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ラルフ・エリソン『見えない人間』解説あらすじ

ラルフ・エリソン
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始めに

 ラルフ・エリソン『見えない人間』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

エリソンの作家性

 エリスンは、黒人文学の枠に留まらず、西洋文学の伝統を深く吸収しました。​T.S. エリオットは​エリスンが最も衝撃を受けた一人です。特に詩作『荒地』における、バラバラな断片を統合する手法や、神話と現代を融合させるモダニズムの技法に強く影響を受けました。ドストエフスキーの​特に『地下室の手記』は、名作『見えない人間』の構造的・精神的なモデルとなりました。社会から疎外された語り手が地下から声を上げるという設定は、ドストエフスキーへの直接的なオマージュといえます。メルヴィル『白鯨』や『ベニート・セレーノ』などを通じ、アメリカ社会の深層にある道徳的葛藤や象徴表現を学びました。


 ​アメリカという国家のアイデンティティを問う作家たちからも多くを学んでいます。トウェイン『ハックルベリー・フィンの冒険』における言語感覚や、アメリカ的なリアリズム、そして人種問題への鋭い洞察を高く評価していました。エリスンはヘミングウェイのスタイルにも刺激されました。フォークナーは南部という土地の複雑な歴史と人間関係を描く手法において、同じく南部出身のエリスンに大きな示唆を与えました。


 ​リチャード・ライトは​エリスンの若き日のメンターです。ライトに勧められて書評を書き始めたことが、作家としてのキャリアの第一歩となりました。
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 ルイ=アームストロングなどのジャズ音楽は、彼の文体や即興的な構成に直接影響を与えています。彼はジャズはアメリカの民主主義の象徴であると考えていました。​説教、民話、遊び歌など、黒人文化に根ざした口承文芸を文学的象徴へと昇華させました。

タイトルの意味

 テーマは物理的に姿が見えないことではなく、他人の偏見によって、存在を無視されるという心理的・社会的な透明性です。白人も黒人も、主人公を一人の個人として見るのではなく、自分たちが勝手に作り上げた黒人のイメージというフィルターを通して見ています。誰からも正しく認識されないことで、主人公は自分は本当に存在しているのかという深い孤独とアイデンティティの危機に陥ります。


​ 主人公は物語を通じて、さまざまな組織や人物からこうあるべきだという役割を押し付けられます。大学の学長からは従順な黒人であることを求められます。政治組織ブラザーフッドからは、組織の理論を代弁する象徴であることを求められます。他人が用意した仮面を次々と脱ぎ捨てた末に、ようやく地下室で自分自身の声を見つけ出します。

個人の疎外と克服

 エリスンは、個人を特定の理論や政治目的の道具として扱うあらゆる組織を批判的に描いています。​組織は平等の追求を掲げながらも、個人の複雑な感情や現実は無視し、数学的なデータや抽象的な理論としてしか人間を扱いません。この個人と組織の葛藤は、人種を問わず現代社会に生きる多くの人が共感する普遍的なテーマです。

 ​またエリスンにとって、音楽は単なる背景ではなく、生きるための知恵でした。決まった楽譜がない中で自分の音を奏でるジャズのように、不条理な世界で自分だけの生き方を模索する姿勢が描かれています。悲惨な現実を認めつつ、それを笑いやリズムで乗り越えるというブルース的感覚が、物語の語り口そのものに反映されています。

物語世界

あらすじ

 物語は、アメリカ南部で白人に従順であることこそが成功への道と信じて育った主人公の高校卒業時から始まります。


​ 白人の有力者の前でスピーチをする機会を得ますが、その前に目隠しをされ、他の黒人少年たちと殴り合いをさせられる屈辱的な余興を強いられます。


​ 奨学金を得て黒人大学に進みますが、白人の理事を見てはいけない場所(黒人の貧困やスキャンダル)に案内してしまったことで学長から激怒され、退学処分を受けてニューヨークへと送り出されます。
​ ​都会に出た彼は、職を転々としながら自分の価値を証明しようともがきます。リバティ・ペイント工場で純白の塗料を作るために働きますが、そこには黒い染料を混ぜることでより白くなるという、アメリカ社会の皮肉なメタファーが隠されていました。彼の弁論の才能を見込んだ政治組織ブラザーフッドにスカウトされます。彼は組織のスポークスマンとしてハレムのスターになりますが、次第に組織が自分を一人の人間としてではなく、単なる宣伝の道具として利用していることに気づきます。


​ ​事態は、黒人ナショナリストとブラザーフッドの対立、そしてハレムで起きた大規模な暴動へと突き進みます。暴動の最中、彼は白人からも黒人からも、そして組織からも追われる身となります。追っ手から逃れるうちに、彼は偶然マンホールの中に転落してしまいます。


​ 彼はそのまま地上に戻ることをやめ、盗んだ電気で1,369個の電球を灯した地下室に引きこもります。そこで彼は、自分が見えないのは、周りの人間が自分を見ようとしないからだという真理に到達し、これまでの半生を振り返る手記としてこの小説そのものを書き始めます。


​ ​エピローグで、彼はいつまでも地下に隠れているわけにはいかないと語ります。自分自身の存在を定義できるのは、他人の目や組織の論理ではなく、自分自身の言葉だけであることを悟り、彼は透明な人間としての責任を果たすために、再び地上へ出る準備を整えて物語は終わります。

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