始めに
小松立人『そして誰もいなくなるのか』感想レビューを書いていきます。
| ランク |
| B(おまけ) |
基本情報
著者
小松立人。1974年大阪府生まれ。大阪市立大学卒業。沖縄県在住。2023年、第33回鮎川哲也賞に投じた、『そして誰もいなくなるのか』で優秀賞を受賞。本書が単行本デビュー作。
あらすじ
ミステリ作家デビューを夢見る小松立人は、学生時代に家庭教師先のタンス預金二千万円を、知人同士四人で盗みました。ほとぼりの冷めた十年後、盗んだ金を掘り起こすために集まった小松たちは、崖崩れに巻き込まれて死亡します。
しかし彼らは、死神から一週間の猶予期間を申し渡され、事故の七日前に戻ります。期間中は仲間を殺害すれば相手の残りの寿命を奪うことも可能です。死までの一週間、小松はこの奇妙な出来事を小説に仕立てて新人賞への投稿を目指しますが、メンバーは次々やられてしまいます。
所感
本格サスペンスとして
正直つまらなかったです。選考委員の選評では麻耶さんの感想が一番腑に落ちました。
『そして誰もいなくなった』オマージュのSFサスペンスで、このジャンルは市川『ジェリーフィッシュは凍らない』や乾くるみ『リピート』など無数にありますが、中心人物が少なくフーダニットを中心に据えるのが難しいジャンルとしての傾向がある(関係者の数名は序盤で退場する、途中退場した死亡偽装の可能性がある描写のキャラが犯人と目星をつけやすい)ので、ミッシングリンクとかハウダニット、ワイダニットとか別の部分がミステリーの中心になりがちです。
本作もそうで、大半の人は、犯人は終盤にもうこいつくらいしか目立ったキャラクターが「他に誰もいなくなった」くらいのメタ的理由で目星をつけられてしまい、「なぜ数日しか余命をのばせないのに殺すのか」というワイダニットや何が起こっていたかというワットダニット?が前面に出ている内容です。ワットの方はわかりやすい犯人から逆算できちゃうので、麻耶さんも評価していたワイダニットがメインですが、それもすごく面白いわけではなく、麻耶さんが指摘するように、「ほかのメンバーを殺すとその分生きられる」という設定が本当にこの動機のためだけの設定に近いため逆算もしやすいです。また例えば「遺産相続の都合」とかみたいな、仮説としては、わりとすぐ思いつくワイダニットです。それ以外には米澤『インシテミル』のようなルールの意表を突くような要素も驚きもとくに希薄で、読み物としても弱いです。
ラストも辻さんが選評でリドルストーリーとしては白黒見えすぎでいまいち、みたいに言っているんですが、出版されたものは最終選考に残ったものと内容が違うだろうしよくわからないのですが、仄めかすラストとはいえ作品のタイトルから結末は明らかでしょう。でもメタ的意匠もひから始まる漫画家の某作品とか、某乱歩賞関連作品など先例がある他愛ないもので、いまいちで、その結末にカタルシスも少ないです。
設定
選評では麻耶さんなどから死神による特殊設定に合理的意味合いが与えられていないことをとくにネガティブにとらえていますが、正直それ自体は根本的な問題とは個人的に思いません(だいたい麻耶さんの『名探偵木更津悠也』『神様ゲーム』シリーズにしても、特殊設定の背景描写は希薄ですし、努めてそうすることで作品の質があがることはないだろうし、省くのがスマートです)。
むしろ特殊設定がワイダニットのためだけのガジェットになっていて、トリックや意外な発想のそこからの派生に他に致命的に欠いているために設定倒れになっていることこそが問題な気がします。『シンプル=プラン』みたいな不正に手にした金を巡る設定やどうせ余命をのばしても仕方ないのになぜか殺人が起こる不条理な状況はサスペンスの掴みとしてはわるくないものの、回収のしかたがいまひとつです
キャラクター
サスペンスとしても乾『リピート』みたいに悪い意味で薄っぺらくてクズみたいなキャラばかりで、正直誰も彼もいなくなったほうが世の中のためにはなりそうで、感情移入もしづらいです。
そういう人物描写に結末として演出上の意味合いは与えられているものの、そもそもそういうデザイン自体が子供の語りや手記のような体裁で拙い描写を合理的に展開するに似て、陳腐で凡庸で、読ませる工夫にたらないです。
総評
全体的にサスペンスとしても本格としてもいまいちです。




コメント