始めに
アリオスト『狂えるオルランド』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
アリオストの作家性
アリオストに最も直接的な影響を与えたのは、同じフェラーラ宮廷の先輩詩人ボイアルドです。 アリオストの『狂えるオルランド』は、このボイアルドの未完の作品の続きとして書かれました。カール大帝の勇士オルランドが「恋をする」という設定自体、ボイアルドの発明です。
ルネサンス人文主義の教養人として、アリオストは古代の文豪から叙事詩の骨組みを学びました。ウェルギリウスの国家的な英雄叙事詩の構成や、格調高い文体を参考にしています。アリオストの持つ軽妙でファンタジックな筆致は、オウィディウスの影響が濃厚です。カトゥルス、プロペルティウスなど、恋愛詩の繊細な感情表現において影響を受けています。
アリオストは、当時人気のあった2つの物語群を、見事にマッシュアップさせました。フランス文学の武勲詩、ブリテン文学のアーサー王伝説です。
ダンテ『神曲』の地獄や天界の描写、あるいは幻想的な旅の描写、ペトラルカの恋愛心理の描き方や、イタリア語としての詩の美しさから影響されました。
タイトルの意味
タイトルの通りテーマは愛が人間をいかに狂わせるかです。キリスト教世界の最強騎士であり、理性の塊だったはずのオルランドが、美女アンジェリカへの失恋によって正気を失い、全裸で暴走します。これはどんなに優れた人間でも、情熱の前では理性を失うという人間心理の極限を描いています。アリオストは、高潔な騎士道を賛美する一方で、愛に振り回される彼らをどこか冷めたユーモアを持って描いています。
物語の構造自体が、登場人物たちが何かを追いかけて彷徨う終わりのない探索になっています。誰かが誰かを追いかけ、別の誰かがそれを追うという連鎖が続きますが、彼らが望むものを手に入れることは滅多にありません。
騎士アストルフォがオルランドの理性を取り戻すために月へ行くエピソードは象徴的です。地上で失われたものはすべて月にあるとされ、そこには失われた時間、無駄な努力、叶わぬ願いが山積みになっています。
運命と冒険
ルネサンス期の人々にとって重要な関心事だった運命の力が強調されています。人間の計画や実力とは無関係に、偶然の出来事が物語をあらぬ方向へ転がしていきます。アリオストは、世界を人間がコントロールできないカオスな場所として捉えていました。
勇気、礼節、寛容といった騎士道の美徳が描かれます。騎士ルッジェーロと女戦士ブラダマンテの恋と結婚は、アリオストのパトロンであるエステ家の起源として語られます。彼らの苦難と結末は、パトロンへの最大級の賛辞となっています。
物語世界
あらすじ
カール大帝率いるキリスト教軍と、アフリカ王アグラマンテ率いるイスラム教軍が、フランスのパリを舞台に激しい戦争を繰り広げています。戦況は一進一退。魔法や新兵器が飛び出し、手に汗握る攻防が続きます。
キリスト教側最強の騎士オルランドは、東洋の美女アンジェリカに一目惚れし、任務を放り出して彼女を追いかけ回します。しかし、高貴なオルランドを差し置いて、アンジェリカは負傷した敵軍の無名の若者メドーロと恋に落ち、結婚してしまいます。
二人が愛を誓い合った刻印を森で見つけたオルランドは、ショックのあまり発狂。鎧を脱ぎ捨て、全裸で木を引き抜き、牛を素手で引き裂くなど、文字通りの狂戦士となって暴走します。
友人である騎士アストルフォが、伝説の怪鳥ヒポグリフに乗って月まで行き、そこで瓶に詰まったオルランドの理性を回収。彼に嗅がせることで、ようやく正気を取り戻させます。
アリオストのパトロン(エステ家)の先祖とされる二人の物語も展開されます。敵味方に分かれたルッジェーロ(イスラム側の勇士)とブラダマンテ(キリスト教側の女騎士)の恋愛が描かれます。魔法使いアトランテが、ルッジェーロを戦死から守るために魔法の城に閉じ込めたり、異国へ飛ばしたりと邪魔をします。数々の試練を乗り越え、ルッジェーロはキリスト教に改宗。最後には宿敵ロドモンテを倒し、二人は結婚して物語は大団円を迎えます。




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