始めに
太宰治『お伽草紙』解説あらすじを書いていきます。
背景知識,語りの構造
芥川の影響。童話パロディ
太宰治は芥川龍之介の影響が大きく、本作も芥川が『桃太郎』などで試みたような、童話のパロディ小説になっています。
芥川に影響したオスカー=ワイルド(『サロメ』『ウィンダミア卿夫人の扇』)のような、シニカルな文明批評を盛り込んだ、象徴主義風の寓話が印象的です。
性格悲劇の瘤取り
「瘤取り」では、原作のいいおじいさんと悪いおじいさんを、酒飲みじいさんと生真面目爺さんに置き換えています。
脚色のテーマとしては、性格の悲劇としてのデザインが特徴です。シェイクスピアにおける性格悲劇では、『マクベス』『オセロー』などのように、たいてい野心、猜疑心など悪の性格に由来して主人公などが破滅していきますが、本作では酒飲みじいさんも生真面目じいさんも悪人ではなくて、ただ周りからの誤解やすれ違いで、本人にとっての悲劇が起こってしまいます。
別に悪人などいなくても、すれ違いや誤解、相性から人間関係における悲劇は起こりうるということを作品はメッセージとして伝えます。シェイクスピア『ロミオとジュリエット』的なすれ違いの悲劇を展開しています。
自由と、老いの幸福の浦島
「浦島さん」は自由と老いをテーマにする物語になっています。
大まかな流れは原作どおりですが、作中では自由の気怠さと老いの幸福が描かれています。竜宮城では何をするのも許されているのですが、浦島はやがて、その自由に飽きてしまい、現実に戻ります。そして現実に戻って、お土産の貝を開いて老人になり、幸福に暮らします。
太宰治は若い頃から感情のままに疾風怒濤の人生を歩み、混乱のなかで自殺しましたが、そんな太宰にとって、老いて性や恋愛などの自由がなくなる不自由な暮らしこそが、それゆえに穏やかで自由な幸福なものと捉えられたのかもしれません。
カチカチ山とファムファタール
カチカチ山の狸のモデルは小山清によると、太宰の弟子でボート競技でオリンピックにも出た田中英光とされています。
本作では狸は大して悪くもない汚い中年で、それが残酷な『サロメ』的なファムファタルである、兎に殺されてしまうまでを描きます。狸は馬鹿で善良で、兎に惚れていて、最期まで兎の殺意に気がつきません。
グランギニョルな物語の中で、少女の残酷さと男の能天気さをテーマにしています。
不幸な妻と舌切り雀
太宰治はロシア文学、特にドストエフスキー(『貧しき人々』『分身』)やチェホフからの影響が顕著です。チェホフ『桜の園』の影響で『斜陽』が書かれたことはよく知られています。
ドストエフスキーは、バルザック(『従妹ベット』『ゴリオ爺さん』)狂だったのでしたが、バルザックは妹を溺愛し、妹たちが不幸な結婚をしたことから、作品において不幸な妻(『従妹ベット』など)を描きました。ドストエフスキーもそこから影響され、不幸な妻の自殺を描く「やさしい女」はブレッソンの映画化も有名です。
舌切雀においても、不幸な妻であるお婆さんが描かれます。お婆さんは人が良く世捨て人で、まるで生活力のないお爺さんに振り回されて、死んでしまいます。けれどもそのあとで、おじいさんは富を得て幸福に暮らします。
ヴァルダ監督『幸福』を思わせる、幸福の裏にある悲劇的なお婆さんの犠牲を描きます。
物語世界
あらすじ
瘤取り
酒飲み爺さんは、家族が真面目で孤独を感じていて、瘤を気に入っています。生真面目爺さんは、学も財産もあり、瘤を邪魔だと思っています。
温和な性格の鬼と遭遇し、酒飲み爺さんがほろ酔い気分で踊ると、鬼たちは笑い転げます。鬼たちは爺さんの瘤を預かったら、また爺さんが来てくれるかもしれないと考えて、大切な瘤を取ってしまいます。
酒飲み爺さんの話を聞いて、邪魔な瘤を取ってもらおうとやって来た生真面目爺さんも、鬼たちの前で踊ります。しかし、その頑張る姿を見て、鬼たちは興ざめ。逃げようする鬼たちに、生真面目爺さんは瘤をとってくれと頼みます。鬼は酒飲み祖父さんから預かった瘤を要求していると勘違いし、生真面目爺さんに瘤をつけます。
浦島さん
浦島太郎は、旧家の長男です。浦島はいつも人の噂や批評をしている兄弟を見てはうんざりします。
ある日、浦島が砂浜を歩いていると、前に助けたカメがお礼がしたいと言います。浦島は嫌がりますが、カメは食い下がり、勢いに飲まれて竜宮城へ向かいます。
竜宮は、お客さんにただひたすら「許可」を与える場所です。食べるとほろ酔いになる「桜桃の花びら」などがあります。しかし、そのうちに浦島は、無限の自由にも飽きて、家に帰ろうとします。浦島は乙姫から土産に「五彩を放つ貝」を渡されます。
帰り道に、カメは貝は開け無いほうがいいと言います。浦島が地上へ戻ると、村や家族が消えていました。もらった貝を開けると、白い煙に包まれて300歳の老人になります。
貝はギリシャ神話の「パンドラの箱」と似て、開けるなと言われる故に開けたくなります。
300歳になった浦島は、決して不幸ではありませんでした。思い出は遠く隔たるほど美しい。それに年月は、人間の救いで、忘却は、人間の救いです。浦島は、それから10年、幸福な老人として暮らしました。
カチカチ山
兎は、16歳の純真な美少女、狸は37歳の醜悪な中年男になっています。
狸はお婆さんを引っ掻いてしまい、兎はその復讐を試みます。
兎は、いつも狸のことを汚いと馬鹿にしていましたが、復讐のために寛容な態度をとります。狸は、それを自分への好意と誤解します。それから狸は兎に虐待をを受けるのですが、兎に惚れているので、されるがまま。
兎は原作通りに狸をどろ船に乗せ、どろ船が沈み、狸は助けを求めるものの、兎はそんなオールで頭を殴って殺します。
女性にはすべて、この無慈悲な兎が一匹住んでいるし、男性には、あの善良な狸がいつも溺れかかってあがいている、と語り手は言います。
舌切雀
お爺さんは、虚弱体質の30代の男性。お婆さんはお爺さんの妻で、現実的で嫉妬深い女性になっています。
世捨て人のようなお爺さんが、助けた雀と話をしていると、お婆さんが若い娘と話をしていると誤解。問い詰めるものの、お爺さんは雀と話をしていたと言います。本当なのですが嘘と捉えてお婆さんは怒り、また助けた雀に嫉妬していたこともあり、雀の舌を切断します。
雀は逃げ去り、お爺さんは雀を探しに竹藪を探ります。そしてある冬の日「雀のお宿」に招かれます。帰りにお爺さんは、荷物が重いのは嫌だからとお土産を受け取らず、雀のお照るさんの髪飾りの「稲穂」だけもらって帰ります。
お爺さんから雀のお宿について聞いたお婆さんは、そこへ行きます。そして、お土産に選んだ大きな駕籠が重くて起きられず、その場で凍死します。その駕籠には、金貨がいっぱいでした。
その後まもなくお爺さんは仕官して、一国の宰相になります。世間は彼を「雀大臣」と呼び、この出世は雀に対する彼の愛情の結実だと考えました。
お爺さんは、それに対し苦笑して「いや、女房のおかげです。あれには、苦労をかけました。」と言います。
参考文献
・野原一夫『太宰治 生涯と作品』




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