始めに
デュジャルダン『月桂樹は切られた』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
意識の流れの先駆
この作品の最大のテーマは、人間の意識のありのままの姿を捉えることです。外部で起きている出来事よりも、主人公ダニエル=プランスの頭の中に浮かぶ、断片的でとりとめのない思考、感情、記憶をリアルタイムで描写することに重点が置かれています。 読者は主人公の脳内に直接入り込んだような感覚を味わいます。これは後にジェイムズ=ジョイスなどの文豪に多大な影響を与えた意識の流れの先駆けとなりました。
物語のプロットは非常にシンプルで、主人公が思いを寄せる女優レアに振り回される数時間の出来事を描いています。 主人公はレアに貢ぎ、彼女に冷たくあしらわれてもなお、自分に都合の良い解釈をして執着し続けます。彼女に会いに行く高揚感、疑念、絶望、そして自己欺瞞。都会に生きる青年の、滑稽でいて切実な独りよがりの愛がテーマとなっています。
タイトルの意味
19世紀末のパリを舞台に、レストラン、馬車、街路といった日常的な風景が、主人公の主観を通して描かれます。 都会を歩きながら、目に入る風景から次々と連想を広げていく現代的な個人の姿が浮き彫りにされています。
タイトルはフランスの古い童謡「もう森へは行かない、月桂樹は切られた(Nous n’irons plus aux bois, les lauriers sont coupés)」の一節から取られています。かつてはそこにあった輝きや夢、あるいは純粋な恋愛の時代が終わってしまったことを示唆しています。月桂樹が切られたという言葉は、主人公の淡い期待が打ち砕かれる結末や、ロマン主義的な愛の終焉を象徴しているとも解釈できます。
物語世界
あらすじ
舞台は4月のパリ、午後6時から深夜まで。
若き法律家のダニエル=プランスは、仕事帰りにウキウキしながらパリの街を歩いています。目的は、思いを寄せる女優レアと会うこと。彼は彼女を清らかな理想の女性だと思い込み、頭の中は彼女との甘い妄想でいっぱいです。
彼はレアに会う前に、彼女に頼まれていたお金(500フラン)を用意し、花を買います。読者は彼のモノローグを通じて、彼が実はお金に困っていることや、レアにいい顔をしたいという見栄っ張りな性格を少しずつ知ることになります。
二人はレストランで食事をします。ダニエルは彼女に夢中で愛を語り、彼女のご機嫌を伺いますが、レアの方はどこか上の空。彼女にとってダニエルは、生活費を工面してくれる都合のいいパトロンの一人に過ぎない雰囲気が漂います。
食事の後、ダニエルは今夜こそは彼女と結ばれるはずだと期待して彼女の自宅までついていきます。しかし、レアはのらりくらりと彼をかわし、結局ダニエルは彼女の部屋に入れてもらえず、玄関先で追い返されてしまいます。
深夜、一人で夜道に取り残されたダニエル。あんなに高揚していた気分はどこへやら、彼は自分の滑稽さや、レアとの関係が結局は金銭的なものでしかないことに薄々気づき始めます。しかし、それでもなお、彼は明日への未練を捨てきれないまま物語は終わります。




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