの、完成度は低くないです。

コメント

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